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政府・与党の「医療制度改革大綱」について

公的保険医療を縮小し皆保険制度を根底から崩す政府案に反対する

                     2005年12月1日
全国保険医団体連合会政策部長
 津田光夫

 政府と自民、公明両党は12月1日、「医療制度改革大綱」を決定しました。「骨太方針05」に基づき、医療保険給付費の伸びを「経済財政と均衡」させて抑制し、総枠管理することを最大の目標に掲げました。そのため、「公的保険給付の内容・範囲の見直し等を行う」として、患者負担増と診療報酬の引き下げ、生活習慣病対策や平均在院日数の短縮という抑制策を打ち出しました。あわせて、公的医療保険制度の都道府県単位化によって、保険給付費と保険料が連動する仕組みを導入し、抑制効果を担保する計画です。

 政府案は、国が本来守るべき国民の健康、医療への責任を放棄し、「健康の自己責任」や医療機関への官僚統制のシステム化、地方自治体への責任と負担の押しつけなどを進めながら、競合とペナルティによって機械的に医療保険給付費を抑制するものです。

 政府案がねらうところは、官製市場を民間開放するという構造改革の新たな段階において、日本の医療制度を日米の医療関連業界、保険業界に市場開放する、すなわち医療保険制度の「公私2階建て」化による国と大企業の負担削減、企業利益のための医療市場の創出・拡大です。

 この間、患者・家族団体と医療界あげての運動により、2008年度からの乳幼児医療費軽減の対象年齢拡大を盛り込み、実質負担が4割以上にもなる保険免責制導入や一般病床の食費・居住費自己負担化など、経済財政諮問会議や財務省の要求が先送りになったことは、大きな成果です。しかし、政府は「都道府県医療費適正化計画」を3年目の段階でも検証するとしており、今後、これらの短期的な抑制策が再浮上する危険性があります。公的保険医療の縮小に大きく舵をとる医療制度構造改革は、国民と医療従事者が築き上げてきた、皆保医療制度を根底から崩そうとするものであり、断じて認められるものではありません。

 政府案は、保険給付費の伸びを総枠管理するため、「経済規模と照らし合わせ」、5年後及び将来の保険給付費の見通しを「目安となる指標」として定め、「一定期間後」に「指標と実績とを突き合わせ」て検証、その結果を抑制策に反映させる方針です。

 厚労省の保険給付費の将来推計が過大であることが関係者から指摘されており、それを前提とした総枠管理の導入や公的保険医療の縮小は必要ないものです。また、政府案がうたう「安心・信頼の医療の確保」からいっても、保険給付費が「指標を超過」しても「一律、機械的、事後的な調整」を行わないことは当然のことです。

 そもそも財政に国民の健康をあわせるシステムづくりなど本末転倒であり、国民の健康・福祉を確保するために財政確保に努めることこそ政府の責務です。

 また、保険給付費の抑制のために、先進国中最も重い患者の実効負担にも係わらず、さらに厳しい患者、国民負担増を押しつける計画です。小泉首相自らが65〜69歳の高齢者について3割負担維持を指示し、70〜74歳の2割負担引き上げをはじめ高齢者の外来と入院に係わる患者負担増、75歳以上全員からの保険料徴収、高額療養費自己負担額の引き上げなどが明記されました。公的保険給付を減らし患者の自己負担へ転嫁することは、患者負担増に加えて、それに伴う受診抑制によって保険給付費を抑制しようとするものです。医療を受ける機会をさらに奪うことは健康悪化=医療費増の悪循環とともに、国民の生存権とりわけ高齢者の人権を損なうことであり断固反対します。

 診療報酬改定について、2006年度改定は「保険財政の状況等」を理由に「引き下げの方向で検討し、措置する」としました。政府は過去最大の引き下げ幅とする方向という。公的保険医療の給付範囲と医療内容などを規定する診療報酬を引き下げることは、医療機関に過度のリストラ・合理化を強要し、政府案で評価した世界でも「高い保健医療水準」の低下を招くことになり、到底、容認できるものではありません。

 政府案は「予防の重視」として、全国民を対象に生活習慣病対策の強化を謳っているが、国は数値目標など基本方針と計画を定め、「支援措置」を行うだけで、その実施は健康関連機器など産業界も参画する「国民運動の展開」と、都道府県、保険者に責任転嫁して競わせようとするものです。労働環境の悪化など健康悪化の背景や健診等の受診を阻害する要因を解決し、早期発見・治療によって重症化を防ぐなど、国民の“有病率”を引き下げることで医療費の水準を安定させるよう国が十分な施策を講じるべきです。

 また、抑制効果をあげるための地域別診療報酬設定の制度化について、「不適切な格差が生じないよう配慮」することが明記はされたが、数値目標が未達成の場合には罰則的な診療報酬が設定される危険があります。診療報酬マイナス改定の継続化にも繋がり、国民に等しく安心、安全の公的保険医療を保障する診療報酬の役割からして、導入することには反対です。

 平均在院日数の短縮についても「全国標準」の数値目標などを定め都道府県単位で競わせるとともに、「病床転換を進めるため医療保険財源を活用」する計画です。厚労省は、人口当たりの病床数が少ない長野県の入院日数を機械的に全国に当てはめることや、「外来受診回数」「地域医療カバー率」などの「全国標準」の指標を提案。また、都道府県による医療機関の情報提供の制度化では、医療機関に義務化する情報として、「平均在院日数」や「明細付き領収証発行の有無」「セカンドオピニオンの実施」などを示しています。機械的な「全国標準」の導入・法制化は、地域での受け入れ体制がないままに「病院からの追い出し」、外来受診回数の制限・誘導など官僚統制的なシステムづくりに繋がり、地域の医療提供システムに混乱をもたらしかねないものです。

 政府案が「医療費の無駄」を問題視するならば、製薬大企業の高利益率を保障している高い医薬品や医療機器・材料の是正など真の医療費適正化を行うべきです。そして先進諸国の中で患者の実効負担は際だって高いにも関わらず、GDPに占める医療費は最低という歪んだ状態を改め、日本の「経済力」を活かして医療費水準を引き上げることです。我々は、これ以上の公的保険医療の縮小を許さず、皆保険医療制度の充実をめざして、国民的な運動に引き続き尽力するものです。           

                                     以上