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06年度 医科診療報酬改定について

全国保険医団体連合会
副会長 川崎美榮子

 今次改定はマイナス3.16%(本体▲1.36%、薬価・材料価格▲1.80%)もの大幅引き下げとされ、とりわけ医療における基礎的技術料であり、医療機関の経営原資でもある診療所の初診料、再診料、外来診療料が引き下げられ、診療所及び中小病院での大幅な減収は避けられません。

 歯科においても深刻で、かかりつけ歯科初・再診料は廃止されましたが、それに見合う初・再診料はいっさい評価されず、実質大幅引き下げとなります。歯科医療機関の多くは存続の危機に見舞われることとなります。

 医療水準を落とさず、安全で安心な医療を提供するためには、物価や人件費のコストに見合う診療報酬の引き上げが最低限必要であることを私たちは訴えてきましたが、この改定内容は到底納得できる内容ではありません。今次改定の詳しい内容は、今後出される告示、通知の内容を見ないと不明な点が多いが、現段階での主要な特徴と問題点を指摘します。

特徴の第一は、初診料の病診格差を解消するとして、病院は引き上げられたものの、診療所は逆に4点引き下げられ、病院診療所共通の270点となりました。初診料は過去に一度も引き下げられたことはなく、今回の改定で診療所の医師の技術をないがしろにして引き下げを断行したもので、強く抗議します。病院は今までが低すぎたのであり引き上げられても十分な評価とはいえるかどうか疑問です。

また再診料は診療所71点(マイナス2点)、病院57点(マイナス1点)に、外来診療料は70点(マイナス2点)に引き下げとなりました。過去には、2003年の逓減制廃止時に診療所、病院とも1点の引き下げがあったことを除き、保険診療始まって以来の暴挙です。初診料の改善とともに直ちに厚生労働省宛に引き上げ要求を提出したい程です。算定頻度の最も高い点数でこれだけで診療所は1ヶ月あたり少なくとも10万円以上の減収、病院も初診料の引き上げがあったものの、再診料や外来診療料の算定が多ければマイナスになるおそれがあります。

診察料は医師個人のものではなく医療機関の運営の費用であり、医療の質をよいものにしていくためものです。なんとしてもそれに見合った報酬が必要です。

第二にはこれまで在宅では対応しきれなかった重症の入院患者を医療費適正化対策の名の下に、在宅に切り替える改定を行ったことです。急性期入院における平均在院日数要件の短縮とともに、それにより退院を迫られる重症患者の受け入れ先として、在宅療養支援診療所を新設し、従来より高い点数を設定するとともに、連携体制の評価や24時間対応できる体制等の算定要件も設定されました。在宅といっても家には戻れないケースがありますが、介護保険施設は満員であり、今後増やされるであろう「特定施設」(有料老人ホーム、グループホーム)が医療を担うという期待しての点数配分でしょう。退院後状態が悪くなったからといって安易に急性期病院に来ないでそのまま家で最後を迎えてくれという厚労省の声が聞こえてくるようです。

これにより、在宅における末期医療についてはまず在宅療養支援診療所が担うという想定ですが、この要件を満たせない診療所との二極分化が進むことが危惧され、地域によっては在宅医療が崩壊しかねないものです。このような改定ではなく、地域全体でどのように安心、安全の医療を実現していくのかという視点に立って、在宅医療の充実を図るべきです。

第三は慢性期の入院医療については、医療保険適用の療養病床医療の必要性に基づく患者分類を用いた包括評価が導入されました。患者を「医療の必要性の高い患者」と「医療の必要性の低い患者」を分け、評価に差を設ける内容です。これにより「医療の必要性の低い」と認定された患者を多く抱える療養病床では、現行と比して大幅な引き下げに見舞われるとともに、病院としての維持が困難になって介護施設や「特定施設」(有料老人ホーム、グループホーム)への転換を余儀なくされることが危惧されます。

これは診療報酬改定の枠を超えて、医療制度改革や第五次医療法とも関連する「介護療養型医療施設の将来的な廃止方針」が出されました。この方針通りに進められるとすれば、介護療養病床はまず医療療養病床に移行することが考えられるが、老健施設や「特定施設」(有料老人ホーム、グループホーム)への移行を余儀なくされるケースが出現するでしょう。長い間地域医療に貢献してきた病院について、医療提供施設としての社会資源をみすみす無にするような無駄なことを厚労省が断行しようとしています。医療・介護の総合的な対策がないという現状のなかで、患者ばかりでなく医療機関も行き場がなくなるかもしれない方針は即刻見直すべきです。

第四に「予防の重視」の一つとして生活習慣病管理料(現行の生活習慣病指導管理料)の内容が大きく変更され、服薬に対する評価を下げるとともに、運動習慣の徹底と食生活の改善を基本とするとして、療養計画書の様式を変更しました。従来は医師の診断に基づき記載するものでしたが、チェックシート方式で患者ごとの医師の評価が押しやられたような印象の様式です。さらに、この点数の新たな名称から「指導」が削除されていることからも見てとれるように、医師の役割を疾病管理に限定し、実際の食事や運動指導等は他の職種に委ねられることを想定した療養計画書の様式とされるなど指導のあり方が大きく転換されることが危惧されます。

 また「運動習慣の徹底と食生活の改善」を充実させるのであれば、単に診療報酬上の取扱いを変更するに止めず、他の関連部署とも連携をして労働環境の改善などの充実を図るべきであり、そうしたことが伴わなければ投薬部分の点数の引き下げは必要な医療の切り捨てとなりかねません。

 第五に維持期リハビリテーションの重要性を否定し、リハビリテーション関連点数に算定上限を設けたことです。在宅療養の継続のためには、ADLを低下させないことは重要であり、そのためのリハビリテーションをむしろ積極的に評価すべきです。

リハビリテーションの上限設定は制限回数を超える医療として混合診療の拡大にもつながり、問題です。新たに保険適用とされたニコチン依存症管理料も5回を限度に算定するとされ、リハビリとともにそれ以上の指導は混合診療の対象とされることが危惧されます。

 第六に「患者の視点の重視」といいながら、患者を不安に陥れ強い抗議が出されるような改定が行われました。透析医療の夜間・休日加算の廃止案は患者の社会復帰を阻害するものであり、パブリックコメントで多くの患者からも強い反対の意向が寄せられ、廃止から「引き下げ」となりました。またエリスロポエチンの包括化についても患者会は「透析患者の生命が危険にさらされる」と抗議し所定点数がやや引き上げられました。しかし患者の願いが全面的に叶えられたわけではなく「患者の視点の重視」の看板に偽りありです。

第七に医療費の内容の分かる領収証の発行が義務化されました。患者の視点を口実に医療機関に過大な業務を課すことなどがねらいのようで、「医療費の内訳を知りたい」という患者の声はたしかにありますが、現行の診療報酬点数は医師・歯科医師の技術料や医療機関のコストのひとつひとつに対応した体系になっておらず、前提条件の整備なしに医療費の内容を示しても混乱と医療機関への不信を生むだけです。

目指すべきは患者の納得であり、一律に明細付き領収証発行を義務化するということではなく、医療機関の自主的な努力により患者の納得を得られる方向を目指すべきであると考えます。

今回の改定では、身近なところでは特定薬剤管理料の算定範囲の拡大、大きなところでは危機にさらされている小児・産科医療について重点的に点数配分されるなど一定評価できる内容もわずかに盛り込まれました。また前回改定以降、科学的根拠に基づく診療報酬点数とするため、手術における医師経験年数の要件をはずしたことなど前進した面もいくつかあります。しかし夜間勤務等看護加算の廃止など、これまで必要な経費として加算評価していた点数を廃止、包括化するなど目だたないが影響が大きい点数を引き下げ、また算定要件のレベルを高くし、事実上算定制限が導入されました。結局、厚労省の方針に従いその方針通りの医療を行うところにだけに光が当って、その他は影になるような改定となりました。

 以上述べてきたように今次改定の最大の特徴は、政府が進める医療「抜本改革」の一貫として、政府・与党医療改革協議会が決定した「医療制度改革大綱」や第五次医療法改定案の内容を先取りするかのように、「予防の重視」、「医療費適正化」と称し、給付内容の限定、縮小化(リハビリなど)、医療機関の機能分化等、医療の営利市場化と混合診療の一層の拡大につながりかねない内容が盛り込まれていることです。

 保団連は今回の診療報酬改定に強く抗議するとともに、安心・安全な医療の実現のため、早急に抜本的な改善を強く求めるものです。

以上