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歯科医療を荒廃させ、医療格差を拡大するマイナス改定

全国保険医団体連合会
副会長 宇佐美 宏

 4月改定点数の答申が2月15日の中医協で行われました。今次歯科診療報酬改定は小泉首相の「医療構造改革」を具体化するものとして、02年の1.3%を上回る過去最高の1.5%のマイナス改定とされました。

 昨年6月に行われた中医協の「医療経済実態調査」では、歯科個人診療所の医業収入は調査史上最低にまで落ち込んでいます。このため、医業収入の減少を委託費、材料費、給与費等必要な医業費用の削り込みを行った結果、医療サービスを提供する体制の弱体化、医療の質の低下と医業経営の維持さえ危惧される事態が進行しています。こうした危機的な医業経営にある歯科医療の現場を考慮せず、マイナス改定を強行した今次歯科診療報酬改定は断じて容認することはできません。

 改定内容では「か初診」は廃止されましたが、極めて低い歯科初診料に新たな項目も包括され、医科歯科格差は拡大されました。また、定着せずに廃止のやむなきにいたった「か初診」に代わる新たな継続管理システムの導入、情報提供の義務づけ強化、医学的根拠のない包括拡大、領収証の交付等が義務づけられ、その上、金パラなど歯科材料価格の引き下げも予定されています。更に、歯科医療機関以上に困難を増している歯科技工士に対する評価は十数年も放置されたままです。こうした改定内容から診療現場では、1.5%を大幅に上回るマイナス改定となることは必至であるとの怒りの声が上がっており、強く抗議します。

 今次改定の全面的な分析と評価は今後出される告示や通知を見て改めて行いますが、現段階での主要な特徴と問題点を以下に指摘します。

特徴の第一は、「かかりつけ歯科医初診料」の廃止です。しかし、初診料、再診料は据え置き、処置の一部と有床義歯の指導料を初・再診料に包括した結果、医科、歯科格差はまたもや拡大する結果となりました。「贈収賄事件」まで引き起こした「か初診」廃止は当会の要求であり当然ですが、しかし、2000年の「か初診」導入後に「か初診」算定への誘導のため、「か初診」届け出や算定を条件に各種加算の新設が行われました。その一方で「か初診」、「か再診」引き上げ財源確保のために、歯科初診料を6点下げ、補強線、困難加算等を廃止し、補綴物維持管理料の30%減算等々の引き下げも強行されました。「か初診」を廃止することから加算点数の廃止はやむをえませんが、財源確保のために行われた補強線など廃止、引き下げられた点数を復活しないことは不当です。

特徴の第二は、指導管理料の全てに病状、治療計画、指導内容等を文書での情報提供と、カルテへの添付が算定義務要件とされたことです。しかし、当会が要求してきた患者への十分な説明をするための文書作成の時間や手間に対する評価は全く行われませんでした。また、情報提供文書の作成やカルテへの保存などを行うために、IT化を促すことは、審査・指導など行政や保険者による管理・統制に利用される危険性が、これまで以上に強められるという問題をはらんでいます。

特徴の第三は、「か初診」に代わる長期継続管理システムとして「歯科疾患総合指導料」が新設されました。算定は患者の同意に基づく治療計画の立案、継続的な指導管理と病状説明、文書による情報提供、同意については患者の自署による署名が必要とされています。「か初診」同様に同指導料は施設基準が設けられ、同「指導料J」は歯科医師1名以上、歯科衛生士1名以上、同「指導料K」は歯科医師1名以上とされています。このシステムの流れでは治療終了後の継続管理(メンテナンス)は、従来の歯周疾患継続診断料と歯科口腔継続管理治療診断料を統合した「歯科疾患継続管理診断料」で診断後、従来の歯周疾患継続総合診療料と歯科口腔継続管理総合診療料を統合した「歯周疾患継続指導」で行うことになります。

統合されたそれぞれの診断料と診療料とも「歯科疾患総合指導料」算定患者が対象とされました。これは、「か初診」と「P総診」、「G総診」を統合し、初診からメンテナンスまで一貫した患者の管理責任を医療機関に課す、長期継続管理システムの導入です。こうした長期継続管理システムは歯槽膿漏症指導管理料(J型)、「か初診」等いずれも患者と歯科医療担当者の理解が得られず厚生労働省自らが廃止したシステムです。今回導入されたシステムでは、歯科衛生士の人的供給側面から施設基準を考えると、ハードルも非常に高いことからこのシステムを選択できる医療機関と選択できない医療機関の差別化が進行し、患者もこうした長期継続管理システムに対応できる患者と対応できない患者の選別が進みかねないなど、歯科医療のなかに格差を生じさせる危険性が生まれる点も見落とせません。

特徴の第四は包括評価の拡大とともに、包括評価の切り下げが行われたことです。歯周疾患の処置を「歯周疾患処置」(薬剤の歯周ポケット注入処置に限る)と「その他の処置」に分け、「その他の処置」を初・再診料に包括。有床義歯調整・指導料を「調整料」と「指導料」に分け、指導料を初・再診料に包括しました。歯周基本治療では2回目の評価を1回目に包括し、歯周外科の算定単位を何ら医学的根拠も示さず1歯単位から3分の1顎単位に包括しました。また、全ての指導管理料の算定要件とされた文書提供の個別評価はなく、指導管理料に事実上包括されています。補綴時診断料は1装置単位から1口腔単位に算定単位が変更されましたが、これは4年前の算定単位へ戻したことになり、まさに朝令暮改です。その上、患者への説明と文書提供が算定要件とされました。補綴物維持管理料は「普及・定着」という、引き下げのこじつけとしか思えない理由で引き下げられ、患者への提供文書の診療録添付が義務づけられました。しかも繁雑な事務に対する評価はされていません。

特徴の第五は、膨大な事務処理の強要です。今回、医療費の内容の分かる領収証発行の義務づけ、全ての指導料について文書提供を算定要件にし、更に診療録への添付、新設の歯周疾患総合指導料、歯周疾患継続管理診断料では患者の同意のための自署が要件にされました。患者にとって必ずしも必要と思われないものまで、歯科医療機関の事務の処理に課しました。そのため、事務対応ではIT化が必要となることから、零細な個人歯科診療所や高齢医では対応に支障を来すなど、医療機関に大きな困難をもたらすことは必至です。

 以上のように今次改定は、大幅なマイナス改定による歯科医業経営の一層の危機進行とともに、新たな長期継続管理システムの導入や「患者の視点の重視」を名目にした患者への文書提供、診療録への添付など歯科医療機関の選別、淘汰が強化される危険な内容です。

 更に、今後予想される混合診療の拡大の動きは、歯科保険診療の範囲を縮小し、今以上に患者負担増による歯科受診抑制を拡大することにも警戒する必要があります。

 このため、保団連に結集する我々歯科医師は、患者、国民と手を携えて「保険で良い歯科医療」の実現を目指し、今次改定を現場の医療要求に沿って再改定することを要求すると共に、困難を増す歯科医療の危機突破と社会保障としての医療保険を守り、発展させるために歯科診療報酬の改善、混合診療阻止の運動をこれまで以上に強く進めていく決意です。

以上