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国民の受療権を侵害する国民年金保険料等滞納対策に抗議します

2006年3月3日
全国保険医団体連合会
政策部長 津田 光夫

 社会保険庁は、国民年金保険料または地方税の滞納がある場合について、国保の短期被保険者証を発行する措置を盛り込んだ国民年金法「改正」案を国会に提出する方針です。

 年金、国保、保険医療機関の指定や更新など制度や法的根拠が異なるものを同列に扱うのではなく、それぞれの現行法の運用の中で滞納に対しては実情を把握した上でまず減免など救済措置を行い、その上で必要であれば「悪質滞納者」への対処を講ずるべきです。

 既に、国保保険料(税)の滞納世帯は470万世帯(滞納率18.9%)、短期被保険者証の交付数は107万世帯、被保険者資格証明書の交付数は32万世帯にのぼっています。当会が2004年度に資格証明書を使い受診した16都道府県の被保険者の受診率を推計したところ、2003年度の市町村国保の一般被保険者の受診率との比較で神奈川県では30分の1、福岡県では100分の1と、受診率が著しく低くなっています。保険証を取り上げ、医療を受ける機会を奪うことは、早期発見、早期治療を妨げ、逆に医療費増を招く悪循環となります。

 国保加入世帯の平均像は、世帯所得年間170万円、世帯当たり保険料(税)15.5万円、平均年齢52歳となっており、保険料(税)の所得に占める割合は8.2%(02年度)であり、政管健保(6.7%・01年度)、健保組合(4.6%・01年度)に比べて高くなっています。しかも、国保加入世帯は、無職世帯主が5割を超え、「所得なし」世帯が26.6%に達するなど低所得者層及び高齢者層が多いという構造的な問題を抱えており、払いたくても払えない保険料(税)のため滞納世帯が続出する構図となっています。

 これは、既に、国保や国民年金制度が加入者の保険料を財政基盤とする制度であることの限界を示すものであり、このことを放置したままで医療の受診を制限するというペナルティにより強権的に国民年金保険料を徴収する方策は、何の解決策にもなりません。

 今回の措置案は、年金、国保の制度の不備から発生する保険料滞納の責任を一方的に加入者に押し付け、将来の蓄えである年金制度と、療養を確保するための医療保険制度の滞納を同列に扱い、セーフティーネットである医療を受ける権利を著しく制限するものであり、容認できるものではありません。

 これは、税、年金、医療の保険料を一体的に扱う「社会保障個人別勘定」管理の発想であり、社会保障制度を自己責任と自助努力、市場原理にもとづく制度に転換するものに他なりません。国や企業は国民に対して、医療や年金を保障すべきです。国がいまやるべきことは保険料を払いたくても払えない世帯への救済策を講ずることであり、払える保険料へと見直すことです。

 また、国民年金や医療保険などの保険料滞納と連動させて、保険医療機関の指定や更新を認めないことも盛り込まれ、あたかも多くの医師、歯科医師が滞納しているかのような報道がされました。

しかし、社会保険庁の調べでは、04年度の厚生年金保険料の滞納処分事業所のうち保険医療機関、保険薬局、指定訪問看護事業所などは全体のわずか1.6%(204件)であり、04年度の国民年金保険料の最終督促状を発行した強制徴収の対象者で、職種が判明していて最終的に滞納処分を実施された医師、歯科医師、薬剤師、社会保険労務士は1.2%(14人)に過ぎません。そもそも保険料の支払いに対して、医師、歯科医師を引き合いにだして、国民年金や医療保険などの保険料滞納の制裁措置を正当化すべきではありません。