2007年11月8日 (はじめに) 保険給付が認められていない診療と保険給付の診療の双方を受けた場合に、保険給付部分の診療分も含めて全額が患者負担になるのは不当だとして、患者が国に対して給付を受ける権利があることの確認を求めた訴訟で、11月7日に東京地裁の定塚誠裁判長は、「混合診療を禁止する法的な根拠がない」とのべ、原告に保険の受給権があることを認める判決を下しました。 今回の訴訟は、新しい治療方法を患者の負担を極力軽減して一刻も早く受けたいという原告の願いから生じているもので、その気持ちは、痛いほどわかります。そのために必要なことは、「保険に導入するにふさわしい医療であれば、いつまでも混合診療の状態に置かず、迅速に保険導入する」ことです。 しかし、今回の判決では、「法解釈の問題と、混合診療全体の在り方の問題とは次元の異なる問題」としているが、これは、法律を机上のみで解釈し、下記に示すように、判決によって国民がどれだけの弊害を受けるかを一切無視したものです。 1 平成元年2月に東京地裁で、「差額徴収時代に見られたより大きい弊害を招く」として、混合診療禁止は妥当の判決が出されています 国側は、「混合診療ができるケースを健康保険法が例外的に定めていることから、例外以外は禁止できる」と主張したが、判決は、「法律などには、例外以外の混合診療がすべて保険の対象から排除されると解釈できる条項はない」とし、また「保険を適用するかどうかは、個別の診療行為ごとに判断すべきで、自由診療と併用したからといって、本来保険が使える診療の分まで自己負担になるという解釈はできない」としました。 しかし、歯科の欠損補綴において保険給付対象外の歯科材料を用いた場合の混合診療については、1989(平成元)年2月23日に東京地裁において、要旨次の通り混合診療禁止は妥当であるとの判決が下されています。 <要旨> (全文は、別紙参照) ・法及び療養担当規則には明文規定がなく、絶対的なものではない。 ・しかしながら、…差額徴収…の弊害が社会問題化し、…一種の混在形態としての特定療養費制度を新設し、…従前の差額徴収の弊害が生じないよう適正な規制の下に運用を図ることとなったことに鑑みると、特定療養費制度新設後の法の解釈としては、…混合診療は、特定療養費制度の支給の対象となる療養に限られると解するのが相当…。 ・混合診療を認めると、差額徴収時代に見られたより大きい弊害を招く危険性があり、…法はこれらを総合考量の上、特定療養費を導入したものと解される。 2 混合診療解禁は、医療崩壊を加速させます 規制改革・民間開放推進会議議長の宮内義彦・オリックス会長(当時)は、混合診療について「混合診療は国民がもっとさまざまな医療を受けたければ、『健康保険はここまでですよ』、後は『自分でお支払いください』という形です」と説明しています。 このことは、混合診療解禁の目的が医療保険給付範囲の制限にあることを物語っています。事実、政府や経団連は、「軽度医療」や市販類似医薬品の保険給付外し、保険免責制度の導入などを検討しています。 混合診療の解禁は、保険外負担を払える人にとっては受けられる医療の範囲が広がることになるが、保険外負担が払えない多くの人々にとっては、保険料だけ支払って必要な医療が受けられない事態を生み出してしまい、そうなれば医療崩壊がますます加速するでしょう。 3 必要なことは、保険給付対象範囲の拡大と医療保険承認期間の短縮 問題となった「活性化自己リンパ球移入療法」は、1996年11月1日に高度先進医療となったが、現在も先進医療の対象であり、一向に保険導入されていません。 今、保険の適用外にある医療を取り込んでいったとしても、そのことで制度が破綻するというようなことは考えられません。例えば、高度先進医療が医療費全体に占める割合は、0.01%にも満たないというのが実態です。 必要なことは混合診療の解禁などではなく、保険給付対象範囲の拡大と新規治療の承認期間の短縮です。 4 混合診療禁止を前提にした対応を 判決を受けて、水田保険局長は、「今後の対応は関係機関と協議の上、速やかに対応を決めたい」としているが、現物給付と混合診療禁止は、国民皆保険制度を支える重要な柱です。混合診療禁止を前提にした対応を行うよう、求めるものです。 |