第34回全国保険医写真展 入賞・入選作品評
審査委員長 小松 健一
☆会長賞
「出番前」土佐 征英(京都協会)
この作品は一見すると動きもないし静かなのですが、出番前ということで高校生たちが人形浄瑠璃、その地域で伝承されてきた伝統芸能。そういうものを大人たちからしっかり受け継いで、自分たちも更に後世に残そうという気持ちや、それを伝える大人たちの真剣な眼差しなどがよく捉えられています。持っている人形にしても結構大きなもので、それを抱えながらこれから本番前ということで、舞台裏の狭いところで最終的な打ち合わせを緊張感をもってやっているという雰囲気が良く出ていて、素晴らしい作品だと思います。
☆審査委員長賞
「ご近所さん」鈴江 純史(徳島協会)
タイトルの「ご近所さん」が良かった。まだ赤ちゃんのヤギたちが3頭、作者に真向かって立っているというところを素直に撮った。それだけの写真なのですが、今、世知辛い社会で、ウクライナなどで毎日子供たちが殺されているような戦火の中でも、隣同士、人間も動物たちもお互いに身を寄せ合っていく共生という世界が大事だと伝えたかったのだと思いました。作者の思い(テーマ)が反映されるタイトルをしっかり考えてつけることが大切です。
☆特選1
「早春に掬う」西内 健(徳島協会)
ウナギの稚魚を採る漁だと思うのですね。冬の厳しい中、海にずっとつかって朝方までの作業ですけど、その厳しさとか冷たい波に全身、びしょ濡れになりながらこの作業をしている漁師たちの緊迫感が良く伝わってきています。
少人数でやっている場面が多いが、この作品は大勢が一列になってやっている。それが迫力のある写真となったのです。
☆特選2
「運行確認」渡辺 吉明(東京歯科協会)
この作品は、アニメ映画で有名になった場所で撮ったもの。向こうに見えるのが江ノ島で、江ノ電の踏切をちょっとすぎたところだと思います。向こうからくる電車に対して、すれちがう電車の運転手が手を挙げて確認しているという、その場面をきっちりと押さえたスナップで、そこがこの写真の良さですね。
もう少しローアングルで撮ると運転手の手が窓の空の中に大きく入るので、もっとインパクトがあり、おもしろい作品になったでしょう。
☆特選3
「雨上がりの灯火」藤野 和也(徳島協会)
この写真は今まで保険医写真展では見たことがなかった作品で興味を惹かれた。
雨上がりの空港で大型のジェット機がこれから着陸するところだと思うのですが、その瞬間を的確にとらえています。シャッタースピードもよくスピードのある航空機を上手くとらえたと思いました。左右の翼も画面いっぱいにギリギリに収めて、相当上手い人かもしれません。構図全体の的確さが良く出ている作品だと思いました。
☆入選1
「朝日に駆ける」吉田 豊(福島協会)
朝方の人のいない、海岸を馬で走っているところを撮った作品です。
水平線には朝焼けが少し色づいて、船が二艘浮かんでいます。相馬の馬追の練習風景だと思いますが、毎朝、浜辺で訓練して本番に備えるという馬乗りの緊張感、携わっている人たちの努力が伝わってくる作品になりました。躍動感もありますし、美しい作品だと思います。
☆入選2
「山間の春」守屋 由美(兵庫協会)
周辺は植林をした吉野杉かな。杉林の中に1か所だけ広葉樹林の場所があって、ちょうど若葉・新芽が吹きだして「山を笑う」早春の場面を緑濃い針葉樹林と対峙して捉えたこの視点がこの作品の良さですね。よく見ると山桜も咲き始め、とてもきれいだ。周りの深い針葉樹林の一年を通して色の変わらない林木と日本独特の広葉樹林とを対比させて捉えたことが見事だったです。
☆入選3
「うりずんの散策」早坂 美都(東京歯科協会)
うりずんとは沖縄地方の言葉で乾季が終わり、本格的な梅雨入りする前の季節の事をいいます。雨上がりの夕方、海の向こうには入道雲が夕日に染まり始めた頃、観光客の親子連れなどが桟橋に出て眺めています。
雲と海だけではおそらく入選まではいかなかったと思うのですが、ここに写っている十数人の観光客の人達が自然に触れているという瞬間を撮ったことがこの作品の良さです。いいところに出会いましたね。
☆入選4
「初雪の初詣号」濵武 諭(熊本協会)
この地方ではお正月に蒸気機関車を動かすことが恒例であるのでしょうね。
丁度、大雪が降っているなか向こうから蒸気機関車が来るという瞬間を捉えた。雪と蒸気が一斉に上がったところを煌々と前照灯を照らしながら来るという迫力がこの作品の一番の良さです。真正面から撮ったのが良かったです。今は「撮り鉄」など写真を撮る人がたくさんいて、なかなか良いポジションを押さえることが難しいなか、よくこの場所を見つけて撮ったと思います。
☆入選5
「新しい朝」中原 広明(神奈川協会)
よく見ると丹頂鶴が何羽もいます。夜はキタキツネなどの天敵に襲われるので鶴たちが集まって身を潜めながら夜を明かすといいます。その状況を夜明け前の朝霧が流れているところをうまくとらえたと思います。真ん中の2羽の丹頂鶴が「朝が来たー」と雄叫びをあげているような場面をうまいシャッターチャンスで捉えています。
-10℃以下だと思いますが、その場に行って待機して夜明け前に場所を取って撮影したという努力なしでは、このような写真は生まれません。誰でも行って撮れる写真ではないので、よくこの瞬間をとらえたなと思いました。
☆入選6
「一年間ありがとう!!」 坂野 昭八(岐阜協会)
一年間の供養で、ダルマを御焚き上げして新しいダルマに置き換えるという毎年行われるお正月の行事です。手前の人が火の中にダルマを放り投げて宙に浮いているその瞬間を捉えたことがこの写真の味噌でしたね。シャッターチャンスは写真を撮るうえで非常に大事ですので、構図や光よりも自分が何をとりたいか、その瞬間が一番重要です。良い瞬間を捉えました。
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