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0,社会保障と税の一体「改革」とは何か
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政府が7月1日に閣議報告した「社会保障・税一体改革成案」とは何でしょうか。税「改革」では、国民の「分かち合い」の名で、消費税率の10〜20%への引き上げを打ち出し、大企業に対しては、グローバル化を口実に、法人実効税率を引き下げようとしています。
また、社会保障「改革」では、国が責任を持つべき社会保障を、民間保険の原理で抑制・削減し、公的給付を限定化・低廉化するとともに、公的給付以外の医療、介護、福祉サービスを拡大し、新たな市場創出をめざす方針です。財源の枠組みについては、社会保障を消費税と連動させ、消費税収の範囲に社会保障を押さえ込もうとしています。
以下、政府の「改革」案の狙いと具体策について検証します。→もどる |
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1,社会保障「改革」とは何か→社会保障の切り捨て
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(1)新たな財源を増やさない「低所得者」対策
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政府の「改革」案は、貧困と格差を拡大させた「構造改革」路線への国民の批判を意識し、高額療養費制度の拡充、低所得者の年金への加算や国保料・介護保険料の軽減を提起し、「低所得者対策」を強調しています。
ところが、改善策と給付削減・負担増が抱き合わせで示されています。なぜでしょうか? 国費投入を増やさずに、同じ財源の範囲内で、財源を付け替える財政手法を取っているからです。つまり、改善策を実現する財源と、給付削減・負担増の改悪を連動させることになります。こうした財政手法は、国民の間に分断構造を持ち込むものです。貧困と格差の拡大を改善するための施策は、国の責任と国費投入によって推進すべきです。→もどる |
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@ 高額療養費制度の拡充と「外来受診時定額負担」の抱き合わせ
高額療養費制度の負担限度額の引き下げについて、政府の「改革」案では、「負担軽減と、その規模に応じた受診時定額負担等の併せた検討」と明記されています。
厚労省の具体策では、「年収300万円以下の世帯の負担上限引き下げ」や「長期・高額の医療費負担を軽減する年間負担上限の新設」と、「通院のたびに現行の窓口負担に上乗せする『受診時定額負担』の導入」や「『上位所得者』区分の世帯の負担上限引き上げ」とを、連動させる方向が示されています。
患者団体からは、「高額医療を受ける患者の負担軽減のために、一般患者の負担を増やせば、患者間で対立感情が高まる恐れがある」(血液疾患の患者会「フェニックスクラブ」事務局の野村英昭氏・『毎日新聞』6月3日付)という懸念の声が上がっています。
原則3割の窓口負担を軽減するとともに、所得の低い層や負担が長期にわたる患者の限度額の大幅引き下げ、1%分の応益負担の撤廃など、高額療養費制度の拡充を国費の増額によって実現すべきです。→もどる
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A年金加算と高所得者の年金カットを抱き合わせ
「低所得者」「障害基礎年金」などの年金加算についても、その財源は、高所得者の年金減額(総額で450億円以上)と連動させることが示されています。
さらに、年金の支給開始年齢の繰り延べ(65歳を68〜70歳に繰り延べ。1歳引き上げで5000億円の公費削減)、物価や賃金の下落以上に年金額を引き下げる(▲0.9%で1000億円の公費削減)などの年金削減案も示されています。→もどる
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B国保料軽減と国保の都道府県単位化の抱き合わせ
国保料については、低所得者に限定して追加軽減を行うとされています。しかし、その財源は、低所得者以外の国保料引き上げにつながる市町村国保の広域化、つまり、市町村の一般財源投入を廃止し、国保料を引き上げる国保運営の都道府県単位化と連動させることになります。→もどる
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C「総合合算制度」と「共通番号制」の抱き合わせ
「低所得者」世帯の自己負担に上限を設ける「総合合算制度」の創設が盛り込まれています。世帯員一人ひとりの年収総額や納税額・保険料納付額と、医療、介護、保育、障害に関する自己負担の総額について、社会保障・税の「共通番号制」を用いて、国が一元管理するとされています。こうしたシステムは、負担の範囲内に給付を抑える目的で検討されている「社会保障個人会計」の「低所得者」を対象にした試行にほかなりません。
世帯全体の負担上限を設定する合算制度は必要ですが、現行の医療・介護合算制度の拡充や、4つの制度ごとに負担上限を設けるなど、「共通番号制」を前提としない負担軽減策を検討すべきです。→もどる
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(2)生活保護の切り下げ、医療扶助に自己負担を導入
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この他の「低所得者対策」では、生活保護の「見直しを実施する」ことが盛り込まれています。
具体策として示されているのが、基礎年金(月額最高66,000円)との整合性を理由にした生活保護費の引き下げです。また、医療扶助を「受診率が高いため、1人あたり医療費は国保等よりも高額となっている」と問題視して、「現物給付の検討」の名で自己負担の導入を示唆しています。
厚労省は、生活保護制度に関する国と地方の協議において、各自治体が医療扶助「適正化」計画を策定することや、指定医療機関を受診した際の「患者負担のあり方」、さらに、保護期間の「有期制」などを論点として示し、保護費全体の48%を占める医療扶助など生活保護費全体の削減を狙っています。
しかし、受給者は自由に受診できるわけではなく、受診の必要性を決めるのは医師で、医療券を出すかどうかを決めるのは行政です。受給者全体の8割は、医療扶助を利用して治療をしています。自己負担が導入されたら、経済的な理由から治療を受けることができず、症状が悪化し自立から遠ざかる悪循環になります。
政府の「改革」案で打ち出している「貧困・低所得者対策」を実効性あるものにするためには、保護が必要な人が利用でき、自立に向かえるよう、生活保護制度を抜本的に拡充すべきです。→もどる |
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2、税「改革」とは何か→消費税増税 |
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税制改革は消費税の増税をメインに据えています。増税への流れは以下の通りです。
○消費税収の使いみちを、現在の高齢者3経費から、年金・医療・介護の給付費、及び少子化対策費用(「社会保障4経費」)に拡充する。
○消費税は原則として社会保障目的税とし、その使途を明確化する(消費税収の社会保障財源化)。
○将来的には、社会保障給付にかかる公費全体について、消費税収を「主たる」財源して確保する。
○以上を踏まえ、まずは(経済状況の好転を条件としつつ)、消費税を2010年代半ばまでに段階的に10%まで引上げて、当面の社会保障財源を確保する。
消費税収を社会保障財源(目的税)とし、かつ消費税を中心に社会保障財源を賄うという方向です。
しかし、当面する消費税10%への引き上げ、今後は社会保障財源に限定し(目的税)、更には社会保障の(公費)財源全体さえも賄っていくという「改革」では、むしろ社会保障をより一層疲弊させることになります。→もどる |
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(1)5%引き上げても、社会保障は改善されない。 |
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「一体改革」案では、まずは社会保障の安定財源の確保として、当面10%へ引き上げるとしています。
しかし「一体改革」案では、消費税率を5%引き上げた場合の使途が、社会保障4経費の維持に1%、消費税引き上げに伴う物質調達を含む社会保障支出増に1%、高齢化に伴う自然増に1%、復興財源に充てた基礎年金財源の編成に1%が振り向けられるという説明です。社会保障の機能強化=「制度改革に伴う増」には消費税1%分しか回らないことになります。
しかも、「制度改革に伴う増」以外の消費税増税分によって、「2015年度段階での財政健全化目標の達成が見込まれ」と明記されているように、財政赤字の補填に回される計算になります。2020年度までの黒字化目標、さらに2021年度以降の目標に充てるには、さらなる消費税引き上げが必至となる計算で、際限のない消費税増税路線に国民を追い込もうとするものです。
政府の「一体改革」に関する集中検討会議でも、閣僚からは「これで国民に説得できるどうか自信がない」という声さえ出ています。政府税制調査会では「一体改革というのは議論をオブラートに包みすぎ。これは財政問題だ」との指摘も出ており、“社会保障財源のため”にというのは消費税を引き上げるための口実というべきです。→もどる |
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(2)被災地に負担増。復旧・復興を阻害。 |
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消費税の引き上げは、復旧・復興に懸命に取り組む被災地・被災者に更なる負担増を被せることになります。
増税に伴う負担軽減として、特定の人・地域の消費税を軽減・免除することが考えられますが、消費税は仕組み上こうした措置が難しい税金です。被災者に対して増税分を還付する方法については、義援金等の配付の遅れを見ても、全国各地に避難した被災者への確実な還付は困難というべきです。また負担から還付へのタイムラグもあり、当面の生活資金が重要である被災者にとって還付を待つ余裕はありません。むしろ、最初から、被災地・被災者には増税しない方が賢明です。
東北地方における税負担の構造からみても、消費税の増税は好ましくありません。各税目別に、全国の税収入に占める東北六県の税収の割合を計算した場合、消費税収は7.2%になり、所得税・住民税の3.9%、法人3税の3.0%、固定資産税5.0%と比べても極めて高い現状があります(国税庁、総務省データより)。消費税を増税すれば、東北地方の人々の負担は特に重くなります。震災後は、所得税の減免措置等により被災者は所得ゼロの方が多くなり、所得税がかからない人が多くなるため、消費税負担は一層厳しくなります。
震災からの復旧・復興を真剣に考えるならば、被災者・被災地における生活・事業の再建を阻害する消費税の増税だけは避けるべきです。→もどる |
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(3)全国で一層の景気悪化、税収全体の落ち込みの懸念 |
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国民全体では、ここ15年の間で1世帯あたりの平均所得は約664万円から約550万円へと114万円も減少しています(厚労省「2010年国民生活基礎調査」)。全体として500万円以上の世帯数が減少し、低所得の方へシフトしてきています。民間のサラリーマンでは4人に1人が年収200万円以下になっています(国税庁「平成21年民間給与実態調査」)。また生活保護受給者は200万人を突破し、被災地での申請増も必至な状況です。
消費税の10%への引き上げで、平均的な世帯(4人家族)では年間16.5万円の負担増となり、1年で34.6万円が消費税に消えることになります(第一生命経済研究所レポート10年4月2日)。実に、1ヶ月分の給与(内需)が失われます。雇用の劣化・悪化、医療・社会保障の負担増などで生活が厳しくなる中で、国民は消費税の引き上げに耐えられる状況にはありません。
1997年、消費税5%への引き上げなど9兆円の国民負担増によって、バブル崩壊から回復し始めていた景気に冷や水を浴びせ、その後の景気悪化を招きました。後に増税を強行した故橋本首相は、これらの負担増が「不況の原因の一つであった」と述べています。今回の「一体改革」案を検討した政府税調でさえも、現下での消費税増税について議論が紛糾し、結局、意見集約を断念せざるをえませんでした。
また消費税を引き上げた場合、景気・経済を更に悪化させ、所得税・法人税の一層の落ち込みなどから税収全体の減収を招く事態さえ指摘されています。実際に消費税を5%へ引上げた1997年では、税収は増加して54兆円(一般会計)になりましたが、今日までこの税収を上回った年はありません。まずは景気回復によるデフレ脱却を図り、税制の空洞化の見直しと並行して、経済成長を通じて税収全体の引き上げを目指すことが必要です。→もどる |
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(4)医療機関、事業者の倒産・破綻へ。 |
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消費税の増税は、多くの中小事業者を破綻・倒産に追い込みます。
本来、消費税は、経済取引上の「最終」消費者が負担し、取引を媒介する事業者は受け取った消費税等を納付することだけを求められています。
しかし、小規模な業者ほど取引先からの値引きの強要などで消費税分を販売価格に上乗せすることは難しいのが現状です。そのため、かなりの事業者が、自らの身銭や借金で消費税を負担しています。「払いきれない」消費税の結果、毎年新たに発生する国税の滞納額6,836億円の内半分を消費税3,398億円が占める状況になっています(国税庁「平成22年度租税滞納状況について」)。消費税の引き上げは中小事業者を倒産・廃業へ追い込むだけでなく、行政による徴収コストの増大も招きます。
医療機関にとっても消費税の問題は非常に深刻です。命と健康には消費税を課すことは適切ではないとする国の社会政策的配慮上、保険診療(=公定価格)では患者さんより消費税をいただいていません。しかし、医療機関が保険診療で必要とする医薬品・医療機器等には消費税が課せられ、医療機関はこれらの消費税を負担しています。こうした消費税は、年間1件あたりで、医科診療所・202万8千円、病院・2252万3千円などと指摘され、医業経営に深刻な影響を及ぼしています(MEDIFAXweb6/16より)。患者さんに負担をかけないままで、医療機関の消費税負担が解消されるような措置が必要です。
また、消費税引き上げによる生活負担増は、患者さんを必要な医療からますます遠ざけることになります。→もどる |
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(5)消費税は社会保障財源とは何ら関係がない。 |
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消費税を社会保障財源に限定する「目的税」という考え方は、目的税の基本原則からみても大きな問題を持っています。
本来、目的税とはその使途を特定して徴収する租税であるため、目的税化に際しては税負担とその使途(受益)の間に直接的な関係が必要とされます。例えば、税の使途を鉱泉源の維持・管理、観光整備などに限定する形で、市町村が温泉利用者に「入湯税」を課すことには一定の合理性があります。
しかし社会保障を受けることと財・サービスを消費することには直接的には何の関係もありません。消費税の社会保障目的税化には無理があります。
この点に関して、「一体改革」案では「国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が公平に分かち合う」観点を示唆しています。しかし、医療による労働力の維持・修復、年金等を通じた生活維持は内需拡大・社会秩序の安定に寄与しており、企業の経済活動上にも十分な「受益」を与えています。消費税を社会保障財源に限定する理由は薄いといわざるをえません。→もどる |
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(6)消費税率の際限なき引き上げへ。 |
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消費税を社会保障の目的税とし、将来的には消費税を主な財源として社会保障給付の公費全体を賄っていく指針が示されています。消費税で国の社会保障財源を賄うということです。
政府が示した「社会保障に係る費用の将来推計」では、必要とされる公費負担額は2015年では約47兆円、2025年では約61兆円とされています。公費部分を消費税収に限定すれば、消費税率は2015年には18%(1%=約2.5兆円)、2025年には20%超(1%=約2.9兆円)が必要となります。消費税で社会保障財源を捻出するということは、国民に対して消費税の増税か、社会保障給付の削減か、あるいはその両方かを迫ることになります。
既に先進国において最低の社会支出水準の日本において、消費税によって社会保障の水準を維持・拡充しようとすれば、消費税率を激烈な水準までに引き上げることになります。→もどる |
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(7)消費税では社会保障は良くなりようがない――逆進性の問題 |
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社会保障とは、誰もが必要に応じて適切な医療・介護、年金などを受けられることにあります。従って、社会保障の財源は負担能力のある者が拠出し、負担能力の低い者が給付される「所得の再分配」が基本となります。こうした応能負担の原則を徹底することで、貧富の差に関係なく、より多くの人が適切な医療・社会保障を享受することが可能になります。
しかし、消費税は、所得の低い人ほどその所得に占める税負担(割合)が高くなるという「逆進性」を持っています。そのため、消費税で社会保障の公費財源を賄おうとすれば、負担能力の低い者から、より負担能力の低い者へ財源が移動する形になります。これでは社会保障は良くなりようがありません。
この逆進性の問題については、これまで政府は、人は死ぬまでに一生で稼いだ所得を消費しきるのだから、生涯を通じてみれば、消費税のその所得に占める負担割合は同じになるので、逆進性はないと繰り返してきました。
しかし、一生の内で所得の低い人ほどその所得の大半を消費しますが、所得の高い人ほどその多くを預金や株式など金融資産で保有しています。それらは利子・配当として累積的に増え続け、莫大な遺産として後世に相続されていきます。利子・配当、株式譲渡益などに消費税はかかりません。遺産の問題を見ても、人が一生の内で獲得した所得を使いきるという前提は成り立ちません。生涯を通じてみれば逆進性はなくなるという指摘は非現実的です。
消費税では社会保障は改善されようがないことは明らかです。→もどる |
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3、社会保障の給付抑制、消費税増税は経済も財政も悪化させる
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1990年代以降、国民の貧困と格差は拡大しています。日本は世界30カ国(OECD加盟国)の中で、相対的貧困率は15.7%で27位、税による所得再分配効果は最下位、社会保障による所得再分配効果もワースト3位となっています(内閣府『2009年度年次経済財政報告』)。
7月に発表された政府の2010年国民生活基礎調査では、相対的貧困率は16.0%と過去最高を記録しました。人口換算で約2000万人が貧困状態で生活している計算です。世帯単位でも年間所得300万円以下の世帯は32.0%に達しています。
日本の経済力は世界第3位と言われていますが、今や社会保障については先進国の中でも最低水準となっています。
今、日本は、従来からの雇用や社会保障施策の綻びが、高齢社会を迎えて露わになっているところに、震災・原発問題が直撃するという未曾有の事態ですが、政府には、これまでの施策に対する反省は全く見られません。それどころか、政府は、事態を一層悪化させることになる消費税の増税と社会保障の給付抑制・削減、社会保障の産業化・市場創出をめざす一体「改革」案を決定し、閣議で報告しました。
1995年の阪神大震災2年後の橋本内閣当時に、消費税率5%への増税や、サラリーマン本人の窓口負担2割への引き上げ等の結果、日本のGDPはマイナス2%に落ち込み、「失われた10年」が生み出されました。このことからも明らかなように、消費税増税と社会保障の給付削減・負担増は、国民の安心と生活を壊し、内需を冷え込ませ、経済も財政も悪化させる危険な道です。この道を再び繰り返させてはいけません。→もどる |
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4、「改革」の狙いは国と大企業の責任放棄
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(1) 社会保障を変質させ、国の責任を放棄
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政府の「改革」案は、国が責任を持つべき社会保障について、国民の「自助」を基本に、国民間の「共助」の枠組みを強化し、国が責任を持つ「公助」は“救貧対策”に限定化しようとしています。また、国民間の給付と負担は「公平」であるべきだとして、「負担に見合う給付」=民間保険の原理による社会保険、「社会保障」へ変えようとしています。
しかし、負担と給付を連動させ、負担の範囲内に給付を抑えるのではなく、一人ひとりの必要に応じて給付するのが社会保障です。「共助」の名による「負担に見合う給付」は、憲法が規定する生存権保障としての社会保障の理念とは相容れません。
また、「公助」を限定化することで、社会保障を市場として捉え、拡大していこうとしています。経済産業省が、「公的保険・医行為の範囲を明確化することで、保険外での新市場の創出」を提言したように、公的給付を限定化し、それを超える医療、介護サービス等については、公的保険外の民間サービスを自己責任で市場から選択するという枠組みに変えようとしているのです。 「自己責任」と「受益者負担」主義を強化するものです。
さらに、「共助・連帯の仕組み」の名で打ち出されているのが「新しい公共」です。政府の「新成長戦略」では、公的給付の提供主体を、国や自治体・公的機関などから、ボランティアや企業などに担わせていく計画です。→もどる |
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(2) これまで以上に大企業の負担を減らす
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政府の「改革」案では、これまで以上に大企業の負担を減らすため、消費税増税と法人実効税率の引き下げ、社会保障の給付削減・負担増の方針を打ち出しています。
しかし、1990年以降、大企業は応分の社会保障・税負担の責任を回避し、内部留保を増大させてきています。
政府の一般会計税収に占める法人税は、1990年の18.4%から、2009年には6.4%と大幅に低下する一方で、内部留保は318兆円(2009年、資本金1億円以上)に積み上がっています。
内部留保は、設備投資や雇用機会の創出、賃金引き上げなどによって、国民全体に還元されることなく、主に株主配当金支払や海外投資に回っているのが現状です。
一方、サラリーマンの所得は低下し続け、民間給与総額は1998年の223兆円をピークに2008年には201兆円に、21兆円も減少しています。
正規雇用者数も減少し、非正規雇用者数が雇用者の3割を超え、その結果、正規雇用者の賃金も抑制され、年収200〜300万円世帯が急増しています。
そもそも、国際競争力は税金の多寡で決定されるものでないことは、専門家も指摘しています。経済産業省「海外事業活動基本調査」(2008年)の「海外投資決定のポイント」(大企業)では、海外進出する判断の主要な理由は、「現地の製品需要が旺盛または今後の拡大が見込まれる」ことにあると答えており、税制の優遇措置は7位と問題視されていません。大企業の社会保障・税負担を軽減すれば、国際競争力が増し、生産拠点を海外に移転しないというのは、まやかしに過ぎません。
さらに、大企業には消費税の負担が大幅に軽減されています。輸出企業への消費税分の還付金制度により、輸出大企業上位10社で年間1兆円もの還付金を得ていることや、下請企業に消費税分の値引きを求め、消費税の課税仕入となる派遣労働者に正規労働者を置き換えるなどの方法で、消費税負担を減じているのが実態です。
1989年の消費税導入以降の21年間における消費税収は224兆円で、法人3税の減収分である208兆円を補った計算です。
厚労省案では、「グローバルな経済競争が激しくなる中、これまでのように企業が社会保障において一定の役割を担うことは容易ではない」と述べ、大企業の社会保障に対する役割を免除しようとしていますが、これ以上、大企業の社会保障・税負担を軽減するのではなく、応分の負担を求めるべきです。→もどる |
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5、社会保障はこうして拡充できる−−財源論
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政府は、中央・地方の長期債務残高が860兆円を超え、30兆円の公債費が国と地方の財政を圧迫することを理由に、社会保障と税の一体「改革」の必要性を強調していますが、本当のところはどうでしょうか。
政府の財政赤字が膨らんだ主要な原因は、1990年代以降の「小さな政府」政策によって、税制では、グローバル化を前提にした所得税のフラット化・低減化、法人税減税、金融資産の優遇税制によって、税収が切り縮められてきたことにあります。
政府の歳出に占める一般会計税収の割合は、1990年の86.8%から2009年には38.4%に低下しています。税収額も60.1兆円から38.7兆円に減少しています。
国内総生産は1990年が452兆円で、2009年は474兆円と、ほとんど横ばい状態なのに、税収だけは35%も減っています。
税収が減った第1の理由は、法人税率が40%から30%に引き下げられたためです。また、株売買や配当所得課税税率は、フランスが29%、アメリカが25%に対して、日本は2003年から2011年は10%に軽減されています。上場企業の株式配当所得課税の税率は、法人株主の場合7%にしか過ぎません。
ところが、政府の「改革」案では、「現在の社会保障給付の財源の多くが赤字国債で賄われている」と述べ、現在の財政赤字の責任を、社会保障に押し付けています。税制を空洞化させ、大企業の利潤を優先させてきた政府の責任を転嫁するものです。
政府の一般会計税収に占める税目の割合は、1990年は法人税18.4%、所得税26.0%、消費税4.6%でしたが、2009年には法人税6.4%、所得税12.9%といずれも半分以下となり、消費税だけが9.8%と倍増しています。このような「消費税以外に増収の道はない」という税収構造を見直し、担税力のある大企業に応分の負担を求めるべきです。
具体的には、社会保障先進国と比べて法人税負担・社会保険料事業主負担が低いとされる大企業に社会的責任を果たさせ、超高額所得者・大資産家には公平な税負担を求めます。すなわち、応能負担の原則による法人税、所得税、社会保険料を主要な財源とすべきです。
政府の税制調査会が試算した法人税10項目の見直しだけでも、最高4兆5千億円の財源が捻出可能です(2010年11月4日、税制調査会資料)。また、企業・事業主の社会保障財源の拠出(対GDP比)は、ヨーロッパ15カ国の10.7%に対して、日本は5.3%にとどまっています(2010年社会保障・人口問題研究所データ)。社会保障財源の拠出をヨーロッパ15カ国並みに引き上げるならば、20〜25兆円の財源を捻出することが可能です(2011年7月3日、二宮厚美・神戸大学教授講演)。これは消費税率10%に相当する財源規模です。
さらに、新薬開発にかかる費用を透明にした上で、適正な薬価とすべきです。後発品を除く販売後9年以内の新薬の薬価(薬剤費の5割、約5兆円=薬価ベース)を一律2割下げさせるだけでも1兆円の捻出が可能です。
社会保障改革と財源の関係については、めざすべき社会保障の方向性が財源のあり方を主導するものであって、その逆であってはなりません。社会保障の進んだヨーロッパなどの諸国では、日本よりも低い経済力で、高い社会保障の水準を実現しています。高い水準を日本で実現するには、どれだけの財源が必要なのか、なぜ社会保障先進国で可能な財源確保が、日本でできないのか、障害は何かを明らかにすべきです。
今、必要なことは、憲法25条を基本に国民の生命と生活を最優先する新たな社会保障ビジョンの策定と、応能負担による財源確保を国民的な議論のもとで早急に進めることではないでしょうか。→もどる
以上 |