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社会保障改悪の2つのごまかし
「人口減」と「財源論」を斬る・下

保団連政策部小委員 角屋洋光
(全国保険医新聞2016年2月5日号より)

 

 安倍内閣が進める来年度予算編成や税制改革作業について、大手マスコミは「財政再建のため社会保障改革は避けられない」、「法人税は減税する」が「消費税増税は必要だ」、「診療報酬はマイナス改定を」など、政府の主張を「報道」している。前号に引き続き、「経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太2015)」、「社会保障・税一体改革」路線に隠されているごまかしを明らかにしたい。今号では財源論について考える((上)はこちら)。

財源論に隠されたごまかし

 政府は「財政赤字でお金がない」「財政再建はまったなし」「社会保障のために消費税率を引き上げる」という脅しを、毎日のように大手新聞などを使って大宣伝している。
 しかし、この政府の財政論にも大きなごまかしが隠されている。

財政赤字の責任を社会保障に

法人税、所得税の減税で「主要3税」は90年時点の6割に減少している 第1は、財政赤字の責任を社会保障に押し付けていることだ。
 財政赤字は単に歳出の増加で発生するわけではない。それは歳入が減少することでも発生する。実際、1990年の政府の主要3税(法人税・所得税・消費税)の税収は49兆円だったが、2009年には29兆円まで減少した(図)。その間、国内総生産は452兆円から479兆円へと増えているにもかかわらず、である。これでは財政赤字になるのは当然の帰結である。仮に90年並の税収が続いたと仮定した場合、失われた税収は280兆円にも及ぶ。財政赤字は「小さな政府」を目指して税収を引き下げたためで、社会保障の責任ではない。

国債発行の責任を社会保障に

 第2は、国債発行の責任を社会保障に押し付けていることだ。
 政府は社会保障支出の「かなりの部分が国債などによって賄われる」としているが、事実ではない。 2013年度の社会保障財源のうち、国が国庫負担として支出しているのは30.5兆円で、3割にすぎない。7割は、国庫負担以外であり、「保険料」が最大で5割を占めている。つまり、「かなりの部分」は、国民の直接負担(事業主負担を含む)なのである。
 しかも、「国債によって賄われている」とは、あたかも赤字国債と社会保障関係費がつながっていような表現だが、社会保障関係費は、他の歳出項目と同様に歳出の一部にすぎない。
 百歩ゆずって、関連付けるのであれば、少なくとも歳出全体に占める社会保障関係費の割合に応じて、国債費も按分すべきであろう。その場合、社会保障に使われた国債分は、約7兆円という計算になる。社会保障費127兆円のわずか5.5%にすぎず、「かなりの部分が国債」などとは到底言えるものではない。

「将来世代の負担」という脅し

 第3は、国債は「将来世代の負担になっている」というものだ。
 赤字国債は、歳出入全体における問題であり、小泉構造改革のもとで「小さな政府」を目指すとして、法人税を引き下げた一方で、むだな公共事業を湯水のように支出してきた結果である。税金の集め方、使い方の問題は棚上げして、「将来世代の負担」というのは、国民に責任を転嫁するための脅しである。
 消費税10%増税にあたっても、この脅し文句は引き継がれている。財務省は18年度の消費税増収分14兆円の半分7.3兆円は「後代への負担のつけ回しの軽減」にあてると説明している。つまり、国債費の償還に充てるという意味である。
 社会保障費の削減と、消費税増税を一体に進める政府の狙いを見破り、診療報酬引き上げを堂々と要求し、医療・介護を拡充するために奮闘することが求められている。(了)

以上