【TPP ここが問題】新薬の価格が高止まり
―企業が独占、主権も侵す―
(全国保険医新聞2016年5月5・15日号より)
政府は今国会でのTPP(環太平洋連携)協定の承認案と関連法案の成立を断念し、秋の臨時国会で成立を目指す方針と報じられている。TPPが日本の医療制度に与える影響をあらためて考える。また、協会・医会でも多くの会員が加入する共済制度もTPPの影響に晒される。前号(4/25付「公的保険を切り崩す」)に引き続き、問題点を解説する。
「知的財産」章では、新薬の特許出願から販売承認までに生じた特許期間の「不合理な短縮」を「特許権者に補償」するため、特許期間延長制度の導入が規定された。
政府はTPP協定関連法案で、「特許出願の日から5年を経過した日」、「以後に特許権」が設定された場合は、「不合理な短縮」として、特許期間の延長ができる制度を設けるとしている。
協定文には期間延長の年数は書かれておらず、新薬の販売承認までの期間が、特許による利益を享受できなかった「不合理」と認定されれば、将来にわたって5年以上の延長を求められる可能性がある。
データ保護期間を新設
医薬品の特許期間が切れた場合でも、データの保護期間を設けることも規定されている。バイオ医薬品のデータ保護期間は「8年に限定することができる」とされており、限定しないこともできる。
政府は新薬の再審査期間(8年)が、実質上のデータ保護期間として機能していると説明するが、米国と同じ12年にすることも可能である。
バイオ医薬品の市場拡大を見込んで、協定発効から10年後に再協議するほか、「TPP委員会」の決定に従って、再協議することも規定している。バイオ医薬品のデータ保護期間が長期化する危険がある。
国が訴えられる危険も
「投資」章では、国の主権を侵すISDS条項が規定された。外国企業や投資家が、投資先の国や自治体が行った施策や制度改定によって不利益を被ったと判断した場合、制度廃止や損害賠償を投資先の相手国に求めることができる。ISDS条項が存在するだけで、その発動を回避するため、政府の公共施策に萎縮効果が生じる懸念がある。
北米自由貿易協定では、カナダ政府が米国の製薬企業の新薬について、臨床試験が不十分だとして特許申請を不承認とした結果、製薬企業からISDS条項を使って1億ドルの損害賠償を求められた。
日本では先進医療の制度があり、保険会社の先進医療保険が販売されている。中医協が先進医療の保険適用を進めることによって、米国の保険会社が先進医療保険の売れ行きが落ち込み不利益を被ったとして、施策の変更(混合診療に留め置くこと)を求めて、ISDS条項を使って国際仲裁法廷に提訴しな いとも限らない。
株式会社による医療機関経営では、構造改革特区(「かながわバイオ医療産業特区」)で高度美容外科医療を提供する診療所(自由診療のみ)が開設された事例がある。「総理主導」の枠組みとされている国家戦略特区において、米国の企業が医療機関開設の認可を得たのち、当該医療機関を保険診療や先進医療を扱うことができる保険医療機関とするよう求めて、ISDS条項を発動する危険もある。
また「国境を越えるサービスの貿易」章の附属書では、「自由職業サービス作業部会」の設置を規定している。締結国間で将来的に医師、歯科医師の資格の相互承認が進むことが考えられる。
以上