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小児がん最新医療の現場から
― 皆保険蝕む高薬価 A CAR-Tの場合―

名古屋大学名誉教授 小島勢二
全国保険医新聞2018年7月5日号より)

 

 

キムリアへの注目

こじま・せいじ
1999年に名古屋大学小児科教授に就任、2016年3月に同大学を退官。愛知協会会員

 急性リンパ性白血病の治療薬であるキムリア(ノバルテイス)が注目されている。キムリアはCD19表面抗原を有する白血病細胞を攻撃する遺伝子改変T細胞製剤である。抗体の抗原認識部位とT細胞受容体の細胞内シグナル伝達部位をつないだキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を、ウイルスベクターを用いて患者から採取したT細胞に導入し、体外で培養したものである。
 難治性リンパ性白血病の90%で効果がみられその高い有効率が注目されているが、1回の投与価格が、米国で47万5,000ドル(5200万円)に設定されたことからもマスメディアを賑わせている。日本でも治験が済み薬事承認を申請中である。米国では、キムリアの薬剤費のみで50万ドルすることから、他の薬剤費や入院費用をあわせると、その治療費は100万ドルに達する。

 

アカデミアでは100万円以下で製造

 わが国では、企業治験の情報しか流れてこないが、世界では多くのアカデミアがCAR-Tの開発をおこなっている。2016年1月の時点で全世界でおこなわれている92試験のうち80試験がアカデミアによる臨床試験である。国別では、米国(48試験)に中国(19試験)が後を追う。日本はノバルテイスの治験のみである。
 じつは、名古屋大学から送った移植後再発白血病の患者さん2人が北京小児病院でCAR-T治療を受けている。払ったCAR-Tの薬剤費は100万円であった。中国人は30万円で済むらしい。米国の価格とのあまりの違いにその理由を中国の研究者に質問したが、CAR-Tの製造に自分達の開発した技術を用いているので、パテント代がいらないことが、その大きな理由であろうとの答であった。
 名古屋大学小児科では、ウイルスベクターではなく、トランスポゾン法による独自の遺伝子導入方法を用いたCAR-T治療の開発に成功した。ウイルスベクター法と比較して、より安全で安価(100万円以下)にCAR-Tの製造ができるという利点がある。すでに、特定認定再生医療等委員会の承認、厚生科学審議会の審議を経ており、近々アカデミアとしての臨床試験を開始する予定である。

 

成長戦略の矛盾

 それでは、わが国で安価なCAR-T治療は実現するであろうか。現在、国の研究費(AMED)で得られた研究成果は成長戦略という名のもとに企業への導出が求められている。私達の研究も例外ではない。CAR-Tを企業が薬剤として、全国の医療施設に供給することは、医療の均てん化という点では望ましいかもしれないが、先端医療を安価にという私達の願いが達成できるかは疑問である。
 すでに、先発企業の製剤に米国の薬価をもとに超高額な薬価がつけられていれば、類似薬効比較方式をとるわが国では、製造原価に関わらず先発品に近い薬価が算定される。
 わが国では、研究結果を企業に導出することが奨励されているが、超高額な医療費が予想される先端医療についてはアカデミアが開発した医療技術を、直接自分の施設で用いる道も探るべきではないか。新薬の高額化に対するひとつの処方箋である。

(3回連載。第1回「皆保険蝕む高薬価 @ GVHD治療薬の場合」

以上