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75歳以上の患者負担
2割への引き上げがダメな5つの理由
医療・介護の負担軽減こそ―前編―

全国保険医新聞2019年10月5日号より)

 

 政府は、「全世代型社会保障」の構築と言いつつ、消費税は10%に引き上げる一方、医療・介護などで負担増を求める構えである。年金、介護は年内に一定の結論を得て、医療は「骨太の方針2020」に向けて具体的な取りまとめを図る。医療では、75歳以上の窓口負担の原則2割への引き上げが大きな争点となる。年金は減る一方、税・保険料は引き上げられるなど、高齢者の生活は厳しさを増している。窓口負担の引き上げは、高齢者のいのちと健康を壊し、生活を破綻に追い込むものだ。後編はこちら

 

極めて大きな影響

 負担増の項目を定めた政府の「改革工程表2018」などでは、医療・介護で多数の項目が示されている(図)。全ての世代に負担増を求めるが、引き続き、高齢者を狙い撃ちした負担増が目立つ。特に、医療では、医療費削減の影響が大きい75歳以上(後期高齢者)の窓口負担を原則1割から2割に引き上げることが大きな争点である。
 政府の負担増計画を指南する財務省は、政府予算編成に対する「建議」において、「世代間の公平性」や「制度の持続可能性」から、「まずはできる限り速やかに後期高齢者の窓口負担を原則2割とすべき」と求めている。つまり、国のお金がない中、現役世代(15歳〜64歳)の窓口負担が原則3割である以上、当面、高齢者も1割ではなく2割は負担すべきというものである。
 また、後期高齢者の窓口負担については、既に「現役並み所得」者は3割負担となっている。後期高齢者の7%弱にあたる。「建議」は、3割負担についても「能力に応じた負担」としつつ「現役世代との公平性」を図るとして、対象となる収入の要件を現役世代の所得水準に合わせるよう主張している。例えば現在の世帯年収520万円以上(高齢夫婦)の基準を同370万円程度(協会けんぽ)にまで引き下げるイメージだ。現役世代の収入が低下している以上、同程度の収入のある高齢者も3割負担すべきというものである。
 後期高齢者は約1850万人と国民の7人に1人を占めており、窓口負担引き上げは極めて多くの患者・国民に影響が及ぶ。

 

1 年金では暮らせない老後

 政府が負担増を求める高齢者の生活の実態はどうなのであろうか。
 厚労省の資料によれば、後期高齢者の世帯では、所得の約8割は公的年金等(195万7,000円)が占め、約7割の世帯は公的年金等のみの所得で暮らしている。文字通り、年金が命綱の世帯が大半を占める。
この間、公的年金が減らされてきた結果、後期高齢者の年平均所得(1人当たり)は、ピークとなる1996年前後の約210万円から約180万円(2016年)にまで約15%減少し、高齢世帯の貧困化が進んでいる。
 「老後2000万円蓄えが必要」で話題になった金融庁報告書(6月3日)によれば、平均的な無職高齢世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)では公的年金等20万9,000円に対し、支出26万4,000円で毎月5万5,000円の赤字である。これは、事実上、夫(又は妻)が定年まで勤めたモデル世帯であり、実際の平均受給額ははるかに少ない。中所得以上と思われる世帯でも、生活は赤字である。
 実際に、高齢者が受け取る老齢年金(国民年金及び厚生年金)の額では、月6〜7万円が460万人と最も多く、全体の6〜7割の高齢者は月10万円未満の年金受給にすぎない(2013年度末)。他方、単身高齢者の平均支出額は約14万円であり、多くの高齢者は月4〜7万円の赤字分を貯蓄の切り崩しなどで確保している(藤田孝典『続・下流老人』)。    
 年金が切り下げられる一方、保険料・利用料(医療・介護)の相次ぐ引き上げ、さらに消費税増税も重なり、高齢期の生活は厳しさを増している。定年まで勤め上げても年金では普通に暮らせない、10万円以下の年金しかもらえない、そうした高齢者の姿が一般的になりつつある。

 

2 「働かないと暮らせない」「生活保護の半数超」

 生活費に充てる貯蓄状況も厳しい。後期高齢者世帯の平均貯蓄額は1096万円だが、1割にすぎない3000万円以上の層が平均値を引き上げている。実際には、貯蓄300万円以下が全体の35%を占め、貯蓄なしが約15%に及ぶ。貯蓄200万円の単身者(75歳)で月の赤字4万円として、平均寿命(男81歳、女87歳)まで生きるのに、男性で88万円、女性では376万円足りない形である。
 貯蓄が足りず、生活のために働かざるを得ない高齢者が増えている。65〜69歳の5割弱、70〜74歳の3割、75歳以上でも1割が就労している。非正規雇用が多く、雇用条件は悪い。
 さらに、貧困の「高齢化」ともいうべき事態が起きている。生活保護を利用する高齢者世帯は、安倍政権下で1.2倍以上に増えており、生活保護世帯(163万世帯。2019年6月)の5割強に達する。低い生活保護の捕捉率の下、生活保護基準よりも少ない収入で暮らしている高齢者の7〜8割は生活保護を受けられていないとも指摘されている。現に、65歳以上の低所得者(住民税非課税)に実施された「臨時給付金」は1166万人(2016年)に及んでおり、高齢者の貧困化が急速に拡大している。
 「働かないと暮らせない」「貧困状態にある」高齢者が増える中、安倍政権は、消費税を10%に引き上げた上、窓口負担も2倍に引き上げようとしている。これ以上の医療・介護負担増は高齢者の生活を破たんに追いこむ。

 

現場代表なく財界ツートップ―社会保障改革の新会議が初会合

 安倍晋三首相が設置し自ら議長となる「全世代型社会保障検討会議」が9月20日に初会合を開いた。今後、75歳以上の医療費窓口負担2割への引き上げなどが検討される見通しだ。
 特徴的なのは、有識者メンバーに医療や介護の現場を知る代表者が一人もいない一方、財界からは経団連会長の中西宏明氏、経済同友会代表幹事の櫻田謙悟氏が参加していることだ。
 経団連は昨年、全世代型社会保障構築の観点から、高齢者の負担に関して「痛みを伴う改革に向けて、聖域なく速やかに取り組むことが不可欠」と提言した。櫻田氏は24日に会見し、消費税10%では財政が持たず17%が良いなどと発言。国の予算の3分の1が社会保障に使われる現状を問題とし、痛みを伴う改革の実現を政府に求めた。
 患者負担増計画が強引に推し進められならないよう、注視が必要だ。

以上