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75歳以上の患者負担
2割への引き上げがダメな5つの理由
医療・介護の負担軽減こそ―後編―

全国保険医新聞2019年10月15日号より)

 

 政府は、「全世代型社会保障」の構築と言いつつ、消費税は10%に引き上げる一方、医療・介護などで負担増を求める構えである。年金、介護は年内に一定の結論を得て、医療は「骨太の方針2020」に向けて具体的な取りまとめを図る。医療では、75歳以上の窓口負担の原則1割から2割への引き上げが大きな争点だ。高齢者は、複数の病気を抱え治療に時間もかかり、医療費が現役世代よりも多くなる。高齢者の負担増は、親の介護を担う現役世代も直撃する。窓口負担2割への引き上げは中止するとともに、暮らしを支える医療・介護への改善が急務だ。(前編はこちら

 

3 高齢者の疾病の特性を無視した「公平」論

 政府予算編成に強い影響力を持つ財務省「建議」では、現役世代は3割負担だから、まずは後期高齢者も2割は負担するのが公平などとしている。一見合理性があるように見えるが、実は極めて「不公平」な議論である。高齢になるほど医療機関を受診する割合は当然高くなる。複数の病気を抱え、治療に時間もかかり、医療費が現役世代よりも多くならざるを得ない実態を無視している。

 厚労省資料によれば(図)、後期高齢者は75歳未満と比べて、受診回数の割合は、外来で2.4倍、入院で6.2倍であり、診療費も外来で3.5倍、入院で6.6倍だ。
同様に、入院の経験では、被用者保険が20〜25人に1人に対し、後期高齢者は4人に1人と顕著に多くなる。入院期間も47.5日と65歳未満の2.5倍である。
外来では、後期高齢者の9割近くが、何らかの慢性疾患(高血圧、糖尿病等)を治療し、6割強が2種類以上の慢性疾患を治療している。命に直接関わる心疾患・脳血管疾患、認知症での受療は70歳以上で増える。
医療費が多くかからざるを得ない後期高齢者に窓口負担2割への引き上げや3割負担を求めることは、単純に医療費負担が2倍、3倍になるのではなく、実質的な負担は現役世代の何倍にも重くなることを意味する。
高齢者に特有の複数・長期・重度などの疾病の特性があるからこそ、高齢者の自己負担が軽減されてきた。見かけの負担割合を引き上げたり、同じにすることは、実質的には「不公平」を招くものといわざるを得ない。

 

4 大幅な受診抑制を招く

 現在、「現役並み所得」の後期高齢者は窓口負担3割である。「建議」は、「能力に応じた負担」としつつ「現役世代との公平性」を図るとして、3割負担の対象範囲を拡大するよう求めている。
 後期高齢者の疾病の特性を無視した議論にほかならないが、「応能負担」を求めるなら、窓口負担ではなく、超高額な報酬・退職金や株式売買・配当益などで生活する高齢者には、少なくとも世間並みに応分な税・保険料を求めればよい。
 窓口負担割合の引き上げが医療費をどの程度抑制するかを示すものとして国も利用する「長瀬指数」によれば、窓口負担ゼロ(無料)の時の医療費を1.0とした場合、1割負担で0.8強、2割負担で0.7、3割負担では0.6弱にまで医療費が減少する。国の見通しだけでも、必要な医療(受診)が、2割負担で30%、3割負担で40%と半分近くが受けられなくなる。しかも、年金の低下など、高齢者世帯の生活は大幅に悪化している。窓口負担の引き上げは、大幅な受診の抑制を招き、疾病の重症化を引き起こす可能性が高い。
 「負担の公平」論は、これまでも「医療と介護」「入院と在宅」「現役世代と高齢者」など手を変え品を変え持ち出され、その都度、医療制度が変更され、結局、医療・介護の自己負担が重い方に引き上げられてきた。患者負担を引き上げるため、患者・国民の間に分断を持ち込み、対立を煽る論法であり、注意が必要である。

 

5 支える現役世代を直撃、共倒れも

 高齢者の負担増は、親の介護を担う現役世代も直撃する。
 この間、親族による高齢者虐待は増加の一途をたどっている。厚労省の調査では、養護者(家族、親族、同居人等)による介護虐待は約1万7,000件(2017年度)と10年間で4,000件近く増加し、死亡事例も20〜30人で推移している。虐待発生の要因として「介護疲れ・介護ストレス」が24.2%と最も多い。高齢者の医療・介護負担増は、養護者をさらに追い詰め、虐待を増加させる事態も危惧される。
 「就業構造基本調査結果2017年」によれば、現役世代で、介護をしながら雇用されている者は約267万人で、5年前の前回調査時の218万人より、50万人近く増えている。親族の介護を理由とした「介護離職」は、年間約10万人と報告されており、医療・介護の負担増は、介護離職の増加にもつながる。
 また、育児と介護を同時に担う「ダブルケア」も全国で25万人を超えている(内閣府2016年4月)。ソニー生命保険などによる「ダブルケアに関する調査2018」によれば、ダブルケアに関する月負担額は、親の医療・介護費用が2万3,000円、子どもの保育・教育関連費用が3万8,000円などで計7万5,500円と報告されており、ダブルケアラー(過去経験者含む)の6割が「経済的に負担である」と回答している。当然、収入が低くなる若年世代ほど実質的な負担はさらに大きくなる。
 ワーキングプア、メンタルヘルス、ドメスティックバイオレンスなどが原因で、成人した子どもを高齢の親が養う「8050問題」も社会問題となっている。就職氷河期の余波を受けた30〜50代の健康リスク(入院リスク)は他の世代と比べて1.3倍弱との報告もある。ひきこもりの長期化に伴いメンタルヘルスも悪化する。いつ家族全体が崩壊してもおかしくない。高齢者の負担増は、高齢者のみならず、現役世代にも大きな影響を与え、家族の共倒れを引き起こしかねない。

 

暮らしを支える社会保障へ

 「厚労白書2017年版」も述べるように、「(日本は)高齢化の進展度合いから見ると、社会保障給付の水準は(OECD諸国で見ても)相対的に低い」。医療・介護・年金はじめ、育児・住宅などの自己負担を軽減し、公的保障を拡充することこそ必要である。
 認知症の高齢者や単身・夫婦世帯が増加する中、医療と介護サービスは、これまで以上に高齢者の暮らしを支える両輪となる。
 後期高齢者の窓口負担の2割化はじめ、安倍政権の医療・介護改悪を許さず、暮らしを支える社会保障への拡充が急務である。(了)

以上