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超高薬価問題 アカデミアからの提言A                   

新薬ゾルゲンスマ 適正な薬価を

名古屋大学名誉教授 小島 勢二
全国保険医新聞2019年10月15日号より)

 

こじま・せいじ
 1999年に名古屋大学小児科教授に就任、2016年3月に同大学を退官。名古屋大学名誉教授。名古屋小児がん基金理事長。愛知協会会員

 米国で2億3000万円の価格がついた乳児の難病治療薬ゾルゲンスマについて、米国の経済評価機関は3469万〜1億71万円が適当と評価する。米国での経済評価を参考にすれば、日本では1100万〜1980万円で薬価算定されるのが妥当である。(3回連載。第1回

 

 米国の医薬品価格は自由価格で、製薬企業が決定する。ノバルティスは、ゾルゲンスマに対して212万5,000ドル(2億3375万円)の薬価をつけた根拠として以下の理由をあげている。@スピンラザを10年間使った場合にかかる費用の50%A一般的に小児の遺伝性稀少疾患の治療にかかる費用(440万〜570万ドル)の50%B費用対効果は、非営利経済評価機関(ICER)が小児稀少疾患に設定した上限を超えない。
 費用対効果は、既存の技術を新しい技術で置き換えることで余分にかかるコストをアウトカムの改善分で割ることで算出する増分費用効果比 (ICER)で評価される。また、QALY(Quality Adjusted Life Years)は、さまざまな疾患を同じ土俵で比較するために考案された指標で、生存率をQOL(生活の質)で重み付けしたものである。
 1QALYを獲得するに必要なICERの上限は、米国では10万〜15万ドル、日本では500万〜1000万円とされている。1年健康に生き延びるのに必要な追加コストは、米国では15万ドル、日本では1000万円が許容される上限ということである。
 米国のICER機関(※)は、2019年の4月に脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するスピンラザとゾルゲンスマの費用対効果の最終評価報告を発表している。報告書のなかで、費用対効果は生存率に坐位や歩行が可能か、呼吸器を必要としないかなどの生活の質を加味したQALYで評価している。
 乳児型SMAについては、QALYにみあったゾルゲンスマの価格は31万〜90万ドルと、ノバルティスがつけた薬価である212万ドルと比較して低額であった。スピンラザについても、米国での価格は、初年度が75万ドル、2年目以降は37万5,000ドルであるが、ICER機関の評価では初年度7万2,000〜13万ドル、2年目以降は3万6,000〜6万5,000ドルとはるかに低額であった。
 ノバルティスの提示した価格は、ICER機関が小児稀少疾患に設定した費用対効果の上限を超えないとされているが、生活の質を考慮することなく、単にどれだけ生存期間が延長したかという指標(Life Year Gained: LYG)で評価しても71万〜150万ドルであった。SMAの費用対効果は、疾患の性質上、生存率に坐位や歩行が可能か、呼吸器を必要としないかなどの生活の質を加味したQALYで評価すべきであろう。

 

日本における算定の見通し

 ゾルゲンスマの薬価の算定については、類似薬であるスピンラザがすでに発売されていることから類似薬効比較方式が採用されるものと思われる。現在の薬価ではスピンラザを10年間使った場合の費用は、3億756万円にも達する。わが国のスピンラザの薬価は、米国におけるICER機関の評価と比較してはるかに高額である。まず、現在のスピンラザの薬価が適正であるかどうかの評価が必要であろう。
 スピンラザは、国際共同治験の結果に基づいて認可されているが、乳児型を対象とした第V相試験に登録された121例のうち、日本からの登録例は3例にすぎない。わが国独自の費用対効果の評価が望めないことから、米国のICER機関の評価を参考にするしかあるまい。1QALYを獲得するに必要なICERの上限は、米国の10万〜15万ドルと比較して、日本ではおよそ半額とされていることから、スピンラザの費用対効果を考慮した適正価格は初年度で400万〜700万円、2年目以降は200万〜350万円となる。
 ゾルゲンスマに関しては、米国でのノバルティスの提案に習って、スピンラザを10年間使った場合にかかる費用の50%として計算すると、1100万〜1980万円となる。

※増分費用効果比(ICER)と区別するため、評価機関としてのICERはICER機関と表記。

以上