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岸本聡子さんに聞く 世界の社会運動A                            

カリスマや奇策では社会は変わらない 草の根運動がリードする

全国保険医新聞2019年11月25日号より)

 

岸本聡子氏

 近年進められてきた公共サービスの縮小や民営化に対抗して、再公営化や、公共セクターの充実による市場原理の抑制が世界で広がっている。国際的な調査機関「トランス・ナショナル研究所」(オランダ・アムステルダム)の岸本聡子さん(写真)は、「政治家お任せ」ではない根強い社会運動が政治を動かしていると強調する。前回に引き続き話を聞き、日本の現状を考えたい。

 

―再公営化などの魅力的な政策は根強い社会運動がなければ不可能という点について聞かせてもらえますか。

 はい。反貧困の運動から生まれたスペインの地域政党、バルセロナ・コモンズの例が参考になると思います。
 2008年の経済危機以降、スペインでも財政緊縮が続きました。こうした中、スペイン全土に広がった反緊縮運動から登場したのがバルセロナ・コモンズです。15年の議会選挙では僅差ですが第一党になり、党首のアダ・コラールが市長に就任。今年5月の選挙までの4年間、自治体運営を担いました。
 先の選挙でも健闘し、社会党との連立与党でコラール市長が続投しています。バルセロナ・コモンズは、民間アパートの買い取りなどで8,900軒以上の公営住宅を新たに供給し、100件の市立保育園を設置しました。水道事業再公営化の機運も高まっています。
 アダは反貧困、住宅権利運動のカリスマ的な女性ですが、彼らの成果は決して政治家や政党のコントロールによって生まれたものではありません。
 バルセロナ・コモンズの躍進の背景には、3つの力があったと言われます。1つ目は、伝統的な左派勢力。2つ目は、2000年代に現れた新自由主義グローバリゼーションに対抗する草の根の活動家たち。3つ目は、緊縮財政に追従する社会民主党や労働党に嫌気がさして、オルタナティブを求めていた普通の人々による投票行動です。
 この3つの力が合流し、市民の声を集めて政治へとつなぐプラットフォームとなってリーダーシップを発揮していったのです。バルセロナ・コモンズは自分たちの躍進の土台に自覚的です。党員がオンライン投票で政党運営に加わる仕組みがあり、また市議たちは地域組織の集会などに参加して住民の声を聞き続けています。

 

進歩的な政党の運動離れが失敗招く

 進歩的な政党が政権をとった後に運動体と決別してしまうということは、世界を見渡しても珍しくありません。しかし、そうなると推進力を失い、既存の権力構造や権益に絡め取られるものです。

―反貧困運動の盛り上がりの中で政権獲得し、最後は社会保障削減と消費税増税を決めて政権を失ったかつての民主党が想起されます。社会運動が市民の声と政治を継続的に結びつけ続けることが重要なのですね。

 そう思います。ともすると、社会問題の解決を考える時に、カリスマ性のある強いリーダーの登場や選挙キャンペーン、目新しい政策打ち出しに注目が集まる風潮があるのは日本でも世界でも同じだと思います。
 民主主義にとって政治家や政策の役割は大きいですが、それらは社会的な要求として社会運動に後押しされてこそ現実的な力を発揮できるのだと思います。

― 一方、日本でも反緊縮を掲げ金融緩和などを唱える立場では、既存の政党とは一線を画したスタンスを強調する傾向にあるように思います。バルセロナ・コモンズも政党としては新しいものです。既存の政党は限界を迎えているのでしょうか。

 既存政党が組織として硬直して普通の人々の気持ちから離れているため、喪失感や失望の中から新しい形態の市民政党を作っていく機運ができたのは確かです。国政ではスペインのポデモスがそうですし、そこから多くの地方政党の誕生につながりました。
 一方、既存の巨大政党を大きく変革した例もあります。イギリスで伝統的な二大政党制の一翼を担ってきた労働党です。
 労働党は2015年の党首選でジェレミー・コービンを党首として選出しました。彼は緊縮財政の影響をもろに受けた人たちのために闘おうと、「ソーシャリスト労働党」のビジョンを正面から掲げ、ほとんどの公共サービスが民営化されたイギリスにあって、水道、エネルギー、郵便、鉄道などの公的コントロールを取り戻すことを提案しています。彼らは旧来の社会主義とは異なる、普通の人々が中心の開かれた21世紀の新しい社会主義を目指しているのです。
 コービンが党首になって、19万人だった党員は54万人を超えました。一方、与党保守党の党員は12万4,000人。政権交代も視野に入る躍進を続けています。
 このコービン党首の誕生と切っても切り離せないのが、若者を中心とした労働党の草の根運動の組織「モメンタム」です。彼らは労働党の一部でもありながら絶妙な距離を保ち、党の民主化を求め、社会政策を引っ張る草の根運動を展開しています。
 労働党の変革はコービンというリーダーにスポットがあたりがちですが、むしろ草の根運動がリーダーシップを発揮し、それに後押しされることで伝統的な政党さえ生まれ変わっているということだと思います。

 

市民主導の共闘「一番重要」

―日本では、幅広い市民が連帯して野党に共闘を迫り、9条改憲反対、最賃引き上げ、社会保障充実などを求めているという状況があります。

 まさに市民主導の野党共闘が一番重要で必要な戦略だと思います。
 市民的要求の高まりで、政党が既存の権益や組織だけにこだわらない勇気を持つことが大切です。既存の政党の硬直や壁を打ち破って大きな力にしなければ、政権交代は不可能でしょう。社会保障充実や最賃引き上げなどはその中心的な役割を果たすと思います。

―保団連は、与野党問わず、患者窓口負担の引き下げなどを求めて働き掛けていますが、こうした市民の運動とも連携を持とうと注視しています。

 私自身は、このインタビューを受けるまで医師・歯科医師のこうした運動は知りませんでした。医療者による活動がもっと知られ、より広い連帯につながれば公的医療を充実する大きなうねりを起こしていけると思います。(了)

以上