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第2回 課題山積み、減災対応と受援計画の重要性
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(全国保険医新聞2020年4月5日号より)
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八巻孝之
(やまき・たかゆき)
東北大学第一外科出身。肝臓疾患研究班に所属、文部教官助手を経て、2000年医学博士。仙台医療圏の科長・部長職を歴任し、16年3月から生まれ故郷の国保丸森病院副院長に就任。令和元年秋の台風豪雨で大規模災害を経験した。20年1月から国立病院機構宮城病院勤務。 |
昨秋の台風19号で激甚災害を被った宮城県丸森町、国保丸森病院には災害時の診療継続計画がなく、一夜にして直面した危機的状況に対し、手探りで対応するしかなかった。毎年襲来する台風の風水害に対し、防災・減災マニュアルと備えを持つことは、「予防に勝る治療なし」という病院の災害危機管理の第一歩である。第2回は、山積みの課題や減災、診療継続計画の重要性を解説してもらう。(毎月5日号で全5回掲載予定。第1回)
大規模災害の発生時、被災した病院には二つの役割が求められます。在院患者の安全確保と災害医療活動、そして診療の早期復旧です。
山積みとなった病院の課題をざっと見渡すと次のような状況です。▽機械室:ボイラー・温水発生装置の修繕▽薬局:分包機の購入▽検査室:生化学機器・試薬保管庫の購入▽画像診断室:遠隔画像診断・透視室の復旧、CT・MRIの修繕、骨塩定量測定器の購入▽内視鏡室:洗浄機・保管庫の購入、電源供給路の復旧▽リハビリ室:一部損壊機器の補修、施設基準の再取得▽外来:電動診察台の全数損壊、訪問診療車の損壊、備品喪失▽病棟:移送患者の受入計画、入院棟の福祉避難所開設と介護、看護職員の再配置▽通信:診療用サーバー・通信網の修繕▽医事課・事務室:電源供給路の復旧、浸水した診療録▽リネン庫の確保―など、多岐に及びました。
備え不足が支援拡大にも痛手に
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@3階病棟の仮設外来診療
(10月28日 筆者撮影) |
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A1階に溢れ出す汚染ゴミの山
(10月28日 筆者撮影) |
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B2階病棟の福祉避難所
(11月14日午後、筆者撮影) |
17日ぶりの仮設診療開始(写真@)は職員総力の賜物でしたが、清掃・消毒作業(写真A)と平行して、人手不足、病病・病薬連携の壁、事前の災害マニュアルや受援計画がないことなどが大きな痛手でした。
各部署代表者会議を立ち上げ、被害状況の把握や修繕計画策定が精一杯。回を重ねても復旧のスピードがなかなか加速しませんでした(写真A)。
患者が消えた病棟は福祉避難所となりました(写真B)。発災直後から、慢性期疾患管理や、復旧作業者と避難所生活者の応急対応や心のケアも含めた早期の包括的支援を拡大していくことが病院に求められた使命であったと痛感しています。
フェーズを踏まえた対応想定を
9年前の東日本大震災で災害医療支援体制整備が推進されました。今回の被災体験においても発災直後から急性期までの支援は非常にスムーズでした。
しかし、急性期を過ぎ山積みの課題を抱えた病院は、思うような早期復旧を進められずにいました。いつ、誰が、何を、どのように、計画的受援を進めるべきか解らなかったのです。医療・介護者らは、想定外のことを想定して減災意識を高く保持し、繰り返す豪雨災害に対してフェーズ(局面)を踏まえた診療継続計画を作成、チェックリストなどを備えることが災害復興の第一歩です。
内水氾濫と町中心部を流れる2河川合流部の水位急上昇が、大規模浸水の主要因であると考えられています。水害に対する地域の脆弱性を踏まえた独自の病院防災の在り方が問われています。
次回は脆弱性を考慮した対応策についてお伝えします。
以上