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病院経営立て直し急務 「赤字幅が10%拡大」
全日病の猪口会長と対談

全国保険医新聞2020年6月15日号より)

 新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言は解除されたが一部地域でクラスターが発生するなど警戒が続いている。第1波では、病院など医療現場では感染者の特定と一般患者との隔離が困難となった上、院内感染で病棟閉鎖や外来縮小などに追い込まれた。第2波発生も視野に医療提供・検査体制の強化が喫緊の課題だ。病院経営の危機と課題について全国保険医団体連合会(保団連)の住江憲勇会長と、民間病院を中心に構成する全日本病院協会会長の猪口雄二氏が懇談した。

 

全日本病院協会会長
猪口 雄二
いのくち ゆうじ
 1979年獨協医科大学卒業、寿康会病院理事長・院長を務め、2017年6月より現職。中医協委員。
 

 住江 外出自粛やコロナ感染を懸念して医療機関への受診抑制が大きく広がっています。病院3団体の調査(4月分)で「赤字幅10%拡大」と公表されると、受診減などによる民間病院の経営危機がマスコミで大きく報道されました。
 猪口 4月末に東京新聞で「民間病院6月危機」と報道されたことがきっかけで、新聞各紙やテレビで受診減による病院の経営危機が大きく取り上げられました。これまでは「コロナ患者を受け入れている病床が逼迫している」などの報道が中心でしたが、感染を恐れ、一般の病院でも受診抑制が起こり、経営危機に瀕しているとの認識が広がりました。
 4月の受診減は5月も続き、さらに悪化しています。6月には資金ショートし、病院経営が立ち行かなくなるところも出てくることが強く懸念されました。
 そこで5月1日に四病院団体協議会と日本医師会の連名で、前年度実績に基づく概算請求の適用による減収補填を求める要請書を安倍首相と加藤厚労大臣に提出しました。災害時にも適用されたものです。
 住江 大規模な受診減による経営危機を乗り越えるためには、診療報酬を上乗せする対応では難しいですね。
 保団連でも医科・歯科医療機関の経営破綻を回避するため、同様に概算請求による減収補填を求める要望書を5月1日に、安倍首相などに提出しています。

 

コロナ禍で翻弄された医療現場―財政支援で医療立て直しを

職員の努力に報いれない

 全日病の猪口会長と保団連の住江会長との対談では、国の医療機関支援のあり方などコロナ禍に翻弄された医療現場の課題と展望を探った。病院団体の調査では、コロナ患者を受け入れた病院で病棟閉鎖や外来縮小に追い込まれ赤字が拡大し、病院経営は逼迫している。第2波に備え、地域医療をどう立て直すか、医療・検査体制の強化に向けた課題とは。

 

 住江 2019年医療経済実態調査では、病院全体の損益率はマイナス2.7%です。診療報酬が元々低く抑えられ、病院経営は収益性が低く、余裕資金は十分ではないと思います。さらにコロナ禍で、病院経営は大変な状況になっているのではないでしょうか。

 猪口 病院3団体(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会)が実施した緊急調査(5月27日最終報告)では、深刻な経営実態が浮き彫りになりました(図)。
外来、入院患者とも4月度は大幅に減少し、経営状況が著しく悪化。昨年同月対比で医業利益率が全体平均でマイナス10.1%、コロナ患者を受け入れた病院ではマイナス12%、院内感染などで病棟閉鎖に追い込まれた病院では実にマイナス14.8%となりました。この状況が2カ月続くと経営環境は極めて劣悪になります。夏の賞与はどうなるのか。このままでは職員の努力に報いることはできません。
 住江 2次補正予算案では、新型コロナに対応する医療機関向けの「緊急包括支援交付金」が2兆円に増額され、検査センターの設置費用、慰労金、個人防護具(PPE)の確保、コロナ重症者向けの病床確保への支援、5月診療報酬分の一部前払いなど資金繰り対策などが盛り込まれました。
しかし、コロナ患者を直接受け入れていない医療機関に対しては感染拡大防止等の支援にとどまりました。医療界が求めていた減収補填は盛り込まれていません。病院団体として今後どのように対応されますか。
 猪口 2次補正では福祉医療機構(WAM)の貸付上限(7億2,000万)が撤廃され、前年同月からの減収12カ月分まで融資を受けられるようになりました。診療報酬の一部前払いはWAMから融資が受けられるまでのつなぎ融資となります。
 包括支援交付金が拡充され第2波に備えコロナ病床確保のため空床補助が拡大されましたが、適用を受けるのは大病院や大学病院が中心です。
 民間の中小病院で、コロナ受け入れのため入院患者の受け入れを延期して病床を何とか確保したところもあります。コロナ重症者は想定より少なく、結果として患者を受け入れなかったところは大きく減収となりました。このままではつぶれてしまう病院が出てきます。
 2次補正ではそれらの病院への対応がされていないため、国立、公的、民間病院団体などが加盟する日本病院団体協議会として6月3日に、コロナ感染患者の入院、院内感染の発生や院内感染防止策として行った休床、休棟した病院を対象に前年実績を基に概算請求の適用を要望しました。

 

脆弱な検査体制「今の100倍でもいい」

 住江 院内感染防止と入院患者への対応など大変だったと思います。
 猪口 新型コロナ感染者がピークを迎えた4月上旬は、保健所にPCR検査を依頼してもなかなか検査をしてもらえませんでした。国が当初示した「37.5℃以上が4日間継続している」との基準が現場で厳格に運用され、医師が必要と判断しても検査ができない状態が続きました。
 PCR検査が難しいので、胸部CTを多用し診断しましたが、PCR検査による確定診断ができないため、疑い患者は自宅待機にとどまりました。実際の陽性者は、報告された数の何倍いるかわからない状態となり、病院では入院患者や医療従事者の不顕性感染が発生することを一番恐れていました。
 コロナ患者を扱う医療機関では、個人防護具(PPE)を装着し、手洗い等感染防御が徹底されていますので、医療者の感染は報告されていません。
 住江 保団連は、入院前や手術前など、治療を行うために医師が必要と認めた場合にはPCR検査が実施できるようにするなど、検査体制の抜本拡充を求めています。
 猪口 重要です。コロナ入院患者の病床逼迫は解消してきました。今こそ第2波に備えて検査体制を大きく拡大すべきです。PCR検査を一般の血液検査と同じように医療機関で検体を採取してそこで判定できることが望ましいです。
 政府は、検査数1日2万件を目標と掲げましたが、実績は数千件にとどまっています。検査数は今の100倍ぐらい増やしてもいいのではないでしょうか。院内感染が生じると病院は2カ月ぐらい機能が制限されます。各病院では、外来、入院、術前患者などへの検査実施でどれだけコロナ患者を洗い出せるか、そして院内感染をいかに防止するかが課題となります。
 老健など介護施設でクラスターが発生し、要介護高齢者が感染した場合の対応も喫緊の課題です。防護具をつけて介護をするのはほんとに大変です。

 

手術延期で悪化懸念

 住江 保団連の緊急調査(速報)では、9割近い医療機関で外来患者が減少し、減少幅が30%以上におよぶ医療機関が3割を占めています。受診を中断された患者さんの健康が悪化しないか非常に懸念しています。
 猪口 病院でもコロナの感染拡大を防止するため、入院患者の新規受け入れ停止、手術や健診の延期などの対応がされました。慢性疾患の患者さんは、病院でのコロナ感染を心配して受診抑制されています。さらに外出自粛で高齢者の骨折など外傷が減少したことも影響し病院も外来・入院とも患者が減少しています。
 住江 保団連調査では、5割以上の受診減が小児科で28%、耳鼻科で24%と顕著でした。乳幼児健診やワクチン定期接種の先延ばしが増加しており、子どもの健康への影響を懸念しています。学校が再開し、集団生活が始まる今こそ、対面診療で安心して受診できる体制の整備と合わせて、医療者が受診を呼び掛けていくことも大事です。
 猪口 慢性疾患の患者さんも、特に血糖コントロールができていないと全身に波及します。受診を抑制し手術の予約を延期していた方などにも早く受診を再開してもらえるよう各医療機関での呼び掛けが必要だと思います。

 

対面の必要性を痛感

 住江 患者さんの受診の機会を保障するため、コロナ禍での電話や情報通信機器による診療が臨時措置として解禁されましたがどのように対応されましたか。
 猪口 通院を控えていた慢性疾患の患者さんには、「電話再診」が大変役立ちました。
 初診からのオンライン診療も認められましたが、多額の経費をかけて情報通信機器を一式揃え、高齢患者にも通信機器を使わせることは無理があります。感染収束後も初診からのオンライン診療解禁を継続すべきとの意見もありますが、やはり対面での受診が必要と痛感しています。
 私は整形、リハビリが専門ですが、骨折などの診断では検査と視診、触診、打診などが不可欠です。話だけ聞いて腰が痛いから鎮痛剤を処方するというわけにはいきません。
 住江 第2波の流行に備え、検査・医療体制を抜本的に強化は患者や医療者の共通の願いです。また、安心して受診できる環境を整えるためにも医療機関の立て直しが急務です。そのためにも2次補正予算で医療機関の減収補填を引き続き求めていきます。

以上