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【支払基金改革を考えるB】医療保障の確立に貢献

全国保険医新聞2018年6月5日号より)

 

 

 医療機関に診療報酬を支払う支払基金の「改革」に向けた議論が進んでいる。全国社会保険診療報酬支払基金労働組合(全基労)中央執行委員長の平岡信彦氏に医療への影響などを連載で解説してもらう。(6回連載。第1回「国民の医療保障に関わる」第2回「医師の裁量否定しかねない」)。

 

 支払基金は、規制改革会議でのICTの機能を使うべきだ、とする意見に応えるためには、9割をコンピュータチェックで完結するという計画を進めなければなりませんが、機械で判断できるレセプトを増やすことは、医師の裁量権を認めている出来高払いの診療報酬制度と、それを前提にした公的医療保険の審査実態が壁になります。
 全基労は、「コンピュータチェック項目について医療関係団体との協議を十分に行うこと」を支払基金に対して要求しています。支払基金は医療機関団体との協議については「適切でない」としていますが、コンピュータでチェックされた項目の審査については「個々のレセプトに即して、患者の病状、病態、特性を把握した上、医療機関の診療傾向も踏まえて審査委員の医学的判断により行う」との回答をしています。支払基金の審査の在り方を示したものであり、「機械審査」に対抗する審査の原則です。

 

憲法施行の時代に

 このような支払基金の審査原則は支払基金の設立の経緯と性格によるものと考えられます。
 支払基金は1948年8月分から審査・支払事務を取り扱うこととなりましたが、このことで保険診療の請求事務の簡素化、診療報酬の支払いの迅速化を可能とし、社会保険による医療保障を確立・定着することに大きく貢献しました。
 また、最高意思決定機関である理事会が、保険者、被保険者、診療担当者、公益の四者構成となっていることは「もっとも民主的な運営に資する」(支払基金法の提案理由説明)ものです。審査委員会も保険者、診療担当者、学識経験者による構成で、中立・公正な審査を担保しています。
 支払基金設立の前年に施行された日本国憲法の第25条では、社会保障の向上および増進に努める国の義務が明記され、戦前の慈恵的・恩恵的な制度と異なり、権利としての社会保障制度確立の根拠が定められました。こうした中での支払基金の設立であったことも今日の支払基金「改革」を考える上で踏まえておくべきことでしょう。

 

「HIRAを目指す」計画は不適切

 支払基金の民主的運営の一端を示したのが、「効率化計画」をめぐる理事会での議論でした。理事会では診療代表の理事を中心に、さまざまな批判的意見が出されました。
 韓国の診療報酬審査機関であるHIRA(韓国健康保険審査評価院)を参考に計画を進めるかのような記述に対して、「日本と医療保険制度が異なり、混合診療を基本とする韓国のHIRAを目指すような記述は不適切」との批判があり、「今後の取組」ではHIRAに関する記述は削除されています。
 「効率化計画」に示された方針が今後どうなるのか、予断することはできませんが、国民に対する医療保障を公的保険によって賄うのか、それとも公的保険の範囲を縮小して保険外の「自由診療」に道を開くのか、そのことにも関わる問題だと思います。

以上