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小児がん最新医療の現場から
― これでいいのか日本のがんゲノム医療 ―

名古屋大学名誉教授 小島勢二
全国保険医新聞2018年7月15日号より)

 

 

高額な遺伝子解析

こじま・せいじ
1999年に名古屋大学小児科教授に就任、2016年3月に同大学を退官。愛知協会会員

 がんゲノム医療に期待が寄せられている。これまでは、抗がん剤治療はがんの種類によって決められていた。すなわち、白血病に対しては、最大公約数の白血病患者に効果がある抗がん剤を組みあわせてプロトコールを立案し、すべての患者は同じ内容の治療を受けてきた。最近開発が著しい分子標的薬は、がんの種類を問わず遺伝子変異の種類によってその効果は規定される。変異にマッチした分子標的薬を用いれば高い効果が期待できるが、外れていれば、効果は期待できない。
 このような医療が出現したのも、次世代シークエンサー(NGS)の登場により、同時に多数の遺伝子変異を検査できるようになったからである。NGSによる解析方法も、ターゲット解析といって100〜500個のがんの原因となる遺伝子のパネルをつくり解析する方法と、2万個あるすべての遺伝子を網羅的に解析する方法(全エクソーム解析、RNA解析)とがある。
 わが国でこの検査を受けるには、無償で行われるアカデミアの臨床研究に参加するか、一部の医療機関がおこなっている自由診療を利用する方法がある。問題は自由診療では、ターゲット解析でも、60〜100万円の自己負担となる点だ。この4月から全国11のがんゲノム医療中核拠点病院で、がん遺伝子を対象としたターゲット解析が先進医療として実施できることになったが、患者の自己負担は46万円と高額である。海外では数万円で、同じ検査を受けることができるのとは大違いである。

 

アカデミアでは数万円で検査可能

 名古屋大学小児科では、2013年から自施設のNGSを使って、血液病や小児がんの遺伝子検査をおこなっている。名大病院を受診する患者のみでなく、全国、さらに海外の施設からの依頼にも応じている。研究費による臨床研究なので、患者負担はない。自施設でNGSをつかって1検体を検査するのにかかる費用は、ターゲット解析で2万円、全エクソーム解析やRNA解析でも5万円である。NGSによる解析費用は使用する機器で規定される。
 上記の費用は、名大が所有する従来の機器(HiSeq)を用いた場合であるが、昨年発売された最新機器 (NovaSeq)では、全エクソーム解析やRNA解析の試薬代は1万5000円に値下げされた。最新の機器を用いて、自施設で検査すれば、網羅的遺伝子解析も決して高額な検査ではない。なお、昨年、全世界で285台のNovaSeqが販売されたが、そのうちわが国が購入したのは2台のみと聞いている。
 実際に、まったく抗がん剤に不応であったが、網羅的遺伝子解析で効果が期待できる分子標的薬を同定し救命できた白血病の小児を経験している。小児がんは、それぞれが稀少疾患であり、専門の病理医でも診断に迷うことが少なくない。それぞれの小児がんには特有の融合遺伝子が対応しており、RNA解析で正確な診断に至った例も少なくない。
 ゲノム医療の推進に、高額な遺伝子検査費が障害となっているわが国の現状は、海外から取り残されていると言わざるをえない。(了)

(3回連載。第1回「皆保険蝕む高薬価 @ GVHD治療薬の場合」第2回「皆保険蝕む高薬価 A CAR-Tの場合」

以上