ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次

病院の災害危機管理 台風19号激甚災害の街 丸森から

第3回 地域特有の脆弱性、病院防災の基本

全国保険医新聞2020年5月25日号より)

 

八巻孝之
(やまき・たかゆき)
 東北大学第一外科出身。肝臓疾患研究班に所属、文部教官助手を経て、2000年医学博士。仙台医療圏の科長・部長職を歴任し、16年3月から生まれ故郷の国保丸森病院副院長に就任。令和元年秋の台風豪雨で大規模災害を経験した。20年1月から国立病院機構宮城病院勤務。

 昨秋台風19号で激甚災害を被った宮城県丸森町、町中心部の大規模浸水や山間部集落の土砂崩落の背景には、風光明媚な阿武隈山系と阿武隈川支流に地域特有の脆弱性があった。第3回は、毎年襲来する台風に対する町と病院の想定防災・減災の考えを解説してもらう。(毎月5日号で全5回掲載予定。第2回第1回

 

 大規模浸水で2日間孤立した町中心部、土砂崩落と道路寸断の多発で孤立した山間部集落、そして約20センチの床上浸水で安全な医療が提供できなかった機能不全の病院――
 あの日、町は数時間前からポンプ場のポンプとポンプ車をフル稼働、しかし、ポンプ車1台を除いて排水機能停止、町中心部は泥の湖に浮いたのです。この経験は、町の排水機能のバックアップや代替供給能を十分に高めておく必要性を浮き彫りにしました。

 

内水氾濫という弱点

 なぜ町が広範囲に浸水したのか。町中心部は北側を阿武隈川、南側を阿武隈川支流の新川と内川に囲まれ、西側には山がそびえる盆地状の市街地です。現地を調査した東北大学災害科学国際研究所は、大規模浸水は阿武隈川の氾濫ではなく、山に降った雨水が市街地に集まり、排水されずにあふれる「内水氾濫」が主要因であると分析しました(図)。

【図】東北大学災害科学国際研究所ホームページで公開の森口周二准教授作成資料より
※クリックすると拡大します

 私は、2015年関東東北豪雨や1986年「8.5豪雨」を経験した町の患者さんから、この場所は「扇状の湿地帯」なので昔から危険なのだと聞いています。水害の広域拡大は人災だと言う住民にも会いました。私たちの「避難行動の道しるべ」となる町のハザードマップは決して万能ではないものの、しっかりと確認しておく必要があります。

 

堤防、道路素材、山火事も影響

 阿武隈川支流の内川と新川、五福谷川で多発した堤防の決壊は、被害拡大の連鎖となりました。通常、川から水があふれるのですが、今回は逆であったという指摘は、堤防の造り方にも対策が必要であることを示しました。
 町の道路150カ所が斜面崩壊で塞がり、41カ所で道路の路盤が崩落した山間部では、多くの犠牲者が発生しています。降水量の多さと風化しやすい花こう岩の地質が主因でした。

【写真】被災4か月後、役場と病院へ続く幹線の通行止め(筆者撮影)

 また、人命が奪われた場所や土砂崩壊の多発地帯は、かつて約160ヘクタールを焼いた2002年3月の山火事発災エリアとほぼ一致していました。県と町は03〜07年、山火事が及んだほぼ全域にスギやナラを植え森林再生に取り組んできましたが、植林されたスギはまだ樹齢が若くて岩盤まで根が入らず、土砂崩れが起きやすくなっていたのです。
 豪雨災害に対する地域特有の脆弱性を踏まえた独自の防災の在り方が問われています。脆弱性を熟知し、事前の避難行動を徹底しないと被害は減ることがありません。
 被災した町と病院は、想定浸水に対する減災の高い意識、中枢機能のバックアップや代替供給能の備え、フェーズ(局面)に応じた事業継続計画の作成、指揮系統の共有化、形骸化させない事前訓練、被災直後の職員確保、帰宅困難職員への配慮と支援などを、決して忘れてはなりません(写真)。

以上

ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次