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世界で再興するコモンズ 第1回

フランス・レンヌの水道事業

全国保険医新聞2021年10月15日号より)

 

 水道、電力、住宅や道路などのインフラ、医療や介護など人をケアするシステム、さらには自然環境―、これらは私たちの暮らしに必要不可欠であり、私的な所有形態が適さないコモンズ(公共財)だ。近年はコストとして圧縮、削減されてきたこれらの分野は、コロナ禍を経て、その重要性が再確認されている。世界の公共政策に詳しい岸本聡子氏(オランダ・トランスナショナル研究所、写真)に、公的機関と市民で公共財を守る具体例を紹介してもらう。(全3回、随時掲載)

 

市民運動が政治との関係つくる

イメージ動画。
どちらも同研究所ホームページから見られる
トランスナショナル研究所が行った調査報告「公とコミュニティーの協力・連携」(英語版のみ)

 さて、宮城県議会で日本初の上下水道等の民営化が今年7月に承認され、秒読み段階になっている。市民の懸念は深く、水道民営化の手続きの凍結を求める署名はおよそ2万筆が集まった。それに対して村井嘉浩知事が「1万人超えの人が疑問をもっていると受け止めている。非常に多くの県民は理解している」と、正当な市民の懸念を一蹴した。
 私は、この態度に主権者を軽んじる彼の姿勢の全てが出ていると思った。主権者の声を聴かず暴走する首長、市民とではなくコンサルと一生懸命働く行政。すでに決まった都市計画や政策を上から目線で押し付けてくる自治体。議会は遠く、行政のイメージも現実もとことん悪い。
 こうした関係性を変えられないかと悪戦苦闘した記録、「公とコミュニティーの協力・連携」という調査に取り組んだ。私たちに欠かせない公共財を、自治体や公的機関が地域住民を対等なパートナーとして、共同で運営する事例が世界中にたくさんあることがわかった。
 そしてその背後には、選挙を通じて市議会の力関係を変えたり、地道で自発的な地域の市民運動の長年の積み重ねが、必ずあった。

 

公共調達というツール

 フランス西部の20万都市レンヌ市を見てみよう。レンヌは他の多くの都市と同様に民営化された水道の不透明さを経験した。数年に及ぶ市民運動の結果、2014年に水道の再公営化を果たした。 集約的農業と近代畜産業が主要な産業である地域で、農薬、化学肥料、家畜用の抗生物質が、水源流域の水や土地をひどく汚染した。
 公営の水道供給者である市議会が、汚染を低減する目標を掲げ、水源地の環境を守る政策に取り組み始めた。その方法は、水源地近隣の農家とのパートナーシップを組むことだった。2,000世帯の農家が有機農業に変換する支援の一環として、持続可能な方法で生産された地場農産物であることを示す認定ラベルを作った。そして、これらの農家の農産物を市が買い取り(公共調達)、学校給食の食材として使うことにした。
 水源の汚染を低減すれば、水道水を作る過程で必要な化学薬品を減らすことができ、より自然でおいしい水を住民に提供できる。地域圏の学校給食(一日合計1万1,000食)は地場の有機の果物、乳製品、パン、肉類、野菜が主になり、子どもたちに安全で栄養ある給食を提供できるようになった。
 給食のような公共食は需要が安定している上、一定の規模があり、計画を立てやすいため、有機農家を支える要になり得る。これが自治体の公共調達というユニークなツールの力である。
 レンヌ市は、持続可能な地域農産業を活性化し、流域環境を守り、子どもや住民の健康を守る複数の政策目標を同時に達成できた。そのスタートは地元農家とのパートナーシップだった。
 近年、日本や韓国では、学校給食に有機農産物を使用する「給食革命」への動きが起こっていると聞き心強い。国境を越えて、自治体や市民が経験を共有すればもっと大きな力になりそうだ。
 私たちの暮らす国や地域の外から持ち込まれ、その成果が外に駄々洩れする成長路線から脱却し、必要不可欠な地域の公共財を公的機関と市民で守り育てる――。コロナ禍や環境破壊に直面にして、私たちは政治の中心課題を大きく変えなくてはいけない。

以上

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