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世界で再興するコモンズ 第2回

英国・プリマスの電力政策

全国保険医新聞2021年11月5日号より)

 

 水道や電力などのインフラ、医療や介護など人をケアするシステム、さらには自然環境――、これらは私たちの暮らしに必要不可欠なコモンズ(公共財)だ。世界の公共政策に詳しい岸本聡子氏(オランダ・トランスナショナル研究所、写真)に、公的機関と市民で公共財を守る具体例を紹介してもらう。第2回は英国プリマス市の気候変動とエネルギーの取り組み。(全3回、随時掲載)


 

(上)トランスナショナル研究所が行った調査報告「公とコミュニティーの協力・連携」(英語版のみ)と、(下)イメージ動画。どちらも同研究所ホームページから見られる

民営化が生んだ「電力貧困」

 最初に「ジャスト・トランジッション(公正な移行)」と「電力貧困」という言葉を紹介したい。
 目の前に迫った気候変動危機を回避するために、化石燃料中心の経済から再生可能エネルギーを中心とした低炭素化社会に移行していかなくてはいけないというのは、共通認識になりつつある。ではどのように、というのが鍵だ。「ジャスト」は「公正な」という意味。社会正義を伴った移行でなければならないという考えが「ジャスト・トランジション」だ。
 その背景としてあるのが電力貧困。ヨーロッパでは電力の民営化が極度に進んだ結果、皮肉なことに寡占化が進み電気料金が高騰している。英国で、電気料金の支払いに困る世帯―この状態を電力貧困という―は、13.4%と無視できない規模になっている。
 かつて港町として栄えた英国南西部の小都市プリマス。近年は製造業が低迷し、経済的な繁栄や安定は程遠いものとなった。10年以上に渡る国の厳しい緊縮財政は、社会的支出の大幅な削減という形で地方に現れ、住民の健康、公衆衛生が大きく後退した。子どもの貧困率、電力貧困世帯率共に40%に上った。
 このような状況の中で、市議会は健康の悪化と電力貧困という関連した問題を解決するために、地域のコミュニティーと協力する道を選んだ。市議会は、のちにプリマスエネルギーコミュニティー(PEC)として知られる地域住民の組織を、対等なパートナーとして位置づけ、立ち上げることに協力した。

 

住民所有の再エネ事業が活路に

 以来、PECは市議会と二人三脚でエネルギー関連のプロジェクトに取り組んできた。PECの挑戦の一つは、地元住民が所有できる太陽光などの再生可能エネルギーインフラを作ることだ。そのために市議会からの融資に加え、コミュニティー債を発行し、地域住民が50ポンド(約7,500円)から「投資」できる仕組みを作った。
 このような資金調達を経て、現在、小学校や公民館の屋上など21カ所に及ぶ太陽光パネル群の設置を成功させた。これらのインフラから2万1,418メガワットのクリーンなエネルギーを地元のために生産することができた上、利益も出している。
 PECのソーラーファームから生まれた収益は市民投資家に還元した後は、サービス向上や料金低下として利用者に還元する。さらなる余剰は電力貧困世帯を支援する社会プログラムに充てられ、エネルギーアドバイザーという新しい雇用も創出できた。地元の経済と福祉を全体として向上させるモデルだ。
 市議会はPECのような地域組織を支援し、単なる下請けではない、対等なパートナーとして協力関係を築くことで、電力貧困世帯と地元のクリーンエネルギーをつなぎ、住民主体のジャスト・トランジッション戦略を展開している。
 「公正、廉価で低炭素の電力システムを、住人たちを中心に置いて作り、地域と地域に住む人を活気づける」というPECの使命は、市議会の支援なしには実現しなかった。逆に、市議会や自治体だけが舵を取っても、住民所有の再生可能エネルギーインフラが成長し、富が地域に循環することもなかっただろう。
 再生可能エネルギーはどこにでも存在する地域の資源だ。外国の企業などではなく、公的機関と住民が所有し、民主的に管理することで、気候変動や不平等という今日的な難題を、地域の力を蓄える前向きな課題に変換できる。

以上

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