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病院の災害危機管理 台風19号激甚災害の街 丸森から

最終回 自然災害に強い地域と病院を作る

全国保険医新聞2020年7月15日号より)

 

八巻孝之
(やまき・たかゆき)
 東北大学第一外科出身。肝臓疾患研究班に所属、文部教官助手を経て、2000年医学博士。仙台医療圏の科長・部長職を歴任し、16年3月から生まれ故郷の国保丸森病院副院長に就任。令和元年秋の台風豪雨で大規模災害を経験した。20年1月から国立病院機構宮城病院勤務。

 昨秋台風19号で大きな被害がでた宮城県丸森町。本連載では国保丸森病院元副院長の八巻孝之氏(宮城協会)に、被災の経験と教訓を聞いてきた。最終回は、自然災害のリスクとの向き合い方、地域医療を守る構えなどを語ってもらう。(全5回掲載。第4回第3回第2回第1回

 

 東日本大震災の被災地を襲った昨秋の台風19号は、復興の陰に潜んでいた水害の盲点を浮かび上がらせました。海に加え、川や山の災害リスクにどう向き合えばいいのか。減災対応を再考し、自然災害に強い地域の病院づくりについて述べたいと思います。

 

「想定外」の想定を

 今回被害の大きかったのは町中心部です。周囲を増水した川と山に囲まれることになり町の排水機能が失われるという地形特有の脆弱性が浮き彫りになりました。山や宅地に降った集中豪雨をいかに早く川そして海に流すかが課題となります。
 最も基礎的かつ重要なのは市町村で管理する準用・普通河川の流量のモニタリングです。また、自然排水路の清掃徹底と拡張、強制排水機能の代替策の備え、堤防の決壊要因分析に基づく支流整備なども重要です。
 台風の進路予測は可能で、土砂崩落は地形からある程度のリスクを把握できます。しかし、多くの人命が奪われた山間部では、通信状況の悪化や停電などによって自分の命を守るための情報把握や正しい判断が困難であったと推測します。特に高齢者は情報入手や意思疎通に難航されたでしょう。
 いつの時点でどこが危険になるのか、行政も住民も事前検証と「想定外」を想定した備えを怠ってはいけません。

 

行政、住民一緒に

丸森の商店街に貼られたポスター

 水害を身に迫った危険と捉えるかどうかは個人差がありますが、ハザードマップの再検証と周知徹底は極めて重要です。平時からの備えの大事さは、なかなか伝わりません。
 今年2月初め、町では役場の議場で地元中学生を議員とする模擬議会が開かれ、生徒から「復旧の足取りが遅れたのではないか」と水害防止策を問いただされたそうです。ぜひ、「10.12」を町防災の日と定め、町防災に対する住民アンケートを行うなど、リスクを最小化するアイデアを行政と住民で日頃から話し合って欲しいと思います。行政は、早期避難を促すための複数の避難路確保と災害弱者支援についても見直し、町の実情に合わせた良い避難行動の策定にも取り組まなければなりません。

 

災害医療のオピニオンリーダーに

 第2回から第4回まで病院防災について述べてきました。今後の病院には、▽防災検証チームや減災ワーキンググループの設置▽初動体制と病院災害対策本部運営のマニュアルの策定▽被災者医療支援の在り方の再考▽人的物的受援の連携構築―などの対策が必要になると考えます。災害医療のオピニオンリーダーとなって多くのメッセージを発信してほしいと願うばかりです。
 私の生まれ故郷である丸森は、自立自尊の精神を育んできた町です。台風豪雨による浸水被害に強い病院づくりを目指して、現況から必ず立ち直れると信じています(写真)。

以上

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