地域医療の崩壊を食い止めない改定率に抗議する ~2026年度診療報酬改定率について~ 

2025年12月26日

全国保険医団体連合会は12月26日、以下の談話を発表しました。

https://hodanren.doc-net.or.jp/wp-content/uploads/2019/09/251226-kaiteiritsu.pdf

地域医療の崩壊を食い止めない改定率に抗議する ~2026年度診療報酬改定率について~

厚生労働省 は12 月24日、2026年度の診療報酬改定率を発表した。医師の技術料、人件費や消耗品などを賄う本体部分に相当する「診療報酬」を+3.09%(2年度平均)とする。内訳として、「賃上げ対応」に+1.70%、今後2年間の「物価対応分」に+0.76%、過去2年間の「経営環境の悪化を踏まえた緊急対応分」に+0.44%、「食費・光熱水費分」に+0.09%、以外の改定分に+0.1%(うち、適正化・効率化に-0.15%)を充てる。他方、薬価で-0.86%、材料価格で-0.01%の計-0.87%とする。「診療報酬」と薬価等を合計した全体での改定率は+2.22%となる。
加えて、経済・物価の動向が2026年度診療報酬改定時の見通しから大きく変動し、医療機関等の経営状況に支障が生じた場合には、2027年度予算編成において、賃上げ・物価対応等に関わって「加減算を含め更なる必要な調整を行う」としている。

地域医療の崩壊を食い止められない

本体部分は+3.09%となり、30年振りの3%台とされるが、本会、病院団体はじめ医療界が求めてきた10%水準の引き上げとは程遠い改定率である。これでは医療現場の疲弊は止まらず、事業の継続は厳しく、地域医療の崩壊を食い止めることはできない。
この間、医療機関では利益率(2024年度)が大きく落ち込むとともに、一般病院の68%、医科診療所(医療法人)の37%、歯科診療所(医療法人)の33%で赤字であり、多くの医療機関で経営が成り立っていない(※病院は医業利益、診療所は経常利益)。加えて、医療機関は感染症対策の強化、建替え・設備の維持・更新や低い賃金水準、さらには重い消費税負担など多くの課題を抱えている。こうした中、病院・診療所の倒産数は過去最悪のペースが続いている。
公定価格で経営が成り立たない中、医療界は一般産業並の賃金を支払い、日々の診療提供が成り立つよう、大幅なプラス改定とするよう求めてきた。本会や病院団体は地域医療提供体制を維持・確保するために、少なくとも10%のプラス改定が必要と主張してきた。厚労省も当初本体改定率5%を財務省に求めていたとも報道される。本体改定率+3.09%では事業の継続も厳しく、地域医療の崩壊を食い止めることは困難である。
物価上昇等が想定以上に進み、経営に支障が生じた場合、2027年度に賃上げ・物価対応分などについて調整(加減算)するとしているが、具体的な中身は記載されていない。加算は空手形に終わる一方、減算される事態の可能性も否定できない。まずは、事業継続が確保されるよう、10%水準の改定率こそ確保すべきである。

賃上げ対応は財源不十分、実効性も不透明

「賃上げ対応」に+1.70%をあて、26年度・27年度でそれぞれ3.2%分のベースアップ(看護補助者・事務職員は同5.7%)を支援するが、人事院の給与勧告(2025年)の3.62%よりも低い。3.2%のベア目標も自助努力とされかねない「医療現場での生産性向上の取組」と合わせて支援するとしており、目標未達成の責任が医療機関に転嫁されかねない。今でも医療関係職種(医師・歯科医師を除く)の月給与平均(2024年度)は産業全体を5%弱下回っている。このままでは離職の抑制、人材の確保は困難である。少なくとも10%程度の賃上げが可能となるよう、財源の抜本的な上乗せが必要である。
対応方法も疑問である。+1.70のうち+0.28%については、ベースアップ評価料の対象職種に加えて、2024年度改定において基本報酬引き上げで賃上げを後押しした職種(40歳未満の勤務医、事務職員など)についても、ベースアップ評価料の対象職種と同様に「実際に支給される給与(賞与を含む)に係る賃上げ措置の実効性が確保される仕組み」を構築するとしている。
煩雑な事務を要するため、ベースアップ評価料を届け出ている医療機関は、医科診療所の4割、歯科診療所の3割半ばに留まる。全ての医療機関(医療従事者)の賃上げが可能となるよう、賃上げ対応は初診料・再診料、入院基本料など基本報酬の引き上げで行うべきである。

診療所は実質マイナスで疲弊 医療の過疎・空白が進む

賃上げ・物価対応等以外の改定財源はわずか+0.1%である。賃上げ・物価対応等は経営・経済環境が変化する中、“現在の経営条件の再建・維持”を念頭に置くものである。残りの財源が+0.1%では医療の改善は望みようもない。
しかも、+0.1%のうち、使途を限定しない改定分が+0.25%、適正化・効率化で-0.15%であり、後者は、「後発医薬品への置換えの進展を踏まえた処方や調剤に係る評価の適正化、実態を踏まえた在宅医療・訪問看護関係の評価の適正化、長期処方・リフィル処方の取組強化等による効率化」などであり、地域に密着した診療所・病院に大きな影響が及ぶ。また、外来医師過多区域において無床診療所の新規開業者が不足する医療等を担わない場合(やむを得ない理由がある場合は除く)、「診療報酬上の減算措置」が講じられる。
医科診療所は実質マイナスになることが強く危惧される。地域医療は病院と診療所が両輪となって支えている。診療所の報酬引き下げは、閉院を促進し、病院に負担を集中させ地域医療を縮小させるとともに、医療過疎・医療空白の地域を増やすことになる。

高齢者偏重の負担増が目にあまる

「食費・光熱水費分」の+0.09%は、入院について食事代を1食40円、水光熱費(療養病床に入院する65歳以上)を1日60円を患者負担増とした上で、低所得者の負担増を緩和するなどの財源手当である。療養環境の保障に向けて患者負担増でなく、医療機関に持ち出しが生じないよう保険給付分を抜本的に引き上げて手当てすべきである。
さらに、「社会保障制度改革の推進」として、OTC類似薬、長期収載品やエンシュア・リキッドなど「食品類似薬」に関わる薬剤給付制限や、2割・3割負担者の対象拡大、高額療養費の外来特例などの縮小、75歳以上の保険料・窓口負担における「金融所得」の勘案などをあげている。患者負担増、とりわけ高齢者に偏重した負担増が目にあまる。

保険料軽減うたうが、現役世代に負担増

患者負担増によって保険料の軽減(手取りの増加)を進めているが、OTC類似薬の給付制限や高額療養費の月負担限度額引き上げなどで保険料軽減は1人・月150円程度と微々たる一方、アレルギー性疾患などが多い子育て世帯や、がんなど重篤疾患をり患した現役世代に大きな負担増となる。医療への国庫負担割合を増やすとともに、過去最高を更新し600兆円に迫る大企業の内部留保を社会的に還元して、賃金水準を抜本的に引き上げることや、大企業の利益に応分な税負担を求めることが必要である。

深刻な物価高騰、低く据え置かれた診療報酬や人手不足の下、医療提供基盤が縮小・地盤地下し、医療機関の存続そのものが危ぶまれる危機的状況にある。このままでは、保険あって医療なしという1960年代の国民皆保険導入時の状況に戻りかねない。本会は、地域医療の崩壊を食い止めるには程遠い2026年度の診療報酬改定率に対して強く抗議するとともに、10%水準の抜本的なプラス改定を求めるものである。