診療報酬オンライン請求「義務化」方針の撤回を求める(声明)
2023年3月28日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
厚労省は3月22日、社会保障審議会(医療保険部会)に、光ディスクなどで請求する医療機関に対して、原則2024年9月末までにオンライン請求に移行することを実質上義務付ける計画案(ロードマップ案)を示した。紙レセプト請求者に対しても、2024年4月以降は新規適用を終了し、既存の適用者には改めて届出を提出するよう求めるとしている。この実行のため2023年度中に請求省令を改正し、期限を区切って実施を迫るものとなっている。
突如示された「義務化」方針
この計画案は、昨年6月に閣議決定された規制改革実施計画の「社会保険診療報酬支払基金等における審査・支払業務の円滑化」という項で、「将来的にオンライン請求の割合を 100%に近づけていく」、「2022年度末までにロードマップの作成を措置する」としていた内容を具体化したものだが、突如1年半後に期限を切ってオンライン請求を「義務化」するという驚くべき方針である。これは医療機関におけるオンライン資格確認整備の義務化に便乗して、医療機関にさらなる負担と混乱を持ち込むものであり、強い憤りを覚える。医療DXを旗印に地域医療に徒に混乱を持ち込み、医療機関の経営を窮地に追い込むこのような政策には断固抗議するとともに、直ちに撤回することを強く要求する。
2021年3月に発表された「審査支払機能の在り方に関する検討会報告書」においても、オンライン請求の促進は掲げていたが、「医療機関・保険者等において、混乱なく取り組むことが可能となる環境整備が必要」としていたことから見ても、今回の計画案は医療機関の置かれている実態を全く考慮しないに等しいものである。
歯科の6割が甚大な影響
厚労省は光ディスク等で請求する医療機関について、アンケートを基に移行計画を示したというが、少なくとも、オンライン請求移行に要する期間が「1年以上」「わからない」と回答した数は6割にのぼる。またオンライン請求を開始する予定について「予定はない」が47%と約半数が回答している。このような状態で1年半後に「義務化」を強行するつもりなのか。とりわけ、人手が少ない小規模施設が多く、光ディスク請求を選択している6割の歯科診療所は影響が大きいことが予想され、歯科診療の安定確保さえ危惧される。医科も18,000医療機関に影響が及ぶ。
紙レセプト請求する多くの高齢医師・歯科医師等についてもわざわざ、紙レセプトは「経過的な取り扱いであることを法令上明確化」した上、改めて届出を求めるなど余計な負担を課すものとなっている。これではかえって閉院・廃院を後押しし、理不尽な結果も招きかねない。
審査効率化のため医療の質向上を犠牲
そもそもレセプトオンライン請求義務化を撤回した2009年11月25日の厚生労働省令第151号の概要説明で厚労省は「電子媒体による請求であっても、医療保険事務の効率化、医療サービスの質の向上等の政策目標は達成可能である」としていた。オンライン請求が全医療機関等の約70%に達している現段階で、地域医療の確実な確保や医療サービスの質の向上を犠牲にして、「より効果的・効率的な審査支払システムによる審査等のため」、「義務化」を無理強いするのはまさに本末転倒である。
厚労省は、医療機関に対してオンライン請求のメリットなどを強調しているが、そもそも、各医療機関は自院の診療スタイルなども考慮した上で、現状の請求方法を選択している。厚労省はメリットを強調するのであれば、まずは個々の医療機関に懇切丁寧に説明してオンライン請求を自発的に促す働きかけこそ行うのが筋であり、期限を区切って「義務化」を迫るような、極めて威圧的かつ乱暴なやり方と言わざるをえない。
医療DXの踏み台に
そもそも、今回のオンライン請求の「義務化」計画案は、データヘルス改革はじめ「医療DX」の工程管理から明らかなように、審査支払機関を、レセプト分析等を通じた「医療費適正化」(今次法改正で組織理念に追記予定)や医療等ビッグデータ(全国医療情報プラットホーム)の構築・管理に総動員させるために、医療機関に審査業務の手間がかからないオンライン請求に移行させることが狙いである。国が医療DXを進めるため、光ディスク請求等医療機関を踏み台にし、廃業しようがお構いなしの計画案だというべきものである。
コロナ感染拡大が続き、地域の医療機関に多大なストレスかかり続ける中、医療経営を人質にとってオンライン請求を強制するようなことは到底容認しえない。本会は医療機関にオンライン請求を実質上義務付ける提案を即時撤回するよう求めるものである。
3月29日 地方創生及びデジタル社会形成等に関する特別委員会
芳賀道也参議院議員
厚労省は3月23日、社会保障審議会医療保険部会にて、これまで病院・診療所がCD-ROMなど、光ディスクを使って診療報酬明細書の請求を健康保険組合や国民健康保険組合など保険者に行っていた場合に、原則2024年9月末までにオンライン請求に移行するよう実質的に義務付ける「ロードマップマップ案」を示しました。CD-ROMなど光ディスクでレセプト請求をしてきた医療機関は、レセプトのオンライン請求が原則義務化とされていますが、基本的考え方にあるように、例外となるのはレセコンを保有していないが、外部委託でCD-ROMなど、光ディスクでレセプト請求をしているごく一部の医療機関だけで、他の全ての光ディスクでレセプト請求している医療機関はオンライン完全義務化になってしまうのではないでしょうか。いかがでしょうか。
厚生労働省大臣官房森光審議官
3月23日に開催されました社会保障審議会医療保険部会におきまして、昨年6月に閣議決定されました規制改革実施計画に基づきまして、オンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップが取りまとめられたところでございます。
このロードマップにおきましては、光ディスク等により請求を行う医療機関、薬局につきまして、令和5年4月からのオンライン資格確認の原則義務化によりまして、オンライン請求も可能な回線が敷設されると、こういう機会を捉えて、令和6年9月末までに原則オンライン請求に移行することをロードマップとして示しております。一方で委員がご指摘されましたように、レセコンを保有せず外部委託により光ディスク等による請求を実施しているなど、令和6年9月以降も光ディスク等による請求をせざるを得ない医療機関・薬局については、移行計画の提出を求める、これによりまして1年単位で引き続き光ディスクによる請求を可能とすることを盛り込んでいるところでございます。
こうした取り組みを行うことで、令和6年9月末までにオンライン資格確認を導入した全ての医療機関・薬局が、オンライン請求に移行するということを目指すということとしております。医療機関・薬局にはオンライン請求のメリット、これを理解いただきながら、わかりやすい情報発信や個別の事情、これを踏まえた対応を行うことが重要であると考えておりまして、厚生労働省、関係団体、システム事業者など関係者が一丸となって取り組みを進めていきたいと考えておるところです。
芳賀道也参議院議員
ズバリお答えいただくと、この例示以外にも例外はあるということでいいんですか。
森光審議官
ただいま申し上げた取り組みを行うということで、令和6年9月末までにオンライン資格確認を導入した全ての医療機関・薬局をオンライン請求に移行することを目指しております。一方で、光ディスク等で請求を行う医療機関・薬局のうち例えば光回線が未整備である離島・山間地域に存在するなどやむを得ない事情によりオンライン資格確認の経過措置に該当するような場合、これは、オンライン請求の移行についてもやむを得ない事情があると考えておるところでございます。
芳賀道也参議院議員
こういった移行をスムーズに進めるためにもきちんとこういった場合は例外だよということを、事前により早く示すのが必要だと思いますので、その辺の情報提供、混乱を招かないための取り組みをお願いしたい。
次に元々歯科医師のクリニックでは、売り上げに比べて高額な診療機器を導入しなければならず治療に直接役立たない設備投資には慎重になっています。さらに新型コロナで患者の治療が少なくなり、オンライン資格確認の義務化による設備導入が大変経営に負担をかけています。オンラインで常時接続になるとセキュリティの費用もかかり、厚労省のガイドラインにより高度なセキュリティを入れる必要性も生まれ、コンピュータセキュリティ費用そのものもかさみます。さらにその上にレセプトのオンライン請求義務化では、歯科医師がクリニックを閉じる例が増えてしまう心配があります。
医療DXを旗印にして地域医療にかえって混乱を持ち込み、医療機関の経営を窮地に追い込むようなロードマップには非常に問題があると考えますが、厚労省の見解はいかがでしょう。
森光審議官
今回作りましたロードマップでございますが、これは厚生労働省におきまして、光ディスク等や紙レセプトにより請求を行っている医療機関、薬局の実態を調査把握した上で作られたものでございます。
おたずねの歯科医療機関では相対的に、議員ご指摘のように光ディスク等による請求を行っている施設が多いということでございますが、実態調査によりますと、約半数の医療機関・薬局が令和5年度中に既にオンライン請求を開始する予定であるという報告をいただいております。
また、オンライン請求に移行する上でのハードルをお尋ねしておりますと、やはり移行を検討する上で欲しい情報ということで、情報セキュリティの確保の仕方、オンライン請求の仕方、費用の見込みといったようなことを指摘するご意見が多くございました。
こういうことを把握した上で、厚生労働省においては、オンライン請求への移行を促進するために、オンライン請求の方法についてのわかりやすい説明、オンライン請求のメリットや情報セキュリティについての理解・安心を得られるような具体的内容や説明、これらをしっかりと周知・広報するということで、関係者が一丸となって医療機関や薬局に対して様々なチャンネルから情報提供行うということとしておりまして、地域医療に混乱を招くことがないように丁寧に取り組みを進めたいと考えておるところです。
芳賀道也参議院議員
混乱が本当にないようにしていただきたいですし、CD-ROMや光ディスクなどレセプト請求が全てオンライン請求になると、社会保険診療報酬支払基金では大幅なコストカットになると聞いていますが、この支払基金のコストカットのために、全国の医師が手間と費用をかけてレセプト請求をオンライン化し、そのことの中には歯科医師が廃業を余儀なくされるのが、国民の健康にとってかえってマイナスで、本末転倒ではないかと思います。またオンライン請求のためにかかる設備投資について、厚労省では補助金などを考えていないのでしょうか。
森光審議官
レセプトのオンライン請求につきましては平成20年度から医療機関の規模に応じて順次義務化することとしていた中で、平成21年には補正予算により補助金を確保し、医療機関等におけるレセプトコンピューターと購入等にかかる費用を補助してきたところでございます。これまでに医療機関のベースとしては70%、レセプト件数分ベースでは86%が既にオンライン請求をなされているという状況でございます。
現在、厚生労働省といたしましては、医療機関等におけるオンライン資格確認これの導入に対しまして顔認証付きカードリーダーの無償提供を実施している他、システム改修費用について補助金を交付しております。
さらに、来月から原則義務化されることを踏まえまして、昨年8月に診療所、中小薬局の場合は4分の3補助から上限内での実費補助に改めるなど補助金の拡充を行ってきたところでございます。
この補助金によりまして、オンライン資格確認の導入と同時にレセプトのオンライン請求、この改善の初期導入やレセプトコンピューターの改修等、これを可能としております。またオンライン資格確認のため、敷設したネットワーク回線をレセプトのオンライン請求に活用するということも活用になっております。こうした政策を通じましてレセプトのオンライン請求への移行を促進してまいりたいと考えておるところでございます。
芳賀道也参議院議員
急ぐことなく、しっかりと混乱がないようにお願いします。時間となってしまいましたのでこれで質問を終わりますがその他の質問のご準備をくださった官僚の皆さん時間がなくなって申し訳ございませんでした。また、この問題については質問をさせていただきます。ありがとうございます。
3月23日医療保険部会
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詳細解説
厚労省は、3月23日、社会保障審議会医療保険部会で光ディスクなどで請求する医療機関に対し、24年9月末までにオンライン請求に移行することを実質的に義務付けるロードマップや基本的考え方を示しました。
4月よりオンライン資格確認義務化が実施される矢先に突如として示された「義務化」方針に医療現場の混乱は必至です。これはオンライン資格確認義務化に便乗して医療機関に「新たな義務」と負担と混乱を持ち込むものです。
医療機関を踏み台にして医療DXを推進するものであり、2024年9月のオンライン請求義務化方針の撤回を強く求めています。
審査支払機関のリストラが目的
オンライン請求「義務化」の真の目的は審査支払機関(国民健康保険中央会、社会保険審査支払基金)のリストラ(審査体制の縮小)にあります。審査支払機関の役割を公平な審査から医療費削減の査定機関と変貌させるものです。
光ディスクによる保険請求を行う医療機関には何の瑕疵もありません。
ロードマップはあくまで「目指す」方針
現時点で保険請求に関わる請求省令の変更は決まっていません。厚労省は、24年9月末までにすべての医療機関での保険請求をオンライン化するとし、ロードマップを示していますがあくまで「目指す」です。
医療界が大きく声を上げれば「義務化」方針の撤回も可能です。
サイバーセキュリティ対策も不可欠に
厚労省は、国会答弁を通じて、オンライン請求を始める医療機関に対する新たな補助金を予定していません。4月1日から医療法の改正省令が施行され、医療機関の規模にかかわらず、サイバーセキュリティ対策を義務付けています。
オンライン請求を実施している医療機関も対応が必要となります。セキュリティ対策の費用負担も要します。これまでオンラインによる保険請求を実施していない医療機関で導入を検討される際は、慎重な検討とガイドラインの順守が求められます。
光回線未整備は適用を除外
光回線が未整備でオンライン資格確認義務化の猶予届出を受理された医療機関はオンライン請求義務化も除外される方向となりました(3月29日デジタル委員会森光審議官の答弁より)。