薬剤費の大幅な患者負担増を含む医療保険制度改革法案が3月13日国会に提出された。日本の公的医療保険制度の根幹を破壊する制度改悪である。徹底審議の上、廃案とすべきである。
3割負担から5割負担に
法案は11項目より成るが、最大の問題は、市販薬(OTC薬)と成分が類似する医療用医薬品の給付制限である。これらの医薬品を処方した場合、薬剤費(薬価)の4分の1(25%)について全額患者負担とする「一部保険外療養」を創設する。
2027年3月より77成分・約1100品目での開始を見込む。保湿剤や胃薬、咳止め、整腸剤、解熱・鎮痛剤、抗アレルギー薬(点鼻、点眼、内服)、湿布、塗り薬など日常診療で幅広く使用する薬が対象となる。
例えば、窓口負担3割で薬剤費1,000円の場合、患者は薬剤費の25%となる250円を負担し、残り750円の3割負担分225円を支払う。保険外となる部分250円に相当する消費税25円も重なり、患者負担は計500円となる(図)。現行3割(300円)の薬剤費負担が5割(500円)に大幅に増える。同様に、薬剤費負担について、1割負担では3.5割、2割負担では4.3割に跳ね上がる。将来に渡って7割給付(3割負担以内)を維持するとした健保法附則第2条の趣旨を踏みにじるものである。5割負担は公的医療保険制度というよりも、もはや半額値引きである。医師が治療に必要な薬を出しても実質上公的保険が効かなくなる。負担増で受診を控えることで、症状が悪化したり、重篤な疾患の早期治療に支障を来しかねない。
国は保険料軽減を謳うが、見直しに伴う軽減は月33円程度である。例えば、花粉症で受診する患者(内服1種類、点眼・点鼻を30日分処方)は月1,500円の負担増になる。現役世代にとって単なる負担増でしかない。
こども、がん患者・難病患者、低所得者、入院患者、医師が長期使用などが必要と考える者などには「配慮」を検討するとしているが、具体的な中身の検討は法案成立後となる。一部の例外的措置に留まることは明らかである。
対象薬剤拡大、負担引き上げ検討
対象薬剤や追加負担割合などは、国会審議を経ない政令で決める形である。25年末の厚労省と財務省の合意では、27年4月以降、77成分・1100品目より対象を広げるとともに、負担割合も25%からの引き上げを検討するとしている。先立つ自民党と日本維新の会による与党協議では処方箋医薬品以外の医療用医薬品(1100成分・7,000品目)を対象に保険給付から完全に除外する案も協議対象の俎上に上っている。財務省の財政制度等審議会は、外来薬剤を広く対象とするよう求めている。制度導入後、薬剤保険外しの拡大が既定路線となっている。運用拡大の先には、財務省が執拗に主張してきた技術料も含めた外来医療全体での追加負担・保険外しも視野に入る。
一部保険外療養は、患者への安全・安心な医療の保障に向けて、診療、検査、投薬・処置を一体で公的医療保険で保障してきた運用に風穴を空けるものであり、日本の公的医療保険制度の根幹を破壊する制度改悪である。
75歳以上狙い撃ちで金融所得勘案
75歳以上において、配当・利子などの金融所得を窓口負担割合の判定や保険料算定に反映する仕組みを設ける。金融機関に対して、配当等支払いに係る報告書の保険者へのオンライン提出を義務付ける。
現在、年金収入190万円、配当が年10万円強ある75歳以上(単身者)が、配当について確定申告不要を選択している場合、収入は年金のみで判定され、窓口負担は1割となる。制度導入により、10万円も収入判定に加味され、200万円以上となり2割負担になる。現役時代に貯めた貯金や退職金の運用にペナルティをかけるものだ。
まずは後期高齢者に導入するとしているが、それ以外の世代に向けて導入する方針・工程は不明瞭であり、高齢者狙い撃ちの色合いが濃い。応能負担を強めるのであれば、受診抑制が避けられない窓口負担増は望ましくない。
保険料算定の問題についても、金融所得課税(現行20%)を欧米先進国の25~40%水準に引き上げれば済む話である。
業務DX化努力を法規定
病院・診療所に対して、業務効率化・勤務環境改善の取り組みに努める規定を医療法・健康保険法に新たに設ける。関連して、病院について、業務効率化等に係る計画を作成し推進する場合、厚生労働大臣が認定できる仕組みを設ける。認定を受けた病院はその旨を表示できる。認定制度への病院の申請は任意である。業務の効率化(DX化)の取組として、スマートフォンによる情報共有の効率化(グループでの一斉情報共有)、見守りカメラ・スマートグラス(カメラ機能付メガネ)による見守り業務の効率化、音声入力・バイタルの自動入力・生成AIによる文書自動作成支援など看護業務・医療事務の効率化が例示されている。
業務効率化等に努める規定は努力規定であり義務規定ではないものの、国がデジタル化を強引に進めるてことして利用されていくことも危惧される。ICT推進に向けては医療機関への支援が必要である。機器導入補助に留まらない維持・管理、人材育成に係るコスト補助、故障時対応での人員確保はじめ総合的な支援を求める声が多い。
正常分娩への基本単価を設定
妊娠・出産への支援強化として、出産(正常分娩)を実質上、保険適用化する。全国一律の基本単価を設定し、妊婦には現物給付(費用負担なし)する。法案成立後、公布日より2年以内に実施する(※今回の2026年度診療報酬改定とは関係ない)。当面、産科施設は現在の出産育児一時金との間で選択できる形で進めるが、社会保障審議会では新方式への原則化や早期移行を求める声も多い。少子化により収入減が深刻になる中、拙速に新方式への移行を求めたり、低い単価設定の押し付けとなれば地域からお産できる施設がなくなりかねない。



