高齢者の生活苦に追い打ち
政府の狙う75歳以上窓口負担2割化の実施が、10月に迫っている。しかし長引くコロナ禍に加え、国民生活をさらに追い詰める物価高騰が続く中、高齢者に負担増を強いることは、受診控えの深刻化と健康悪化をもたらしかねない。全国保険医団体連合会(保団連)は、署名の取り組みや街頭での宣伝で世論を広げ、2割化の中止に向けて全力を尽くす。
総務省が発表した7月の消費者物価指数は、昨年の同じ月を2・4%上回り、11カ月連続で上昇した。2%を超えるのは4カ月連続だ。原材料価格の高騰や円安の影響で10月にはさらに多くの食料品で値上げが予定されており、家計の負担はさらに増える。
高齢者世帯は消費支出に占める食料費の割合が高く、物価高騰の影響が大きいとされている。年金も引き下げられる中、高齢者世帯の生活困窮が懸念される。
日本高齢期運動連絡会が実施したアンケートでは、少ない年金で食費を切り詰めるなど、ぎりぎりの生活をしている高齢者の実態が寄せられた(表)。
政府は、こうした高齢者の生活困窮から目を背け、10月から75歳以上の医療費窓口負担の2割化を強行しようとしている。
受診抑制、健康悪化の懸念
そもそも高齢になるほど収入は低下する一方で医療にかかる機会は増えるため、今でも高齢者の収入に占める医療費負担の割合は、現役世代に比べ重くなっている。医療費の窓口負担が2倍になれば、経済的理由での受診抑制の深刻化、高齢者の健康悪化が強く懸念される。
保団連は、2割化中止の声を広げようと取り組みを続けてきた。協会・医会では、街頭での宣伝や待合室での署名の呼び掛け、地元新聞への署名の折り込み、地元国会議員への要請などが行われている。
10月の2割化実施が目前に迫る中、「こんなに生活が大変なときに、2割化すべきではない」の声をさらに広げていく。
食費切り詰める、補聴器買えない…
高齢期運動連絡会アンケ―トより
日本高齢期運動連絡会が5月に発表したアンケートで寄せられた声の一部を紹介する。
▼食費は常に少しでも安く買える店を利用。量を減らし、高額にならないよう気を付けている
▼美容院を経営しており、高齢者の来店減少により売上が減少。出費を控えている。さらに物価高騰が追い打ちをかけている
▼常に現金不足で困っている。年金を1カ月ごとに支給してほしい
▼食費を切り詰めており、作る楽しみもない。夏冬の光熱費も大変
▼年金生活で自分の医療費や夫の介護費用がかかり、医療費2倍になれば生活できない
▼年金生活で新しい服や靴を買うのは諦め、本も購入していない
▼年をとって耳が遠くなり、医師から補聴器を使うよう言われているが、高すぎて買えない
▼医療機関を5カ所受診しており、昨年は7万円の負担だった。2倍になったら受診は控える
▼医療費2倍化と年金減額のため、長年親しんだパソコンをやめた。車もやめたので、孤立化が深まる可能性