保団連夏季セミナー・講座1 中央大学名誉教授 建部 正義
講師は中央大学名誉教授の建部正義先生で、マルクス経済学の立場と国民の目線で、現在の円安・ドル高について解説された。
黒田東彦日銀総裁が円安はプラスと言い続ける理由は、円安で輸出増加が期待されること、海外子会社から本社への配当や収益の送金が円建てで増大するなど企業には大きな恩恵があること。ここには企業目線はあっても、物価高騰と賃金の伸びに悩む国民への目線は存在しない。
さらに日本銀行と円安の関係について、他国では物価高騰に直面して政策金利を何度も引き上げてきたが、黒田総裁は金融正常化に方向転換する姿勢を示さず、逆に「より機動的で持続的な金融緩和」の導入を決定した。このため欧米諸国と日本の間でさらに市場金利に差がつき、投資家は金利差を求めて日本の金融資産を売ってアメリカの金融資産を買い、円安がさらに進むことになる。
金融緩和継続は財政赤字隠しが目的
円安を続ける別の理由として、日本経済新聞の記事が紹介された。財政赤字で政府が巨額の借金をまかなうために用意した国債費が「隠し財源」として使われ、利払い費予算の12%にあたる11・9兆円が景気刺激など他の政策に転用されている。日銀の金融緩和で金利が下がり、利払い費が常に余る状況が生み出されている。国の財政運営が歴史的な低金利の恩恵に依存する構図が日本経済新聞の分析で明らかになった。世界的な利上げの流れに逆らい、日銀の金融緩和の継続にこだわる理由として、国の財政赤字と隠し財源を捻出するためでもある。
安倍元首相は、輪転機をグルグル回して無制限に日銀券を刷ればデフレは克服できると日銀総裁に黒田氏を任命したが、この急激な円安・ドル高に対して何ら手を打てないで、円安・ドル高はさらに進むと予想される。日本では消費税増税や、実質賃金が上がらないため需要が伸びず、欧米諸国と違ってデフレのままである。その中で石油高騰による電気料金の値上げ、円安による小麦を含めた諸物価の高騰で国民生活はさらに苦しくなる。アベノミクスの破綻と言える。
(理事 太田志朗)