元内閣官房副長官補、国際地政学研究所理事長
柳澤 協二
講師の柳澤協二氏は小泉・安倍・福田・麻生政権で内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)として、北朝鮮の核・ミサイル実験、尖閣警備、自衛隊のイラク・インド洋派遣などに従事。現在は国際地政学研究所理事長として活躍されている。
ウクライナ戦争では、3月にトルコが仲介に入り道理ある提案を行ったがプーチンが拒否、4月、戦争犯罪が明らかになり欧米が強硬姿勢になり提供する武器のレベルが変わった。武器を提供し続ける限り戦争は続く。経済制裁は貧困国・貧困層を直撃している。停戦の見通しは立たない。
プーチンはソ連崩壊後のNATO拡大、中東欧の民主化に対し将来への恐怖を抱いた。米国も世界戦争のリスクと隣り合わせで直接介入できない。結局プーチンは「戦争を楽観・未来を悲観」して戦争を選択した。経済的メリットはなく古代ギリシアの歴史家トゥキュディデスのいう大国としての名誉が根本にあるとした。
国連という戦後秩序に対する見直しが進行している。「反独裁」というイデオロギーではなく大国の横暴を拒否する方向にある。常任理事国の拒否権について説明を求めるコンセンサスができた。気候変動やコロナなどで大国の機能不全が明らかになり、ミドルパワーが果たす役割が問われている。
米中の原点は「一つの中国」。米国は台湾への「曖昧戦略」を取っている。中国は戦争を楽観していないし軍事バランスを米国優位から互角へ持っていくには時間が味方と思っている。ロシアと違い、中国は米国と同じ大国になろうと将来を楽観している。また、ウクライナ戦争から武力による他国支配の困難さを教訓とした。今必要なことは米中が台湾独立と武力行使を共に否定することによる安心供与だ。
「敵基地への反撃」で撃ち合いに
国防とは「命を守ること」ではなく「命を懸けて国を守ること」。津波なら「逃げろ」だが戦争なら「逃げるな」という論理である。国民を守るためには、戦争をしないことしかない。
「敵基地への反撃」とは、中国本土を攻撃することでミサイルの撃ち合いになる。防衛費倍増で装備は増やせても、自衛隊員は増やせない。核共有などといっているが、核の不使用こそ日本の国益。広島原爆碑の「過ちは繰返しませぬから」と相いれるものではない。
しかし「9条を守れ」が若者に通じない時代。自分たちの世代は平和繁栄の成功体験がある。しかし将来を悲観する若者にそれだけでは通用しない。改めて、憲法前文の理念に沿った外交を進めるときだ。護憲とは国家像を語ること、守るに値する国を作ること。最後に「戦争とは政治そのもの。政治は国民の選択による」と講演を結んだ。
(理事 矢野正明)