怒り・困惑広がる
オンライン資格確認の原則義務化や保険証廃止の方針に対し、医療現場から怒りや不安の声が広がっている。患者・医療機関を置き去りにした「義務化」に反対する会員の声を紹介する。
現実味ない保険証廃止 大阪協会 新名健治
10月4日午前の診察中に社会保険診療報酬支払基金から電話がかかってきた。電話をかわると「オンライン認証が原則義務化になりました。8月に郵便で送った書類にあるようにサイトに登録してください」とのこと。1カ月前にも同じような電話があった。患者さんが待っているけれど、少し話を聞き、まだ検討中である旨を伝えた。そして「問題点もたしかにあり、療養担当規則に盛り込んでまで強制的にする権限があるのか」と聞いてみた。「問題もあり、どうするかは任せる」とのこと。こちらもすごくプレッシャーを受けて困っているが、電話をしてきた方も困っている様子であった。
保険証・お薬手帳で十分
少なくとも本当に問題なく導入でき、手間を超える有用性があるのかをもっと検証し、きっちりと説明をするべきだ。保険証やお薬手帳で十分に対応できているのに義務化してまで医療機関にシステム導入を求めることに強い疑問に感じる。義務化となれば導入できなければ指導に入られ、それでも導入できなければ保険診療ができなくなってしまう。
地域によっては医師会が反対しているところもあるようだ。我々は患者さんのための医療に専念したいのにこのようなプレッシャーを感じながらでは日々の診療に差し支える。さらには保険証の廃止などと現実性のないことをふっかけてくる。 停電などの際に必ず保険証が必要になる。それをなくす方針などと報道し、圧力をかけ、世論を確かめるようなやり方は止めていただきたい。
中医協で経過措置や除外範囲の対象拡大を検討するだけでなく、医療現場が必要性を感じていない義務化は撤回すべきだ。
医療機関に責任丸投げ 岐阜協会 富田眞司
オンライン資格確認システム導入の義務化には大変困惑しています。マイナンバーカードを全国に普及させるため、さらに普及率の低い高齢者に普及させるために、現在混乱している医療現場を無視し、医療を人質にして極めて短期間で、資格確認システム導入を義務化するのは大問題です。
私は開業して47年になり現在87歳です。体の許す限り地域医療に尽力いたしたく思います。
しかし、システム対応には、10年以上使用している既存レセコンを新しく必要があり、多額の費用がかかります。自院にとってこのシステムを導入することは決して簡単なことではありません。
しかも、システム導入で補助金を受けても年数が経過しているレセコンが故障すればそれ以上の費用がかかり、補助金を受けた意味がなくなります。さらに、資格確認システムを5年以上使用しなければ補助金の返還義務が生じます。
セキュリティ面でも全ての個人情報が紐づけされているマイナンバーカードの情報漏えいを100%防衛できると断言できません。一方的にシステムの義務化を強いられたにも関わらず患者の個人情報が漏えいした場合、医療機関がすべて責任を問われることとなれば大問題です。
保険診療が困難に
河野太郎デジタル大臣は、10月13日の記者会見で2024年秋に健康保険証の廃止を目指すと突然表明しました。24年秋で保険証しか扱えない医療機関は、保険診療ができなくなり、閉院を余儀なくされるのではないでしょうか。デジタル対応に不慣れな高齢者や医療機関を置き去りにした方針は撤回すべきです。
医療を人質にカードを強制 宮城協会 杉目博厚
そもそもマイナンバーカード取得は任意である。しかも個人情報保護の観点から厳重に保管するようにとしている。
オンライン資格確認が義務化すれば、国民皆保険制度の下、否応なく国民はマイナンバーカードを所持しなくてはならない状況となる。これはマイナンバーカード所持の義務化に等しい。
しかも保険証であるから普段から持ち歩く。厳重に保管とはいかない。矛盾だらけの政策だ。
さらにオンライン資格確認を導入している医療機関において保険証で受診した場合、点数が加算され患者の窓口負担が上がる。マイナンバーカードを所持しない者への罰金に等しい。
言い換えれば、医療を人質にマイナンバーカードの取得を強制されていると言っても過言ではない。
保険証廃止の布石
オンライン資格確認導入義務化は保険証廃止の布石であった。政府は24年度に保険証の廃止を方針として打ち出した。まるで兵糧攻めのように国民に対しマイナンバーカードを取得させる手法である。
保険証で受診するのか、マイナンバーカードで受診するのかは患者の自由選択である。政府がいう「申請のあった場合は保険証を発行する」ということは本末転倒であり、保険証は従来通り発行することが原則である。保険証廃止は絶対許さず、保険証使用時の加算は即時廃止させなければいけない。
マイナンバー制度が導入される際、絶対に医療情報との紐付けはしないと言った政府答弁はどこに行ったのであろう。昨今、政府は矛盾に満ちた制度を強権的に推し進める姿勢が顕著になっている。補助金の申請期限が12月末までと迫る。
今こそが、オンライン資格確認導入義務化撤回運動の正念場であり、その先にある保険証廃止は患者・国民のためにも断固阻止しなければならない。