【会長談話】旅館業法の改正は、法案の再検討も含め、慎重な対応を

全国保険医団体連合会では、以下の会長談話をマスコミに発表しました。PDFはこちら[PDF:158KB]

2022年11月15日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

【会長談話】旅館業法の改正は、法案の再検討も含め、慎重な対応を

政府は、現在開会中の第210回国会に旅館業法の改正法案(以下、法案)を提出している。
法案は、旅館業の施設における感染症のまん延防止対策の更なる徹底を行うとして、旅館業法第5条の宿泊拒否制限を緩和する内容が中心となっている。
感染症の拡大防止を進めることは当然のことであるが、障害者団体、法曹界から、患者・障害者への宿泊拒否、差別助長につながりかねないと懸念の声があがっている。そうした声がある以上、法案の再検討も含め、慎重な対応が求められる。
そもそも第5条は、旅館業の公共性にかんがみ、野宿、行き倒れ防止の観点から宿泊拒否を可能とする要件を限定している。
法案では第5条を中心に、(1)特定感染症(感染症法における一類感染症・二類感染症・新型インフルエンザ等感染症・新感染症及び指定感染症のうち入院等の規定が適用されるもの)が国内に発生している期間に限り、旅館業の営業者は、①特定感染症の病状を呈する宿泊者等に対し、感染防止に必要な協力や、特定感染症の患者に該当するかどうかの報告、②その他の宿泊者に対し、特定感染症の感染防止に必要な協力―を求めることができるとし、その上で、①②で「正当な理由」なくこれに応じないときは宿泊を拒むことができる。(2)宿泊しようとする者が営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返したときは、営業者は宿泊を拒むことができる(第4項)、ことを内容にしている。
これに対し、多くの障害者団体、日弁連などからは、主に上記(1)の「正当な理由」、上記(2)の「阻害するおそれ」の判断が旅館業者に委ねられていることから、本来宿泊拒否できない場合まで宿泊拒否が拡大されかねないことが指摘されている。これまでもハンセン病の元患者に対し、旅館業法に違反して宿泊拒否をした2003年の黒川温泉宿泊拒否事件や盲導犬を伴っての視覚障害者や電動車椅子の利用者等の宿泊が拒否されるなど、患者・障害者の宿泊を拒否する事例が少なからず発生している。このような状況を鑑み、法案の扱いは慎重にしなければならないと考える。
法案では、差別防止のために従業員に対して必要な研修を求めているが、あくまで努力規定であり、患者・障害者への差別防止・配慮のためのより実効ある対応が担保されることも必要である。
そもそも、法案に先立ち開催された「旅館業法の見直しに係る検討会」では、多くの障害者団体等にヒアリングが行われ、第5条の見直しについて懸念が出されたと聞く。懸念を払しょくできないままでの法案提出は許されるものではない。
患者・国民の命と健康を守る医師・歯科医師の団体として、患者・障害者の人権を擁護する立場から、本会は法案の再検討を含め、慎重な対応を求める。

以上