防衛費増で 狙われる医療費
コロナ特例廃止、病院積立金の返納を提案
政府は12月16日、敵基地攻撃(反撃)能力の保有や、防衛費の大幅増額などを盛り込んだ3文書を閣議決定した。5年間の防衛費総額を約1・5倍に引き上げる一方で、医療・社会保障の抑制やコロナ対策予算削減が狙われている。全国保険医団体連合会(保団連)非核平和部は同日、こうした政府方針を強く批判する抗議声明を発表した。
閣議決定された「防衛力整備計画」では、2027年度に防衛費をGDP比2%とすることを前提に、23年度から5年間で防衛費総額を現計画の27兆4700億円から43兆円とすることなどが盛り込まれた。岸田文雄首相は会見で「毎年度約4兆円の財源が必要になる」とし、約4分の3は歳出削減で、残り1兆円強は増税で賄う方針を示した。同日に決定された与党税制改正大綱では、防衛費増額の財源として、復興特別所得税の転用や、法人税、たばこ税の引き上げが盛り込まれた。
「医療経営は好調、補助金等は廃止を」財政審建議
歳出削減の内容は明らかにされていないが、医療費等の抑制は着々と進められている。財政制度等審議会が11月28日にまとめた23年度予算編成の建議(意見書)では、国防費増額の財源として、増税と社会保障費などの歳出削減の双方から議論することを例に挙げ、「国民の理解と納得が重要」としている。また、「医療機関の経営は近年になく好調」として、コロナ対策の各種補助金や診療報酬特例の縮小・廃止を提案。ワクチン接種の国費補助の見直しも打ち出した。
病院労組「地域医療が崩壊する」
建議に先立ち、防衛費に関する政府の有識者会議では、国立病院機構や地域医療機能推進機構(JCHO)を念頭に「過去のコロナ対策で国民の手もとに届くことなく独立行政法人に積み上がった積立金の早期返納」や、「幅広い税目による負担」の検討を提言。全日本国立医療労組と全JCHO病院労組は「本来、平時から感染症対策として用意されるべき財源だ。返納すれば経営が成り立たず、地域医療が崩壊する」と反対している。
医療保険では、10月からの75歳以上医療費窓口負担2割化の強行に続き、後期高齢者の所得割の引き上げなどで保険料が増加する改正案を関係部会が取りまとめた。介護保険については、要介護1・2の保険外しなどは実施が見送られる見込みだが、自己負担2~3割の対象拡大などは来年に引き続き検討される。
そもそも、「敵基地攻撃能力」の保有は、日本政府が掲げてきた「専守防衛」を基軸とする戦後の外交・防衛政策の大転換を意味する。声明では、こうした重大な変更を国会に付すことなく閣議決定で方針化し、医療・社会保障をないがしろにして軍備増強を優先する政府の姿勢に対し「いのちを守る医師・歯科医師として断固抗議する」と表明した。