月刊保団連2023年5月号

「道」

パンデミック下の介護現場で起きたこと
新型コロナウイルス「5類」移行に当たって

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小島 美里

特集「社会保障の財源はどこにあるのか?──適正な所得再分配のために」

富める者はますます富む一方で、低所得になるほど負担増のしわ寄せが大き
くなっており、所得再分配が機能不全を起こしている。法人税減税や所得税の累進性緩和、多国籍企業の租税回避が進んだため、それによる税収減を補う形で、逆進性の強い消費税の税率と社会保険料が上がってきた。今後、防衛費が増額されれば国民へのさらなる負担増は避けられない。また、インボイス制度
の導入では低収入の免税業者へのダメージが懸念されている。
応能負担原則を守りつつ社会保障の財源を確保するために、今何が必要なのか。ゆがんだ税制をどのように改革すればいいのか。機能不全に陥った所得再分配の是正のために必要なことを考える。

社会保障財源として消費税はふさわしいのか 消費税に依存しない財源確保策

日本では、導入当初から消費税が社会保障の主要な財源と位置付けられ、社会保障の充実のためと称して税率の引き上げが行われてきた。しかし、充実どころか、自然増の部分まで削減するなど社会保障の削減政策が続いている。その結果、コロナ禍で病床が不足し、国民の命を危機にさらす結果をもたらした。本稿では、消費税の税制としての問題点を指摘し、消費税が社会保障財源として最も適していないことを検証し、消費税に依存しない社会保障の財源確保策を展望する。

伊藤 周平

インボイス制度の本当の狙いは何か──国民全般に連鎖する悪影響

インボイス制度が始まれば悪影響はフリーランス・個人事業主だけではなく、医師を含むあらゆる業種に及び、事業者の淘汰、市場の寡占、物価上昇という形で国民生活に深刻な打撃を与える。さらに、政府が主張する導入根拠は実態を伴っていないことは国会答弁からも明らか。本当の狙いは将来的な20%超の消費増税である可能性が高い。本稿では、フリーランスの記者である筆者がインボイスの当事者として問題点を述べる。

犬飼 淳

多国籍企業の租税回避がもたらす深刻な税収減

グローバル化によって国際的な資本移動が自由になったため、大企業や富裕層は国外のタックス・ヘイブンなどに資金を移動させ、課税を逃れることが可能になった。こうした租税回避を防ぐために、1980年代ごろから各国で最高所得税率や法人税を競って引き下げる「租税競争」が激化。
それによって不足する税収を労働所得や消費に対する税の引き上げで補うことになり、その結果、税制全体の逆進性を高め、深刻な格差拡大をもたらしている。本稿では、デジタル技術の進展によって租税回避がさらに巧妙化する中で、機能不全に陥った所得再分配を機能させるために、課税の仕組みをどうつくり上げればいいのかを考える。

諸富 徹

防衛費の膨張と加速する対米従属増税に頼るか、将来にツケを回すのか

政府は防衛費を5年以内にGDP比2%以上に引き上げるとして、2027年度から不足する4兆円の財源のうち1兆円を増税で賄い、残りは歳出改革、決算剰余金の活用、防衛力強化資金で穴埋めするという。しかし、それは焼け石に水でしかなく、いずれは増税や国債に頼らざるを得なくなる。
無理をしてまで防衛費を増やそうとしているのは、対外有償軍事援助(FMS)による米国製の兵器の「爆買い」でローンが急増し、防衛費を圧迫していることも背景にある。このまま軍事費が膨張していけば、国民生活に大きな打撃をもたらすことは避けられない。

半田 滋

子育て支援の充実と所得再分配──人への投資で社会に活力を

日本の少子化に歯止めがかからない。先進諸国の期間合計特殊出生率を見ると、子育て支援などへの公的な支出が多い国ほど、高くなっていることが分かる。少子化問題を解決するためには公的な支出を拡大する必要があるが、現金給付と現物給付で効果の違いが見られる。また、保育所の拡充で子育てにかかる負担を軽減することも有効だが、サービスを必要としている人ほど、保育所を利用できなくなっているという皮肉な結果も生み出している。子育てしやすい環境を整えるために何が必要なのか、子育て支援の予算を確保するための所得再分配にはどのような意味があるのか。山口慎太郎氏に聞いた

山口 慎太郎

診療研究

糖尿病とその合併症に関する最近の話題 第4回 GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの登場

GLP-1受容体作動薬は優れた血糖低下作用や心腎合併症抑制効果への期待から広く2型糖尿病の診療で用いられている。注射製剤しかなかったことが医療者そして患者の双方にとって導入の障壁となっていたが、2021年に初の経口GLP-1受容体作動薬として経口セマグルチドが日本で発売された。2022年になって長期処方が解禁されて、日常臨床で使用する場面が増えている。また、今般新たに製造販売承認を取得したGIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(マンジャロ®)は週に1回投与の注射製剤であるが、既存のGLP-1受容体作動薬よりも強いHbA1c改善作用、体重減少作用を有する。本稿ではGIP/GLP-1受容体作動薬の最近の動向について述べる。

川浪 大治

診療研究

口腔顔面痛──歯痛・顎関節症と誤認しやすい病気の鑑別法 第3回 巨細胞性動脈炎

巨細胞性動脈炎は、高齢者に生じる原因不明の血管炎であり、動脈に肉芽腫を伴う炎症を引き起こす。
頭部では外頸動脈、特に浅側頭動脈が好発部位であるため、以前は側頭動脈炎と呼ばれていた。浅側頭動脈が罹患すると、側頭部の頭痛や頭皮痛が、顎動脈の分枝では顎跛行や開口障害、顎のだるさなどが生じるため、顎関節症との鑑別が必要である。治療が遅れると失明に至ることがあるため、歯科医師も知ってい
なければならない病気である。

井川 雅子

文化

星と人類の歩み 天文学の30年─刷新される宇宙観 第3回 天の川銀河の成り立ちとブラックホール

私たちの太陽系は天の川銀河という大きな星の集団の一員である。この銀河についての理解もここ30年ほどで大きく進んだ。天の川銀河の中心には巨大なブラックホールが存在していることが明らかになり、その位置や重さが正確に測られ、さらには電波で「影」が撮影されるまでになった。
また、銀河の誕生以来、その中でどのように星が生まれてきたのか、という歴史もひもとかれるようになり、周囲にあった小さな銀河との相互作用の影響が重要なことも明らかになってきた。これらの知見の多くは、銀河をかたちづくっている星を一つ一つ測定することによって得られてきた。

青木 和光

経営

【経営・税務誌上相談】従業員の賃金を上げたが、優遇措置はあるか

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益子 良一

【雇用問題】スタッフが社会保険の加入を希望。加入する必要はあるか

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曽我 浩

【患者トラブル相談室】ネットへのネガティブな書き込み(13)書き込みへの削除要請の書き方

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尾内康彦