マニュアル改訂したが一層運用が困難に

マニュアル改訂したが一層運用が困難に

1.オンライン資格確認システムの運用マニュアルが突然改訂

○ 6月2日に「オンライン資格確認等システムの運用マニュアル」が突然改訂されました。変更点は表(抜粋)に示す通りです。

2.30改訂版(旧)PDF 2.40改訂版(6月2日更新)PDF
⑫マイナンバーカードでの資格確認の結果、資格を喪失しているなど有効な資格が存在しない。 ①退職等で月末に資格を喪失した患者がその翌月の初めに来院した場合などに中間サーバー等からオンライン資格確認等システムに最新の資格情報が連携されていない場合があります。(筆者;タイムラグ) ①同左
②患者から新資格の健康保険証又は保険者の証明書を提示された場合は、患者の自己負担分(3割分等)を受領してください。新資格の健康保険証又は保険者の証明書が提示されない場合は、患者からは 10 割分を受領してください。後日、保険資格を確認後、資格の負担割合に応じて患者に払い戻してください。 ②マイナンバーカードの券面に記載された生年月日情報に基づいて自己負担分(3割負担等)をお支払いいただき、事後に正確な資格情報の確認ができた段階で、訂正の必要がある場合には、所要の手続を行っていただくことが考えられます。
※1患者が健康保険証または保険者の証明書等を持参している場合は、健康保険証等を確認し患者の自己負担分を受領することも可能です。
※1 健康保険証を忘れた際に、各病院・診療所で異なる運用を実施している場合は、そちらを優先することも可能です。 ※2 左※1と同じ
※2 オンライン資格確認データと健康保険証のデータが異なる場合は、オンライン資格確認データを優先するというルールの例外適用となります。 ※3 左※2と同じ

保険料払っても「無保険扱い」

旧マニュアルの「新資格の健康保険証又は保険者の証明書が提示されない場合は、患者からは 10 割分を受領してください。」との記載は、マイナンバーカードを保険証として使うことを前提とした政府自らが、「患者さんが保険証(=マイナンバーカード)を持ってきているのに、資格確認に使用できない」と説明したものになっていました。この間トラブル続出が社会問題化し、批判が集中する中で、これは責任を患者に帰す取扱いであり、このままではまずいと判断、記載を変更したと考えられます。
新たな記載は、マイナンバーカード(=保険証)を持ってくれば、3割負担等を支払えばいいですよと、保険証を持ってくれば当たり前の取扱いに修正したものと言えると思います。

2.マイナ保険証に起因した問題

(1)無保険だった場合7割分をだれが払うのか?

一方、新たな問題が浮上しました。マニュアルに記載のマイナンバーカードの券面に記載のある生年月日情報に基づいて3割負担等をお支払いいただけばよい、ということになると、仮に事後で無保険だったことが分かった場合、残りの7割分をだれが払うのかという問題が発生します。
6月7日の国会(衆議院厚生労働委員会)では、伊原和人保険局長が「保険に加入されていない方の場合、医療保険上は保険の給付の対象になりません」、「現在その場で資格確認を行えない場合の取扱いにつきまして、医療関係者と調整しているところでございます。」と答弁しました。いまだ検討中だというのです。

(2)本人確認だけで公的医療保険が利用できるのか?

医療機関は療養担当規則第3条で「保険医療機関は、患者から療養の給付を受けることを求められた場合には、健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認又は患者の提出する被保険者証によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならない。」と確認義務が課せられています。そうすると新マニュアルの通り「マイナンバーカードの券面に記載された生年月日情報に基づいて」資格確認ができるのか、あるいは確認義務を果たせることになるのかどうかが問題です。
6月5日の国会(参議院地デジ特別委員会)で伊佐進一厚生労働副大臣は、マニュアルの通りの対応で資格確認義務違反にはならないと答弁しました。
本人確認だけでOKなら運転免許証でもOKとなります。何らかの理由で「無保険」となった方もマイナンバーカードは住民票を有していればマイナンバーカードは無料で作成できます。マイナンバーカードで本人確認し、券面情報を控えれば、資格確認義務違反にならず、3割負担をお支払いいただいてかまわない、これはこれまでの取扱いを根本から覆し、医療機関を大混乱に陥れ、運用困難を拡大するものに他なりません。このようなマニュアルだけでは運用できません。

(3)現行保険証は存続させるべき

保険証には医療保険で医療を受けるための必要な情報が券面に表記され、保険資格があることが一目で分かるものとなっています。
しかしマイナンバーカードでは事情が異なります。カード券面には保険資格があるかどうかの表記は一切なく、ICチップに記録されているアクセスキーを使って、サーバーから資格情報を読み取って初めて資格があるかどうかが分かる仕組みになっているため、誤登録や未登録を始め、カードリーダーの不具合、読み取り精度が低い、機械的な破損、ICチップの破損、果ては顔写真の写りの問題で読み取りできないなど、様々なトラブルでサーバーにアクセスできないと、資格情報が得られないのです。これは明らかにシステム及びマイナ保険証に起因した問題です。
今回のマニュアルの改訂はマイナ保険証では実際の運用が困難なことをますます明らかにしたことになります。
この点、長年の運用蓄積がある保険証であれば、たとえ古い保険証で受診された場合でも、あとで調整する仕組みが出来上がっており、基本的に患者さんが10割分支払わなければならない事態は原則発生しないように制度が確立していました。
しかし政府は、マイナンバーカードの普及ありきで無理矢理保険証廃止を決めてしまったがために、このような調整の仕組みごと放り捨てる状況を作り出してしまいました。この間調査で判明したトラブルで、予想を超えて10割負担を求めざるを得ない事態が多く発生してしまったのは、このような根本的な問題が内在している、欠陥制度にあると言わざるを得ません。
従って現行保険証は存続させるべきだと改めて求めます。

(4)重大なルール変更にもかかわらず周知対策をとっていない

さらに大きな問題は、このような重大なルール変更をしたにもかかわらず、医療機関には周知対策をとっていない問題です。国会で伊原和人保険局長は「医療関係者と調整している」と答弁しましたが、この間これだけ問題を指摘している保団連には全く連絡がありません。マイナンバーカードを普及し、保険証を廃止してしまえば、現場が混乱してもお構いなしというのでしょうか。
このようなことではトラブルは止まらない、いったん立ち止まって制度を見直すべきだと求めたい。

「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について

厚生労働省保険局医療課長通知(保医発0325第1号 令和4年3月25日)より

(7) 「被保険者証・被保険者手帳等の記号・番号」欄について

健康保険被保険者証、国民健康保険被保険者証、退職者医療被保険者証、船員保険被保険者証、受給資格者票及び特別療養費受給票等(以下「被保険者証等」という。)の「記号及び番号」欄の記号及び番号を記載すること。また、後期高齢者医療被保険者証の「被保険者番号」欄の「被保険者番号」を記載すること。被保険者証等の「記号及び番号」欄に枝番の記載がある場合は、併せて枝番を記載すること。なお、電子資格確認の場合は、オンラインにより提供された資格情報から、これらの記載を行うこと。