厚労省10割問題スキームで 子ども医療費、高額療養費が使えない!?

厚労省対応スキームを検証する

マイナ保険証トラブルによる窓口負担増問題は解決しない

子ども医療費助成制度、高額療養費が使えない!?

 

全国保険医団体連合会

 

1.厚労省の対応スキーム

 

マイナカードを読み取る機器の不備やデータ登録等の不備で「資格無効」・「資格情報なし」と表示されるなど、マイナ保険証による資格確認が困難となるトラブルが多数発生し、患者さんが窓口で一旦10割支払いを求められる事例が保団連調査で1291件発生しました。

こうした問題を解決するため、厚労省は被保険者番号、所属保険組合が確認できない患者への対応を示しました。

  • 医療機関で所属保険組合、被保険者番号を特定する努力を行っていただく。
  • 特定が困難な場合は、患者から「被保険者資格申立書」を記載してもらう。
  • 被保険者番号・所属保険組合は「不詳」と書いた保険の請求書を支払基金に提出する。
  • 支払基金において、マイナンバーカード券面記載の4情報で被保険者番号、所属保険組合を特定する。
  • 当該被保険者が所属する保険組合に保険の請求書を回送する。※ただし、一定期間を要する。

※今後、支払基金や健保連等と調整し、8月診療分から実施するとしています。(7/4厚労省レクにて)

 

2大トラブル 医療機関の対応 保険者等の対応
データ登録が完了していないため「資格無効」「資格情報がない」と表示 医療機関では様々な手段で確認を試みるが確認できない

医療機関等において本人情報を確認し、患者自己負担分(3割等)を受領

その際は、患者に「被保険者資格申立書」を記載いただく

保険者番号や被保険者番号が不詳のままでも、請求を行うことが可能

これまでトラブルで10割支払いを受けた分を、不詳で請求

※資格情報不詳のままで請求した場合、審査支払機関で可能な限り直近の保険者を特定

 

※不詳請求の場合、診療報酬等のお支払いまでに一定の時間をいただくことがある

 

※最終的に保険者を特定できなかった場合には、災害等の際の取扱いを参考に、保険者等で負担を按分して支払い

機器不良等のトラブルで資格確認ができない

厚労省資料より作成)

 

2.「被保険者資格申立書」の記載でどうなるか?

 

厚労省は、患者の医療機関窓口での支払いを「10割」から「3割等」とするため、資格確認が困難な患者から「被保険者資格申立書」を記載・提出させることとしました。

厚労省が作成した「申立書」に関する説明文書には、「オンライン資格確認ができない患者さんに、本来の自己負担額での保険診療を行うためにご記載をお願いする文書になります。」「本申立書をご記載いただくことにより、3割負担(※未就学児は2割負担。70歳以上等の方は1割~3割)により自己負担額を計算します」と記載しています。

 

(ポイント)

 

▽10割負担は免れるが、患者の生年月日等の情報を基に3割等の負担は必要となる。

▽窓口での支払金額は、医療保険本来の窓口負担に基づく金額となる。

 

3.小児医療が0割から2割もしくは3割 75歳以上でも1割→3割?

 

7月4日に行われた厚労省レク(日本共産党追及チームが主催で保団連も参加)において、厚労省担当官は、現行スキームでは、▽子ども医療費助成や高額療養費など自治体による公費での助成制度は考慮されていない▽本来の窓口負担割合(※未就学は2割、小学生、中学生、高校生は3割)で一部負担金を徴収することになると回答しました。

現在は、子ども医療費助成制度の受給者証と健康保険証を2つ医療機関窓口に提示することで、医療費無料となります。

本来窓口負担が不要となる小児や児童でも、健康保険証を持参せずマイナ保険証のみを持参し、資格確認が困難となった場合は、窓口で2割もしくは3割の支払いが必要となります。

また、70歳以上の高齢患者の場合、所得金額により窓口負担割合が異なります。医療機関において一部負担金の不足が生じないように3割を徴収することになります。そうなれば、本来1割や2割の高齢の患者さんからも一旦3割を徴収する事態が避けられません。高額療養費の利用も小児医療と同様に困難となります。

 

4.患者・医療機関の手間や患者トラブルも激増する

 

70 歳以上は所得に応じて一部負担金の割合が異なります。生年月日(年齢のみ)で窓口負担割合が確定できないので過不足が発生します。所得を含めた確認の手間と金銭のやり取りが増加します。患者本人の記憶による被保険者申立書の記載はさまざまな金銭トラブルが発生します。

例えば75 歳以上で1割徴収したが、後日、所得状況を確認すると2割負担だった場合、不足が発生します。70 歳以上75 歳未満で2割を徴収したが、現役並み所得だった場合、3割となります。子ども医療費の場合でも本来窓口負担なしの方に2割等を求める説明が困難となります。患者トラブルは避けられません。

 

5.高額療養費制度や公費負担医療の負担金上限制度も使えない

 

それだけではありません。現在患者負担金が高くなりすぎないように、一定の上限金額まで達した場合、それ以上支払わなくて済むよう、高額療養費制度が設けられています。例えば70歳以上で一般の方は月1万8千円、低所得者は8千円になっていますが、これが使えません。難病の方の負担上限も所得によって細かく分けられていますが、これも使えないことになります。

これらの制度は、健康保険制度が定めた負担割合のベースがあって、「患者さんにかかる一部負担金の一部または全部を助成する」制度となっているため、資格が確認できない事態になるとすべて使えないこととなってしまいます。

 

6.払いすぎたお金はちゃんと戻ってくるのか

 

申立書の説明では、「一部負担金の割合が実際と異なっていた場合、後日、保険者から差額を請求等させていただく場合があります。」とあり、患者負担金を少なく受領した場合の差額徴収は記載がありますが、多く支払ってしまった場合の払い戻しについては一言も触れていません。

保険診療のルールでは、医療機関で受け取る領収証を添付して、後日加入している保険者に申請を行って払い戻しを受ける仕組みになっており、非常に面倒な手続きを強いられることとなります。

 

7.健康保険証を持参するだけで問題は一気に解決する

 

厚労省は6月30日の立憲民主党の国対ヒヤリングや、7月4日の日本共産党ヒヤリングで、今回のトラブルに伴う申立書を記載して請求する発生件数について、「限定的」と説明しましたが、実際申立書の件数をどのくらいの数と推計しているのか追及したところ、「何も数字を持ち合わせていない」と無責任な答弁を行いました。社会問題にまでなった10割負担問題を解消するためのスキームであるはずなのに、解決に向けた根拠数値を持ち合わせていない。これが現状です。

さらに厚労省は同じ資料の中で、「念のためマイナンバーカードとあわせて保険証を持参していただきたい」と加入者に周知すると言っています。

これは問題が解決できないことを自ら認めていると言わざるを得ないのではないでしょうか。

マイナ保険証の点検を行っても、トラブルはなくなりません。健康保険証はこれからも国民皆保険制度を維持していくにはかかせないものだということを、皮肉にも今回の厚労省スキームは明らかにしたといえます。健康保険証は今後も残すべきです。

 

70歳以上で1割と3割ではどのくらいの金額の差になるか

 

高齢者の疾病 1割 3割
1.「関節症(膝の痛みなど)」で外来受診している場合

※関節症患者の外来受診の平均的な診療間隔8日を基に計算(1年間通院)

3.2万円

(2,800円/月)

9.6万円

(8,400円/月)

2.「高血圧性疾患」で外来受診している場合

※高血圧性疾患の外来受診の平均的な診療間隔17日を基に計算(1年間通院)

2.9万円

(2,600円/月)

8.7万円

(7,800円/月)

3.「脳血管疾患」で外来受診している場合

※脳血管疾患患者の外来受診の平均的な診療間隔14日を基に計算(1年間通院)

4.1万円

(4,500円/月)

12.3万円

(13,500円/月)

4.「関節症」及び「高血圧性疾患」で外来受診した場合 6.1万円

(5,400円/月)

18.3万円

(16,200円/月)

5.「関節症」及び「脳血管疾患」で外来受診した場合 7.3万円

(7,300円/月)

21.9万円

(21,900円/月)

 

子どもの場合(未就学児)

 

通常(助成制度あり) トラブルで

資格確認できず

2割負担
発熱で小児科を受診した場合 0円

(医療費は5,990円)

1,200円

 

※トラブルの場合、厚労省は2割を徴収するスキームを示しています。

問題は、①負担ゼロだったのに、2割負担分徴収される、②「被保険者資格申立書」を記載しなければならない、③支払ったお金の払い戻しを受けるには、自治体に払い戻し申請をしなければならないので大変面倒なことです。

 

高額療養費の負担上限について

 

1.70歳未満の一般患者の自己負担限度額(月額)

 

所得区分 自己負担限度額
上位 252,600円+

(総医療費-842 ,000円)

×1%

167,400円+

(総医療費-558 ,000円)

×1%

一般 80,100円+

(総医療費-267 ,000円)

×1%

57,600円
低所得 35,400円

 

 

2.70歳以上の高齢者(後期高齢者・高齢受給者)の自己負担限度額(月額)

所得区分 負担割合 自己負担限度額
現役Ⅲ 3割 252 ,600円+(医療費-

842 ,000円)× 1 %

現役Ⅱ 167,400円+(医療費-

558,000円)× 1 %

現役Ⅰ 80,100円+(医療費-

267,000円)× 1 %

一般 1割または2割 18 ,000円
低所得者Ⅱ 8,000円
低所得者Ⅰ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考 医療保険制度ってなに?

日ごろから風邪などを引いて内科クリニックに受診した場合、皆さんは受付でこれまでは、健康保険証を出してください、と求められ、そのあとに医師に呼ばれて診療を受けています。

そのあと待合室に戻って、会計に呼ばれて、医療費を支払います。支払ったら領収証と処方箋をもらって、後は調剤薬局に行ってお薬を出してもらいます。ここでもお薬代を支払って、ここでも領収書をもらいます。

私たちが生まれてからずっと、病気になったら当たり前のように行っている手続きです。

でもこの手続きは、健康保険法という法律があって、そのもとでほぼすべての国民が健康保険証を交付され、決められた負担割合で窓口負担を支払って、運営されてきた制度があって成り立っているものです。

公的健康保険 加入者の内容
全国健康保険協会(協会けんぽ) 中小企業の従業員などが加入する職域保険
健康保険組合連合会 大企業の従業員
地方公務員共済組合 公務員
国民健康保険 地域保険
後期高齢者医療制度 75歳以上の高齢者等が加入する保険

※公的というのは、法の定めに沿って作られている保険という意味。生命保険会社が扱う保険と区別する意味。

 

  • 負担割合は?

法で定められた負担割合は以下のようになっています。

働く世代の私たちは3割負担で、これまではたまにクリニックに受診する程度で、日ごろはあまり負担割合に意識を向けることが少なかったと思います。そのため、当たり前のように3割分を支払って、さほど疑問を持つことはなかったのではないでしょうか。

 

  • マイナ保険証運用開始で一変!?なぜ起きた10割負担問題

この間保団連のアンケート調査に基づく誤登録問題やトラブル・問題事例の告発の中で、「資格確認できなければいったん10割負担」との例示を記者会見で出しました。アンケートではやむなく10割負担となった件数が1291件ありました。

健康保険制度からすれば、仕方なくとはいえ、正しい対応を医療機関がしたために起きた問題です。1291件というのは、トラブルを経験した5493医療機関に受診した患者さんのうち、4~5人に1人の割合で10割負担をお願いした数ということになります。

ようするに制度の命綱である資格確認が、入り口の段階でできなくなってしまったために起きた問題といえるのです。

 

  • 保険で医療を受けるためにはまず資格を証明しなければならない?

これまで皆さん1人に1枚、健康保険証が配られて、日ごろから持ち歩いて病気になったら当たり前のように提示して受診していました。

その券面には、被保険者の記号・番号、保険者番号や氏名、生年月日等が記載されており、その情報をもとに資格があることを確認でき、負担割合も瞬時にわかる仕組みとなっていました。

しかしマイナ保険証はトラブル続きで、この最も肝心な資格の確認ができない事態に直面したのです。

 

  • 資格が確認できない=健康保険制度の取扱いができない?

前述した法で定められた負担割合は、あくまでも健康保険制度の下で、保険を利用できる資格があることを前提に定められているものです。そのため、トラブルで資格があることを証明できない場合、健康保険制度上の取扱いができない=10割を負担していただくしかない、という図式になります。

もちろん医療機関では当然、患者さんと支払いをめぐるトラブルにはしたくないので、あの手この手で資格を確認できないか右往左往することになります。

これまでの会見でも述べた通り、何回も通っておられる患者さんであれば、「次回は健康保険証を持ってきて下さいね」などと言って柔軟に対応できますが、初診の患者さんは、次に通ってこられるかわからないため、「すみませんがいったん10割分お支払いください。次回に受診いただいたときに清算しますね」といった対応をせざるを得ません。

これは健康保険制度の資格を持っているのかどうかが分からないため、法にのっとった取扱いができないためです。