全国保険医団体連合会では、政府が6月19日に閣議決定した「骨太の方針2023」に対し、下記の談話を総理大臣に提出しました。
2023年6月19日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
【談話】軍拡に突き進み、社会保障削減に固執する「骨太の方針2023」に抗議する
軍拡突進と社会保障削減の政治に未来はない
政府は6月16日、2023年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。企業成長を重視する「新しい資本主義」を続けるとした上、防衛予算を倍増させていく構えを強調している。積み増しされる大企業の内部留保の社会的還元(再分配)には背を向けるとともに、防衛費倍増や「少子化対策」などを口実に、医療・社会保障の抑制・削減を推し進める方針である。周辺国との際限なき軍拡競争をもたらし、格差を広げ社会不安を蔓延させる政治に未来はない。
高齢者負担増で消費活性化はありえない
「骨太の方針」では、医療・社会保障について、今後、患者・利用者負担増を盛り込んだ全世代型社会保障「改革の工程の具体化」を進めていくとしている。高齢者の負担増により現役世代の社会保険料が軽減されて消費が活性化すると強弁しているが、75歳以上の窓口負担2割導入では高齢者に大幅な負担増を強いる一方、現役世代の保険料負担軽減は皆無に等しいものである。そもそも、高齢者(親)への負担増は現役世代(子)にも痛みを強いるものであり、自己矛盾も甚だしい。
物価高騰踏まえ、報酬の抜本引き上げ明記すべき
異次元の物価高騰に見舞われる中、医療・介護分野での賃上げは他分野に比べ遅れている。このままでは賃金格差も広がり人材確保が更に困難になるにも関わらず、2024年度の診療報酬改定等について、「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスを受けられるよう、必要な対応を行う」などの曖昧な表現に留めている。診療報酬等の抜本的引き上げを明記すべきである。
新薬開発推進のために「長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」、医師の受診を間引くリフィル処方について、医師はじめ「関係者・関係機関の更なる対応により活用を進める」に至っては筋違いも甚だしい。介護保険制度について、2割負担者の範囲拡大などについて検討し、「年末までに結論を得る」よう執拗に求めているが、受診を間引き、生活費を切り詰める高齢者の生活実態を直視すべきである。
歯科医療については、「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた取組の推進」など若干の文言変更を除けば「骨太の方針2022」と同様な記載だが、求められるのは施策の早急な具体化であり、政策的な実行力である。
問題だらけの「医療DX」推進は認められない
重大なのは、オンライン資格確認においてデータ誤登録はじめトラブルが頻発し、患者・国民、医療現場に不安を与えているにも関わらず、「2024年秋に健康保険証を廃止する」と明記した上、膨大な健康・医療・介護情報を集積して利活用を進める「全国医療情報プラットフォーム」を創設するなどの医療DXについて、「政府を挙げて確実に実現する」としたことである。トラブル噴出に加え、地域に長年貢献してきた医療機関を閉院・廃院に追いこんだ上、情報漏洩はじめ様々なリスクを抱えるマイナンバーカード利用を押しつける医療DXの推進など容認しえるものではない。
医療提供体制改革に関わっては、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進」など今般成立した全世代社会保障法を実行していく構えが示されている。医療費抑制の圧力が強められる下、医師・歯科医師の裁量を切り詰めていくことや医療機関に対する規制を強めていく議論の再燃も危惧される。今回の制度整備について運用詳細をめぐる動向に注視したい。
本会は、防衛費倍増に突き進み、医療・社会保障抑制に固執する「骨太の方針2023」の閣議決定に強く抗議するものである。。
以上