資格確認書を誰に発行していいかわからない? なんて!! 後編

誰を対象に、どんな時に発行対象となるか?

前編に続き資格確認書について解説します。資格確認書の申請が可能な対象者は誰か?どんな時か? よく問い合わせが寄せられます。改正法では「電子資格確認が行えないとき」とされました。具体的に言うと「マイナ保険証を保有していない被保険者」もしくは、「医療機関等でオンライン資格確認システムによる資格確認が行えないとき」となります。マイナカードを持っているだけでは医療機関でオンラインによる資格確認が行えません。マイナカードに搭載された電子証明書と医療保険の情報を初回紐づけされた方は「マイナ保険証」を保有している人になります。つまり、マイナカードを保有しているがマイナ保険証の紐づけをしていない方、マイナカードすら持っていない方は資格確認書の申請・交付の対象になります。総務省発表によるとマイナカードの保有者数は23年7月末現在で8900万人です。一方、マイナ保険証の初回紐づけを行った方は、厚労省によると23年8月27日時点で約6660万人となります。2240万人の方は、マイナカードは持ってるが、マイナ保険証紐づけ処理をしていない方なので、資格確認書の申請・交付の対象になります。※マイナカードすら持っていない方は? 1億2000万人-8900万人=3100万人

(資料)

総務省 マイナンバーカード交付状況 トップページ
総務省 マイナンバーカード交付状況 7月末データ
厚労省 マイナンバーカードの健康保険証利用について

マイナ保険証を保有していない人とは?

資格確認書の交付対象となる「マイナ保険証を保有していない被保険者」とはどのような人でしょうか? 答えは、マイナ保険証を保有している方を除く被保険者となります。マイナ保険証の保有者とは、マイナカードを申請・交付された方で医療機関やマイナポータル上でマイナカードに搭載された電子証明書(利用者用電子証明書)と自身の医療保険の情報を紐づけた方のことを言います。紐づけは初回のみでよく転職等で所属の保険組合が変わってもオンライン資格確認のシステムとのマイナカードとの紐づけはそのまま継承されます。オンライン資格確認システムのサーバー上に初回紐づけの記録(ログ)が収載されています。マイナ保険証を保有していない方に資格確認書を交付するためには、各医療保険者がこの記録を保有・管理する必要がありますが現時点ではできていません。

データ管理・提供の状況は?

オンライン資格確認システムのサーバーは、有効な被保険者のうち、マイナンバーカードとの初回紐づけした方の情報を保有しています。それを3カ月に1回、医療保険者向け中間サーバーを経由して、各医療保険者に提供しています。令和3年3月8日から初回紐づけ情報の提供は開始されていますが、同機能の目的はあくまでマイナカードの取得促進並びに保険証利用の周知及び勧奨とされています。転職・退職等で医療保険者は変わりますので、こうした異動を反映したデータを、各医療保険者にリアルタイムで提供することが最低限必要となります。現在支払基金においてどのように対応するか検討されていますが、対応するのは法令上も制度設計上も困難を極めます。

実務的資格確認書を発行・交付し続けるために -保険者のシステム整備や体制整備

資格確認書を発行・交付するためには、医療保険者向けにおい以下の対応が求められます。

▽中間サーバーから常時マイナ保険証の保有情報のデータ提供を受ける

▽自身が管理する被保険者管理システムに初回紐づけ情報を取り込む

▽その後も常時リアルタイムに管理・更新する

▽被保険者の申請受付によりマイナ保険証の保有状況を確認して資格確認書を交付する

ここで問題になるのが、医療保険者は、被保険者やJ-LIS、市町村から当該申請者がマイナ保険証を保有しているか否かの情報を直接入手できないことです。健保組合や共済組合、協会けんぽなど民間の健保組合だけでなく、市町村国保、後期高齢者医療広域連合もマイナ保険証の保有情報は保有していないことです。市町村がマイナカードや電子証明書の発行主体であるにも関わらず、医療保険との紐づけ情報は知らないのです。マイナ保険証の保有の有無は、医療保険者向け中間サーバーから提供される更新情報に完全に依存していることになります。このような状態で各保険者は、移行期には、申請によらずマイナ保険証を保有していない方に一括して交付する対応が行うこととなります。また、移行期が終了した後はマイナ保険証保有情報を逐次管理するために、システム構築が求められます。また、申請・交付対応などで新たに人員体制の確保が必要となります。

 

「初回紐づけ情報」とは何か?

オンライン資格確認システムのサーバー上にマイナカードと医療保険の情報を初回紐づけした記録(ログ)のことを言います。

提供している情報は以下のように定義されています。

「マイナンバーカード保険証利用登録(初回紐付)状況ファイルの表示対象者は、中間サーバーに登録済で有資格且つマイナンバーカード保険証利用の登録が実施済の加入者です(マイナンバーカード未取得者は対象外です)」

つまり、マイナ保険証の紐づけを行った時点では、「中間サーバーに登録されていた」「資格が有効な被保険者であった」、「マイナンバーカードを保有していた」のいずれも満たす者となります。

初回紐づけ後にマイナカードが使用不能となった場合は?

医療保険者向けの中間サーバー上で各医療保険者が被保険者情報の登録(個人番号の登録含む)を行っています。(いわば被保険者情報をインプットする側のサーバー)

一方、オンライン資格確認のサーバーは医療保険者が登録情報を医療機関や被保険者が閲覧・情報取得するサーバーとなります。マイナカードを作成した被保険者がその後、マイナカードを返納したり、電子証明書の有効期限が切れた場合はどうなるか?記録はどこで管理されているのか?実は、マイナカード、電子証明書を発行・管理しているのは地方公共団体情報システム機能(J-LIS)及び当該被保険者が居住している市町村となります。J-LISとオンライン資格確認システム(中間サーバー含む)との情報連携は皆無です。これはマイナンバー法の規定により、すべてを統合したデータを保有することはできないためシステム上の対応も不可能となります。従って、紐づけたはずのマイナカード(電子証明書付き)が何らかの理由で失効している情報は、医療保険側(オンライン資格確認システム)は何も掴んでいない。記録されていないことになります。初回紐づけした情報を提供された医療保険者も当該被保険者のマイナ保険証が有効か否かわからないことになります。

 

J-LISが管理している情報

マイナンバーやマイナンバーカード、電子証明書を発行・認証している地方公共団体情報システム機構(J-LIS)では、マイナンバー、マイナンバーカード、電子証明書の情報は管理していますが、マイナカードを医療保険の情報と紐づけた情報は管理・保有していません。番号法では、芋づる式の情報漏洩を防ぐため、データベースは分散管理することが義務付けられています。

医療保険側は何を管理しているのか?

マイナンバーカードを軸に紐づけられた医療保険側は何をどのレベルで管理しているのか?オンライン資格確認のサーバーにはマイナンバーカードと医療保険情報と紐付けした記録はありますが、あくまで初回紐づけのログに過ぎません。つまり、過去の一時期にマイナンバーカードを保有していた記録は保有していますが、現在の稼働しているかは把握していません。オンライン資格確認のサーバーで有効な被保険者のマイナンバーカードとの初回紐づけ情報を保有しており3カ月の1回、医療保険者向け中間サーバーを経由して医療保険者に提供しています。この記録は以下の条件による登録です。

「マイナンバーカード保険証利用登録(初回紐付)状況ファイルの表示対象者は、中間サーバーに登録済で有資格且つマイナンバーカード保険証利用の登録が実施済の加入者です(マイナンバーカード未取得者は対象外です)」

カード返納、失効など異動は管理してない

マイナ保険証を紐づけた方のログとなりますが、頻度は3カ月に1回です。市町村国保、後期高齢者医療広域連合などの保険者ですら、オンライン資格確認のサーバー内にあるこの情報を頼りに資格確認書を発行するしかない状況にあります。支払基金は今後システム改修を行うとしていますが、根本的な問題は解決しません。J-LISはマイナカードと医療保険と紐付けた情報を統合管理することが法律上も制限がありますが、医療保険の側もJ-LISが管理している情報をデータ連動・同期することは法令上も困難ではないかと推察されます。医療保険者がJ-LIS照会できる範囲もあくまで「照会」であり、紐づけ実施機関として4情報に紐づき当該被保険者のマイナンバーを照会するなど目的が限定されているかと思います。

 

J-LISも管理してない -「無保険者扱い」続出の可能性

J-LISでは7月末時点で8900万人分のマイナカードを管理しています。マイナカードに搭載された電子証明書(利用者、署名用)の認証も行っています。厚労省発表では8月末時点でマイナカードの電子証明書の機能を使ってオンライン資格確認システムと紐付け処理した人(マイナ保険証保有者)は6660万人います。マイナ保険証保有者情報はオンライン資格確認システム側しかわからないし、J-LIS側で8900万から6660万人を差し引きした2240万人の方を特定することは困難のようです。支払基金はJ-LISに対し、マイナ保険証の紐づけを実施した被保険者でマイナカード返納や電子証明書が失効した方を特定できません。当該の方の情報を誰もつかめていないことになります。この状態で24年秋の保険証廃止を迎えると、マイナ保険証の紐づけした被保険者でマイナカードを返納・失効したり、電子証明書が失効した人は、資格確認書が送られてきません。この方は、保険料を支払っていても医療保険が受けられないいわゆる「無保険者扱い」となります。保団連の第1回目のマイナトラブル調査(6/19最終集計)では、マイナ保険証をオンラインで利用して資格無効となったり、顔認証付きカードリーダーが不備使えなくて窓口で10割負担を強いられた方が38都道府県1291件で発生しましたが、規模も影響の大きさも格段に大きなものです。新たな「無保険者扱い」を生じさせないためにも、医療保険者に多大な負担を強いる資格確認書の交付ではなく、一律・全員に発行・交付する現行の健康保険証を残すべきです。

<参考資料>J-LIS 特定個人情報保護評価書(基礎項目評価書)

・機構は、住民基本台帳法に基づき、住民の利便の増進と国及び地方公共団体の行政の合理化に資するため、全国共通の本人確認を行うために必要最小限の情報のみを保有する。具体的には、4情報(氏名、住所、生年月日、性別)、個人番号、住民票コード及びこれらの変更情報であり、所得額や社会保障給付情報などの税・社会保障・災害対策業務情報は保有しない。また、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律に規定する個人番号、個人番号カード、特定個人情報の提供等に関する省令(平成26年11月20日総務省令第85号。以下「個人番号カード省令」という。)に基づき、行うこととなる個人番号カード発行のため、上記に掲げる以外の情報(送付先情報)を保有するが、使用目的を厳格に定めている。