【歯科医療の危機】削っても、詰めても採算割れ

 

 長年、低い診療報酬に抑えられてきたため歯科医療機関の経営は危機を向かえています。コロナ禍での受診減や物価高騰、歯科治療に必要な金属価格の高騰等によりこのままでは良質な歯科医療を提供できなくなるレベルまで追い込まれています。 公定価格である診療報酬の評価が著しく低いため、歯を削っても、詰めてもその労力(人件費)に見合う報酬が得られない「採算割れ」の状態が続いています。これまで診療時間を延ばしたり、土日も休まず営業するなど様々な努力で何とか歯科医院経営を維持してきましたが、そうした経営努力も限界です。削る・詰める作業の労賃・工賃に見合う、歯科医療の持続可能性を担保した診療報酬に引き上げることが喫緊の課題です。

 ①実際に必要な金額②所用時間③保険点数赤字幅(③―①)
前歯を抜く(永久前歯抜歯)4万3161円60分1600円4万1561円
神経を抜く(抜髄・単根冠)8546円24分2320円6226円
抜いた神経に薬を詰める(根管貼薬・単根冠)2666円12分320円2346円
入れ歯のはめ込みやすく調整する(有床義歯床下粘膜調整処置)1万7440円17分1100円16340円

 歯学系学会社会保険委員会連合は2021年、診療行為別に人件費や材料価格などを積算した「歯保連試案2021」を策定しています。一例を挙げると、抜髄(単根管)は8546円(所要時間24分)と試算されているのに対し、現行の保険点数は2320円。根管貼薬(単根管)は2666円(同12分)に対し現行320円、有床義歯床下粘膜調整処置は1万7440円(同17分)に対し現行1100円、永久前歯抜歯は4万3161円(同60分)に対し現行1600円です。所要時間から考えると驚くべき低評価です。この「試案」や日本歯科医学会がまとめた「歯科診療行為のタイムスタディ調査」などを参考にして、診療にかかる医療材料費や人件費等を適正に評価すべきです。2024年診療報酬改定では、患者・国民の口腔の健康のため、日々診療を行う歯科医療従事者の努力を正当に評価し、歯科医療機関の経営を改善するためにも、技術料の評価の抜本的な引き上げが不可欠です。