第92回 保団連を立ち上がる勤務医の拠り所に

勤務医コラム 第92回 保団連を立ち上がる勤務医の拠り所に

 70歳を機に全国医師ユニオンに加入した。今更なぜと思われるかもしれないが、先行き短い自分のことよりも医者として中堅に差しかかった娘2人の医者人生を考えたとき、ささやかではあるが勤務医の労働組合に少しでも寄与できればと考えた次第である。
医師の働き方改革では時間外労働の上限がA基準で960時間未満、B・C基準で1860時間未満とされる。しかし過労死基準を遥かに超える働き方が法令化されながら、勤務医の側からこれを是正しようという動きは捗々しくない。ただ私自身40歳頃まで1860時間超を時間外で働いており、異常とも思わなかった。若い医師から声が上がらないのは無理からぬことでもある。当時、経営には貢献したかもしれないが、家族にとっては他人のような存在だった。忙しさを前面に押し出し、スタッフに対しては不遜な態度をとり、患者さんにはパターナリズムを押し付けていた。思い出すと恥ずかしい限りだが、今ではワークライフバランスを保ちつつ診療に臨むことが、患者さんにとってより良い医療を提供できる一番の条件と確信を持っている。
現状の是正には、第一に人口対比OECD平均値の3分の2しかない医師数の実増が必須である。医療の日進月歩に対応すると同時に、医療過疎地をつくらず日本全国津々浦々で生活に密着した医療活動を提供するための体制整備はコロナ禍でその重要性が証明された。第二に当面のタスクシフトや医師数増を保証するための診療報酬アップが必須である。
一方、医師の働き方改革の議論が盛り上がることは、労働基準法が及ばない開業医にとっても大きなチャンスとなる。診療報酬体系をディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の観点から是正して、経営を守り、職員を守り、そして地域医療を守る闘いは、開業医・勤務医の双方で協働できる。
医師ユニオンをはじめ自ら立ち上がろうとする全ての勤務医を支えるために、保団連はその拠り所としての機能を強化すべきである。

大脇 為常

公益財団法人健和会戸畑けんわ病院主任部長(内科)。福岡協会顧問