第96回 へき地診療所勤務医の限界

勤務医コラム 第96回 へき地診療所勤務医の限界

「先生、ありがとね。このままずっと診療所にいてね」
こんなうれしい言葉をかけられることが増えてきた。本当に有難いことだと思う。群馬県内の公立のへき地診療所に赴任し、1日20人程度の患者数だったのが、今では50人程まで増加した。医師としての責任とへき地医療のこれからの発展に向けた取り組みによるものと思っている。どのようにへき地医療を発展させるのか。今までの取り組みと考えを紹介する。
まずは、在宅医療についてだ。私が赴任する以前も在宅医療は実施していたが、在宅看取りを実践できる体制が整っていなかった。このことは「公務」として実施することによる対応の鈍さを感じざるを得ない。前任者たちの事情もあったと思う。しかし、必要とされる存在であるへき地診療所であるために、何をしなければならないのかを私は常に考えているつもりだ。
在宅看取りをできるように、まず医者が町にいる状況を作った。この9年間で45人の在宅看取りをしてきた。徐々にではあるが看取りができる地域になってきたと思う。
次に具体的な数字である。1つ目は町からの繰入金という補助金を2500万円から1千万円へ減額できたことが大きい。この理由は年間利用者が延べ5千人程度であったものが、2022年度は8400人まで増加した。受診者数の増加は小児の受診が増えたことにもよる。全体の3割が15歳未満の小児であった。プライマリケアの実践を続けてきた成果であろう。
ここで報酬の面における限界が勤務医にはある。へき地診療所であるから待遇は良いのではないかというと決してそうではない。町とは交渉を繰り返しているが、給与は微増である。役場からは現状の額が限界であるとのことだ。へき地診療所の求人で見かける額には程遠い。しかし、へき地医療に従事する者として、責任と誇りを持って、日々診療にあたっている。限られた予算の中でどのように交渉していくかが今後の鍵となる。診療報酬が下げられ続けていく中でへき地医療の存続をどのように対応していくべきか。課題は山積みだ。

 

金子 稔

群馬県長野原町へき地診療所勤務。2011年自治医科大学卒業。群馬大学病院救急科勤務を経て15年から現職。群馬協会、群馬県介護支援専門員協会、群馬県臨床内科医会理事を兼任。