全国保険医団体連合会では、12月20日に厚労省が2024年度の診療報酬改定率を発表したことを踏まえ、下記の談話を発表しました。
2023年12月21日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
【談話】医療の質を度外視し、地域医療の地盤を揺るがせる改定率に抗議する
~2024年度診療報酬改定率について~
厚生労働省は12月20日、2024年度の診療報酬改定率を発表した。技術料本体に相当する「診療報酬」について、「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」のベア引上げ対応に+0.61%、「入院時の食費基準額引き上げ」に+0.06%、個別項目以外の改定分を+0.46%とする一方、「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」を-0.25%とする。合わせて、診療報酬は+0.88%となる。薬価で-0.97%、材料価格で-0.02%の改定(計-1.00%)も含めて、ネット(全体)での改定率は-0.12%となる。なお、上記改定分+0.46%のうち、+0.28%は勤務する40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師、事務職員、委託先の歯科技工士等の賃上げに充てるため、用途が限定されない本体財源は+0.18%に留まる。
医療の質の維持・向上を度外視
薬価改定財源の本体報酬への充当を反故にした6回連続のネットマイナス改定である(2014年度は消費税対応を除き実質ネットマイナス)。さらに、異常な物価高騰が続く下、新型コロナウイルス感染拡大の打撃からの医療の再建に加えて、新興感染症対策、在宅医療の拡充や「かかりつけ医」機能の充実、新規技術の導入など多くの課題も抱える中、用途が未限定の財源が僅か+0.18%とは、事実上、医療の質の維持・向上に背を向けたものと言わざるを得ない。
本気度が問われる処遇改善対応
目玉とされる医療従事者の賃上げ対応にしても、計+0.89%(0.61%、0.28%)を充て医療関係職種について3~4%の賃上げ(定期昇給含め)を見込んでいるが、医療関係職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く)の月給与平均は32.7万円と全産業平均36.1万円を10%近く下回っている。看護補助者に至っては同25.5万円と全産業平均を30%も下回る(中医協資料、12月8日)。コロナ禍の負荷も重なり、医療関係職種の入職超過率が0.0%にまで低下する中、国として医療従事者をきちんと確保する気があるのか本気度が問われている。
採算割れしている入院時の食事基準額の引き上げは当然だが、患者負担増(1食30円増)とした上で低所得者の負担増を緩和する対応である。患者負担を増やさず、保険給付分を引き上げて手当てすべきである。
診療所の報酬削減で地域医療の地盤揺らぐ
用途が限定されない財源は+0.18%だが、「効率化・適正化」の-0.25%は事実上、診療所が標的になることが想定され、実質上、医科診療所は2022年度改定と同様、本体もマイナスになることが強く危惧される。医科診療所(医療法人・無床)の4分の1が赤字、歯科診療所(個人立)の4分の1は収支差500万未満と危機的状況にある中、診療所等の報酬引き下げは、地域医療の地盤を揺るがせるものであり、到底容認しえない。
薬物治療制限は筋違い
さらに、制度改革に関わって、新薬のイノベーションの更なる評価等のため、長期収載品の保険給付を制限するとしているが、新薬評価のために患者の薬物治療を制限するようなことは筋違いも甚だしい。「医療DXの推進による医療情報の有効活用等」の推進はトラブルが常態化しているマイナ保険証の推進にほかならない。まずやるべきは健康保険証の廃止を撤回することである。
防衛費倍増、「少子化対策」、財政再建の名の下に地域医療や患者にしわ寄せを行い、医療の再建・充実に背を向ける2024年度の診療報酬改定率に対して強く抗議するとともに、大幅なネットプラス改定を求めるものである。
以上