第97回 “マニュアル化”と“暖かさ”の共存を目指そう!

勤務医コラム 第97回 “マニュアル化”と“暖かさ”の共存を目指そう!

 新型コロナウイルス感染症による行動制限がなくなり、人流が戻ってきたように感じる今日この頃である。しかし、現在の人流の主は海外からの観光客で、国内での動きは、まだ一部であるように感じる。マスクをつけている人は、病院内では10割であるが、一歩外に出ると間違いなく4割を切っていると思う。そのためか、インフルエンザの流行も衰えず盛んであるようだ。ワクチン接種する人も減少しており、ある意味、新型コロナの“思惑”通りであろう。
この新型コロナのパンデミックを乗り越えた世界は、確実に変化を遂げたと思う。オンラインセミナーや会議がごく普通に日々開催され、紙データは電子化をせまられ、機械化・デジタル化・マニュアル化しないと、遅れているとレッテルを貼られる時代になった。人手不足で業務の簡素化や機械化を進めることも必要であろう。
しかし、その社会で働く人間は、そのマニュアルの範囲内で業務を行っていれば良い、または業務内容がマニュアルの範囲を超えたら、業務ができない、もしくはしなくて良いと考える人がとても増えていることに、危機感を抱いているのは、私だけだろうか。面白いが“規格外”の奇抜なアイデアは生まれず、機械化に取り残される人々を助けるサービスは生産性が低いと言われ、臨機応変な対応もできない。社会全体でマニュアル化・機械化が推奨され、人々の心が著しく硬くなり、周りの人々へのやさしさ・暖かさ・ぬくもりが減ってきていると感じる。
世の中を戦いの渦に巻き込まないために、皆の流れに自身の身をまかせない、自分のペースを守り、ものの考え方や仕事の進め方を貫く人が、もっと活躍しなければならない時代なのかもしれない。世界中の人々が笑顔で楽しく生きて、安心して生をまっとうできる社会にと、心から切に祈念するものである。

 

中村 起也

広南病院・神経内科医師。認知症や、パーキンソン病など神経変性疾患を中心に診療。日本神経学会専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、介護支援専門員、医療福祉連携士。宮城協会副理事長。保団連勤務医委員会委員。