国が進める「医療DX」と我々が求める医療等ICT施策について

第51回定期大会(24年1月)で確定した保団連基本要求(医療DX)です。

Ⅲ 国が進める「医療DX」と我々が求める医療等ICT施策について

1.国民不在の強権的な「医療DX」に反対する

国が進める「医療DX」は、脆弱化された医療提供体制の矛盾・困難を「デジタル化」によって糊塗するに留まらない「医療DX」は、経団連など経済界の要望を背景にして、大企業の負担軽減に向けた医療費抑制、さらには公的医療保険制度を変質・解体させていく狙いを持つ。それは、マイナンバーカードの保険証利用(健康保険証廃止)、マイナポータルの利用促進を通じて医療費抑制を進めるとともに、個人の行動を管理、統制・監視する社会の構築を図る。他方、医療・介護等ビッグデータ(例えば、レセプト、処方箋、電子カルテ、さらに窓口計算実績データなど)として構築した「全国医療情報プラットフォーム」について、さらなる医療費抑制や医薬品・医療機器等開発への利活用に加えて、各種民間分野での利活用も狙うなど、我が国の民主主義、公的医療保険制度を根底から変質させかねないものである。国が進める「医療DX」について、オンライン資格確認整備義務化の中止、健康保険証廃止の撤回はじめ、以下の項目について強く抗議する。

(1)医療機関等におけるオンライン資格確認整備の義務化は中止すること。

(2)マイナンバーカードの保険証利用の中止、健康保険証廃止の撤回を求める

①マイナンバーカードの保険証利用は中止すること。

②現行の健康保険証券面を残し、これまで同様、全ての加入者に交付すること。

③診療報酬のオンライン請求を事実上「義務化」する方針は撤回すること。

④個人の健康・医療・介護等情報に関わるマイナンバー誤紐付けについて点検を徹底するともに、随時、国会に進捗状況を報告すること。

(3)「医療DX工程表」の義務化に反対する

①電子処方箋、電子カルテの標準化、診療報酬改定DXはじめ、「医療DX工程」における整備目標期限について義務化しないこと。

②「医療DX工程表」の策定・実施をめぐる資料・議事録は原則、全て公開するとともに、説明責任を果たすこと。

③電子処方箋について、患者・国民、医療機関にメリット/デメリット双方を正確に説明・周知すること。システム検証に関わる期間を十分に見込むとともに、整備・運用に関わり医療現場の

経済的負担を補助金で十分に手当てすること。システム・トラブル時に際しては、処方内容の「控え」について原本として扱い調剤を認める運用に改めること。

④システム・トラブルやエラーをめぐる問題について、関係省庁自らが監督責任を持って、ベンダー含め経緯に関わる原因と責任の所在について詳細に明確にした上、公表すること。

⑤マイナンバーカード普及・利用に向けて、税金(補助金、交付金など)を注ぎ込むことは止めること。

⑥患者・国民にPHR利用はじめマイナポータル利用を誘導する・強いるような施策は取らないこと。

⑦少なくとも、医療・介護事業者等でのシステム整備・運用費用について、自己負担(患者・利用者負担増も含め)とならないように、国が責任を持って対応すること。

(4)給付抑制を目的とするマイナンバー制度は中止すること

国民一人一人の経歴や資産、健康状態に至るまで一元的に把握することで、「負担と給付の調整」に利用し、社会保障の適正化を目的とした、マイナンバー制度は凍結・中止すること。マイナンバーカードと被保険者証の一体化や、マイナンバーと機微性の高い医療情報との紐付けを中止すること。

2.患者・国民、医療者本意の医療等ICT政策に向けて

高齢化が進む我が国の状況等を踏まえ、将来を展望して、国が進める「医療DX」とは異なる患者・国民、医療者本意の医療等ICT施策に向けて、以下について要望する。

とりわけ、デジタル化の推進は強制、義務化ではなく、任意とするべきである。医療現場にとって便利で有益であれば、自ずから進んでいくという政策姿勢を貫くことが大切である。その上で、医療現場、患者・国民の要望に沿って、国が必要な財政支援などを進めていく姿勢が望まれている。

(以下、医療・介護等に係る個人情報の1次利用(医療連携)、2次利用(創薬開発等)を念頭に置く。)

(1)患者・国民本位の目線に基づき、医療現場が望む形で設計・実施すること

①医療連携等に関わるICT化は、医療現場の理解と協力に基づき、現場の実情に寄り添って運用に係る整備・負担を極力軽減できるように努めること。法令上の義務化は行わないとともに、経済的な不利益(診療報酬減算など)を課すなどで整備・利用を促進しないこと。

②国・行政でのICT政策決定過程の透明性と説明責任を確保・徹底するとともに、意見応募・公聴会、国会審議はじめ、地域の医療現場、立法府と市民社会による実効性を伴う手続き的関与について整備・充実すること。

③医療・介護等に係るICT化施策は、マイナンバーカードやマイナンバー制度インフラ(マイナポータル含め)の利用とは切り離した制度設計とすること。公的なデータ連携基盤(民間データ基盤との連携含め)は、被保険者番号のように医療分野内に閉鎖された運用設計とすること。

④デジタル化対応に困難を抱える患者・国民、医療機関・介護事業者等に対して、これまで同様、アナログ対応を保全すること(例えば、カルテ、レセプト請求、各種届出、健康保険証)。

⑤デジタルデバイドの是正に向けて、利用者本人の意向・希望を尊重しつつ、各種支援策について充実すること。

(2)個人情報保護法制の抜本的強化に向けて

①公的サービス利用に際して、人権侵害の危険性が強い顔認証(生体認証)は実施しないこと。

②情報利活用に関わって、原則、本人の同意を要する個人情報保護法制について抜本的に強化すること。

ア 個人情報の第三者利用に関わる基本原則において、研究者等が利活用する段階で審査する「出口規制」(=患者個人の同意を要しない)への変更はしないこと。

イ 自己情報コントロール権を具体化する措置を個人情報保護法制に体系的に設けること。

(例えば、プロファイリング制限・禁止、個人識別禁止、忘れられる権利(データ削除・利用停止を求める権利)、アクセスログ通知(自己情報が使われる全ての場合の通知・確認制度)、罰則規定強化(委託・孫委託先に対する厳重罰の徹底、制裁金の強化)やデータ越境移転制限など。)

ウ 個人情報保護委員会について、政府からの独立性を担保するとともに、人員拡充・指導権限を強化するなど実効性ある監視・監督機関に改めること。

③システム障害等のリスクの防止・抑制、事故対応やサイバー攻撃に対するセキュリティ確保やリスクマネジメントを担保する施策に最大限努めること。国は、システムセキュリティ確保等に関わって、医療現場・医療機関に対する財政措置及び支援に責任を持つこと。

④健康・医療・介護等に係る公的データベースのクラウドサーバーは、米国など海外サーバーではなく、日本国内に構築すること。サーバー委託先企業(再委託は基本禁止)に対して、越境移転の禁止など政府・自治体が監督責任を強力に発揮すること。

(3)患者本人の診断や治療に関わるデータ利用(1次利用)について

①地域医療連携ネットワークなど地域に根ざした取り組みに対して、周知案内も含めて国・自治体はスキル支援や補助金など支援を抜本的に強化すること。

②かりに全国標準で連携する仕組みを構築する場合、医療現場の声を十分に踏まえ、我が国の医療提供の実情に応じて医療現場で真に必要とするものに留めること。特に、アクセスポイントの限定(利用者・医療機関含め)、中継型サーバー(データを蓄積しない)の使用などセキュリティ確保に万全の注意を払った上、費用対効果に優れた仕組みの構築・運用に努めること。

③電子カルテの標準化・共有を進める場合(電子カルテ導入、HL7FHIR実装、診療情報の標準コード化など多大な整備が必要)、システム検証に関わる期間を十分に見込むとともに、トラブル・エラーを迅速に検知・対処できる運用とすること。

④PHRの適切な利用について

ア 個人にマイナポータルはじめPHR利用を誘導する・強いるような施策は取らないこと。

イ PHR利用について、個人の人権・法益保護に鑑みた運用ガイドライン(抑止力を伴う罰則、モニタリングなど含め)を作成し、PHR関係業界に遵守を徹底させること。

ウ 患者などの民間PHR利用(例えば、健康系アプリなど)に関わって、サービスのエビデンスはじめ事業者の質を担保すること。また、「かかりつけ医」を中心に医療機関が適切・確実に介在できる運用とすること。

ウ 医療費抑制に向けて、国、自治体・企業(保険者)はPHRについて、患者・国民、勤労者、医療機関の管理・統制に使用しないこと。

(4)医療分野の研究・開発、政策立案に関わるデータ利用(2次利用)について

①レセプト・処方箋・カルテ、介護等情報を給付の統制や管理に利用しないこと。

②NDB・介護DB等に係る運用は、研究内容など「公益性」や審査を適正に行った上、自己情報コントロール権の担保はじめ個人情報保護に十分配慮すること。研究成果について、患者・国民に分かりやすく公表・周知するなど社会的還元に努めること。

③深刻な医療情報漏洩・個人識別につながる既存データベース(がん登録、難病・小慢ほか)の連結・解析は拡大しないこと。

④改正次世代医療基盤法(2024年施行予定)について、個人情報保護に留意しつつ実施すること。個人情報保護委員会は2次利用に関わって法的解釈・運用を緩和しないこと。

⑤今後の医療等情報の2次利用のあり方については、目指す社会像を明確にした上、課題と対応を丁寧に示し、患者・国民、医療現場、法曹界はじめ社会全体で議論を十分に尽くして決めること。

⑥一般民間事業者の利用(例えば、教育、雇用、民間保険契約など)については禁止すること。医療等データが社会的・経済的差別に利用されないよう、海外の遺伝子差別禁止法のような立法措置も念頭に実効性を伴う個人情報保護措置を設けること。

3.オンライン診療について

(1)オンライン診療について、当該疾患に直接関係する学会等の意見・エビデンスを無視したなし崩し的な解禁・推進はやめること。

(2)原則、初診からのオンライン診療は中止すること。

(3)医師が常駐しないオンライン診療のための診療所開設に関わる運用について、離島・へき地等以外には緩和しないこと。

(4)医学会連合提言などに基づくオンライン診療指針(2023年3月改訂)の遵守の徹底に向けて、国・都道府県は厳格かつ実効性ある措置・対応を講ずること。