保団連が医科・歯科の開業医会員を対象に行った「開業医の意識・実態基礎調査」を男女別に分析したところ、女性医師・歯科医師が仕事と家事労働の「二重負担」に陥っている状況が浮かび上がった。
医学部入試差別問題が発覚した際、「女性医師が増えると(産休・育休・時短勤務が増えて)現場が回らない」という声があったが、この背景には、過労死ラインを超えるような医師の過酷な働き方に加え、根強い性別役割分業意識がある。
調査では、女性医師は半数が平日も2時間以上の家事・育児・介護を行う一方で、男性医師は半数が「0~30分以下」。実労働時間を見ると、9時間以上の割合は男女で差はなく、夫婦とも医師または歯科医師の場合でも平日家事時間は女性の方が圧倒的に多かった。
調査の実施時期
2021年9月1日~9月30日(一部9月末より10月上旬まで)
調査方法
①調査対象…医科・歯科開業医会員(病院会員、勤務医会員除く)86,590人(2021年6月1日付)の各10%を対象として、全国51の各保険医協会・医会ごとに無作為抽出した8,659人を調査客体とした。
調査客体:8,659名(医科:4,978 名、歯科:3,681名)
回収結果
①回収数:2,575名(回収率 29.7%)、うち有効回収数:2,565名。
有効回収数の内訳
医科 :1,356 名(回収率 27.2%)
歯科 :1,209 名(回収率 32.8%)
合計 :2,565名 (回収率 29.6%)
②年齢分布では、医科、歯科ともに「60歳代」が最も多く(36.9%、34.2%)、次いで、「50歳代」が(27.5%、29.4%)。
③性別は、医科は男性85.5%・女性13.2%。歯科は男性88.9%・女性10.7%。
性別役割分業は女性医師の7割が反対意見。医科・歯科とも反対意見が上回る
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方については、医科・歯科ともに反対意見(「どちらかと言えば反対」「反対」)が賛成意見(「賛成」「どちらかと言えば賛成」)を上回った。男女別に見ると、女性は医科で70.9%、歯科で62.8%が反対意見なのに対し、男性は医科で41.5%、歯科で37.6%にとどまった。
平日の家事労働は女性2時間以上、男性「0~30分未満」が最多
1日の家事・育児・介護時間(平日)は、男性は医科46.6%、歯科39.5%が「0〜30分未満」で最多だったのに対し、女性は医科45.2%、歯科38.8%が2時間以上だった.
休日の家事等も男性1時間未満、女性2~7時間
休日の家事・育児・介護時間は、男性は医科・歯科とも1時間未満が約半数を占め、女性は2~7時間未満が医科で6割、歯科で5割に上った。
夫婦とも医師・歯科医師でも家事等時間に大きな差
夫婦とも医師・歯科医師の場合の平日家事・育児・介護時間を見ると、男性は「0〜30分未満」が34.2%で最多、女性は「2〜4時間未満」が39.3%で最も多く、同じ医師・歯科医師でも男女で大きな差があった。
女性医師・歯科医師の「二重負担」
実労働時間を見ると、「7時間未満」の割合は女性の方が医科で3.0ポイント、歯科で10.7ポイント高く、「7~9時間未満」は男性が医科で4.9ポイント、歯科で9.5ポイント
高かった。しかし、9時間以上は医科では男性46.4%、女性47.5%で女性の方が高く、歯科も男性38.6%、女性38.0%と大きな差はなかった。
フルタイム勤務者(実労働時間7時間以上)の平日家事等時間を見ると、男性は「0〜30分以内」が最多で、約7割が1時間未満なのに対し、女性は医科「2〜4時間」37.8%、歯科「1〜2時間」34.8%が最多だった(図8)。家事等時間と仕事時間を合わせると、女性により多くの負担がかかっていると言える。
意識と実態の差
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、反対意見(「反対」「どちらかといえば反対」)の人の平日家事等時間を男女別に見ると、男性は医科43.2%、歯科36.6%が「0〜30分未満」だった。女性は医科46.5%、歯科46.8%が2時間以上と答えた。
休日も、男性は医科・歯科とも半数が「0~1時間未満」なのに対し、女性は医科36.1%、歯科43.2%が4時間以上の家事等労働に当たっている。
おわりに
2018年に複数の医学部入試で女性差別が発覚した際、「女性医師が増えると(産休・育休・時短勤務が増えて)現場が回らない」という声があったが、この背景には、過労死ラインを超えるような医師の過酷な働き方に加え、家事等の負担が女性に大きく偏っている状況がある。
今回の分析結果には、そうした医療界における性別役割分業意識が如実に表れていると言える。