第1回 「選択的夫婦別姓」ってなに?
福沢恵子(「別姓訴訟を支える会」代表)
ここ数年、新聞やテレビ、インターネットなどで「選択的夫婦別姓」という文字が頻繁に見られるようになってきた。高校の現代社会の教科書にも、この言葉が時代のキーワードとして掲載されている。とはいえ、多くの人にとっては「自分には直接関係ないこと」という意識も根強いようだ。そこで、今回は「選択的夫婦別姓とはなにか?」について述べたいと思う。
改姓するのは95%が女性
日本の民法では「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」(750条)と規定されている。これを別の表現で言えば「婚姻届を出す際には夫婦のいずれかがそれまで使っていた氏を失うことを強制され、どちらかの氏に統一する」ということだ。婚姻後の氏は夫婦どちらの氏を選んでもよいので一見平等に見えるが、実際に改姓するのは95%が女性である。
この背景には女性が自ら進んで改姓した例もあるだろうが、一方で社会的慣習や、夫やその家族からの圧力により不本意ながら改姓した事例も少なくない。つまり、法律の条文上は「平等」であっても実際の運用ではまったくの「不平等」なのだ。「選択的夫婦別姓」とは夫婦が同じ氏を名乗ることを強制する現行の民法750条を改正して「夫婦同姓もしくは別姓を選ぶことができる」ようにするというものである。
離婚後の姓は「選択的」
日本の結婚は「入口」である「婚姻」では1つの選択肢(=夫婦同姓)しかないが、「出口」である「離婚」では複数の選択肢がある。
具体的に言えば、①婚姻時に改姓した人は旧姓に戻る②婚姻期間に名乗っていた氏をそのまま使用する(=婚氏続称)―の2通りである。従来は婚姻で改姓した人は離婚したら旧姓に戻ることを強制されていたが、1976年に婚氏続称の制度が新たに設けられたのだ。
この民法改正の背景には「婚姻時の氏が周知されている場合、改姓による社会・職業生活上の困難に配慮すべき」という判断があった。
それならば「婚姻『前』の氏が周知されている場合も、改姓による社会・職業生活上の困難に配慮すべき」という考え方があって当然ではないだろうか。
婚氏続称制度が実現した背景には、国会議員でもある女性弁護士が結婚30年余を経て離婚することになり、強制的に旧姓に戻ることによってそれまでの職業的な実績や社会生活に多大な不便や困難が生じたという事実がある。
当事者だった佐々木静子弁護士は、婚姻時と同じ「佐々木」姓を持つ人を探して養子縁組をして、外形的には長年使用してきた氏を取り戻すことができたが、この経験が婚氏続称を実現する法改正の源になったと言われている。
婚氏続称制度が始まってから約半世紀。今こそ結婚の「入口」も時代に則したものに変わるべきだ。しかし、過去30年余り、選択的夫婦別姓の実現は「塩漬け」となったままである。それはなぜなのか? (つづく)
(全国保険医新聞2023年11月25日号掲載)
(ふくざわ・けいこ)
「別姓訴訟を支える会」代表。夫が改姓した法律婚1年を経て事実婚に移行。今年で38年目。そろそろ医療的同意や相続などが現実問題となりつつあり、事実婚の課題や限界を感じている。早稲田大学政治経済学部卒業。朝日新聞記者を経て1990年独立。