連載 選択的夫婦別姓⑦ 病院で呼ばれる名前

第7回 病院で呼ばれる名前

高島紗綾 (第2次選択的夫婦別姓訴訟原告)

私は結婚当初から事実婚で過ごしているが、出産時は子どもの氏を夫と同じにすることと、配偶者・父親として医療同意をできるよう法律婚した。通っていた産婦人科で事実婚だと説明したが、何度か「結婚しないのか」と聞かれ不快だった。

実際の出産時は、転院の上、緊急手術となったのだが、やはり入院や手術を伴う医療においては法律婚の方が不安を減らせると思った。この時は私が改姓したが、保険証の名前はそのままだったので、自分の名前で医療を受けることができた。病院には法律婚したことを伝え、出生届はその時の戸籍姓で作成してもらった。その後、子どもの戸籍に記載された母親氏名が自分ではない人の名前であることに強烈な違和感を抱き、離婚届提出後に母親欄の氏の変更手続きをした。

平時には困らなくても

今でこそ社会保険は夫の被扶養者で、婚姻歴も戸籍に記載されており、家族と推認できる状況がある。しかし、結婚直後はそれぞれに社会保険に加入し、別居婚で住民票も別で、私たちの関係を示すものは何もなかった。

出産を翌月に控えたタイミングで、私の故郷で東日本大震災が発生した。多くの人が亡くなった。もし、事実婚だったあの時、里帰り出産を選んでいたら、私に何かあったら夫に連絡が入っただろうか。平時には困らなくとも、災害時や非常時にどうなるのかは分からない。

病院にて

私は現在、乳がんの治療中だ。病院では検査、診察、治療、会計とあらゆる場面で生年月日とフルネームにて本人確認が行われる。検査や薬剤が他人のものだったら命に関わるので逐一の確認は当然のことだし、その名前が戸籍名なのも当然だと思う。だから、年単位を要する治療は自分の名前で受けたいと思った。

一方、事実婚の夫が配偶者として扱われるかも大事な要素だ。そのため、診断が確定した段階で最初に確認したことは、事実婚の夫による医療同意が可能かということだった。幸いにもその病院は事実婚でも問題ないとのことだったので、そのまま治療をすることにした。抗がん剤で体がしんどい時には精神的にもきついと感じるのに、望まない名前で呼ばれるとしたら、どれほど苦痛が増すであろうか。そのため、もし治療中に法律婚の必要があれば夫が改姓することにしている。

しかし、本来はこのようなことを考えずに、必要な時はいつでもどこの病院でも安心して医療が受けられるよう、一日も早く別姓で法律婚できる選択肢が法制化されることを望んでいる。

(全国保険医新聞2024年5月25日号掲載)

(たかしま・さや)

2009年に結婚。お互い改姓を望まず、相手に改姓を求めることも対等な関係性を保てないと考え、結果的に事実婚で過ごしている。法律婚と比べ不利益を被る場合は、一時的に法律婚することを繰り返している。第2次選択的夫婦別姓訴訟原告の一人。