河野太郎デジタル大臣は8月8日の記者会見で「保険証廃止で事実上のマイナカード強制になるのではとの記者の問いに対して「全くならない。なぜそういう議論になるのかよくわからない」とコメントしました。
政府のやり方にそのものに不信感
政府は、保険証廃止を人質にマイナカードの事実上の義務化を推し進めてきましたが、河野氏の「全くならない」という認識は、そうした事実経過すら否定するもので開き直りに近いものです。
5月から取り組まれたマイナ保険証利用促進キャンペーンでは、医療機関・薬局から「12月で現行の健康保険証が廃止される」旨を記載したチラシとセットでマイナカード取得やマイナ保険証利用の声掛け・利用勧奨が行われています。その結果、健康保険証は12月2日以降も最大1年間の経過措置があるにも関わらず、「12月2日から健康保険証が使えなくなる」など誤解が広がっています。国民をミスリードし、マイナカードを持たざるを得なくなるように追い込むやり方そのものに不信感を抱いているのです。
加入が義務の健康保険を人質にマイナカードを強制
すべての国民は健康保険に加入する義務がありますが、マイナカードの取得は任意です。健康保険証を廃止した上で、マイナカードに一体化することは、事実上、マイナカードを取得することができない方、意思がない方にもマイナカード取得を強制していることになります。河野氏は高齢者や障がい者など管理が困難な方、マイナカードのリスクを懸念し取得を拒否される方の声を傾聴すべきです。
根拠や統計しめさず「保険証廃止」に違和感
「保険証を選択しとして残す考えはないか」との記者の問いに対して「現行の保険証は偽造・なりすましを防ぐことができないから、現行の保険証を残すことは全く考えていない」と述べました。さらに、「保険証を廃止しなければならないほど偽造・なりすましが生じているのか」の問いには数字や根拠も示さず、「現状でそういうことがあることは既に確認されているから、やめた方がいい」と言いました。
国民皆保険の下、日本国民は被用者保険、国保、後期高齢者医療保険などいずれかの保険への加入(保険料支払い含む)が義務付けられてます。外国人でも、3カ月を超えて日本に滞在する方で職場の健康保険に加入していない方は国民健康保険に加入しなければなりません。ほぼすべての住民が被保険者であり保険料を支払っている現状(被扶養者は世帯主が保険料を負担している)と受診時には窓口負担(1割から3割)を徴収されること等から「偽造・なりすまし」という犯罪まで犯して得られる利益はほとんどありません。行政が実態調査や統計上の根拠も提示できない中で所管外のデジタル大臣が「偽造・なりすまし」を保険証廃止の理由に挙げることに違和感しか感じません。
数十年にわたり何の瑕疵もなく利用してきた健康保険証を破壊してまで得られる国民の利益はあるのでしょうか?マイナンバー制度のシステム構築、カードを国民に持たせるポイントばら撒き、マイナ保険証のごり押しするための補助金、マイナトラブル解消のためのシステム改修費用などこれまでに多額の税金が投入されてきました。利益どころか「多額の税拠出」という損害を被りました。さらに、健康保険証の廃止で国民・患者・医療現場に不安と混乱を巻き起こすだけです。保険診療がまともに提供できなくなる事態も生じかねません。
国民にとって重大な不利益が想定される「保険証廃止」。国民生活にかかる重大な政策変更ですが、その合理性・蓋然性を根拠のある数値を示すことなく、国会での審議も不十分なまま法改正を強行しました。
こうした政治手法そのものが国民から否定されています。健康保険証の廃止とマイナカードへの一体化を決めた河野氏の政治責任は重大です。責任を認めて保険証廃止を直ちに撤回すべきです。
保険証だけでは銀行口座を開設できない
健康保険証(被保険者証)は医療機関が保険請求に必要な「保険の種類を被保険者番号」を確認するための被保険者を証明するものです。健康保険法は患者(被保険者)が受診の際に医療機関窓口で保険証を提示すること、医療機関が被保険者証(保険証)で被保険者の資格を確認することを求めていますが、本人確認までは求めていません。すべての住民が何らかの保険に加入し、保険料を支払っている公的医療保険制度の仕組みから、法令上、医療機関を受診する際には本人確認まで必要としていません。
一方、携帯電話や銀行口座の契約行為などで必要な身分証などによる本人確認が求められますが、他人・第三者による口座開設等により経済的な被害が生じることを防ぐためです。
金銭を伴う契約による犯罪収益移転を防止するための法律(犯罪収益移転防止法)では、特定の金融取引・金銭貸借等に関して取引業者に身分証等による本人確認を義務付けています。健康保険証だけでは携帯契約や銀行・証券口座の開設ができません。つまり、仮に健康保険証の「偽造・なりすまし」が行われたとしても、被保険者本人が経済的被害に遭わない仕組みです。
「なりすまし受診」は日常茶飯事か?
偽造や他人になりすまして健康保険証を使う「不正利用」について、厚労省は頻度・状況などについて公式上の報告は示していません。国会審議ではどうか。不正利用の発生件数の質問に対して、厚労省の日原知己大臣官房審議官(当時)は「全ての保険者について把握しているわけではない」(※)と断っており、なりすましなどは根拠不明の理由と言わざるを得ない。また、日原審議官は「市町村国民健康保険では、2017年から2022年までの5年間で50件のなりすまし受診や健康保険証券面の偽造などの不正利用が確認されている」と答弁しています。
国保加入者約2,500万人(国保組合除く)に対して、1年に10件とわずかな数です。これまでも、医療機関では、現場の判断で必要に応じて患者に免許証など写真付き身分証提示を求めるなど健全運営に留意しています。
個人情報漏洩リスクが高くなるマイナンバーカードを使ってまで本人確認(顔認証システム)を行うことは費用対効果上から疑問が大きいと言わざるを得ません。
河野大臣記者会見(令和6年8月8日)|デジタル庁 (digital.go.jp)
河野デジタル大臣記者会見要旨
(令和6年8月8日(木)10時25分から10時57分まで 於:デジタル庁20階会見室及びオンライン)
2. 質疑応答(抜粋)
(問)マイナンバーカードについて、現行の健康保険証が新規発行されなくなるまで4か月を切りました。保険証を廃止してマイナ保険証に一本化することで、事実上マイナンバーカードの取得を強制することにはならないでしょうか。
(答)全くならないと思います。なぜそういう議論になるのかよくわかりません。
(問)実際に勘違いして取得された方もいますが、その辺りはどうでしょう。
(答)勘違いして取得されたという話はあまり私聞いておりません。今日この後も新たな使い道の発表がありますが、マイナンバーカードを使うことで様々に生活等が便利になっていますので、大いに使っていただきたいと思います。
(問)高齢者や障がい者からは、マイナ保険証が使いづらいという声もあります。こういった方々が誰一人取り残されないようにするためにも、選択肢の一つとして現行の保険証を残した方がいいのではないでしょうか。
(答)論理が飛躍しているのではないかと思います。現行の保険証は偽造・なりすましを防ぐことができませんから、続けていくということは問題をそのまま引きずることになりますので、現行の保険証を残すことは全く考えておりません。
(問)偽造・なりすましの点について、現行の保険証でそのような問題が、廃止しないといけなくなるほど起こっているのでしょうか。
(答)現状でそういうことがあることは既に確認されておりますから、やめた方がいいと思います。
(問)現状、マイナ保険証やマイナンバーカードについて、メリットやデメリットが全部把握することができなくてどうすればいいのか分からないという声も東京新聞にたくさん届いています。保険証が廃止となる4か月間でこういった方々の理解を得て、不安を取り除くことはできるとお考えですか。
(答)東京新聞を読んでいる方でそのような声があるならば、東京新聞で是非メリットを伝えていただきたいと思います。
(問)誰一人取り残されない人に優しいデジタル化を掲げていると思うのですが、そうするために河野大臣が大切にされていることは何でしょうか。
(答)最新の技術をしっかり取り入れて、万人の皆様にそれを使えるようにしていきたいと思います。