第101回 健康格差を実感 診察室で支援の試み

勤務医コラム 第101回 健康格差を実感 診察室で支援の試み

 日頃の診療の中で、健康格差を感じることは多い。失われた30年間の間に、国内の経済格差は拡大し、その結果、患者さんを通して我々は健康格差の広がりを実感している。そうした中で、困難を抱える患者に対して、できる範囲の支援が診察室で試みられている。例えば、経済的に苦しくて定期通院が難しい患者に、診察室で社会資源の活用をすすめるのは、その一例である。こうした支援への関心は医師の中で広がりつつあるが、日本の医療界が全体として健康格差に正面から取り組むまでには至っていない。
そこで、健康格差の縮小に取り組む実践が医療機関で広がることを目指して、今年11月6日から8日に広島国際会議場で第30回国際HPHカンファレンスの開催を準備している。HPHについては初めて耳にする方も多いと思うが、Health Promoting Hospitals and Health Servicesの頭文字をとった名称で、医療機関としてヘルスプロモーションの推進を目指すことを目的としている。HPHは、WHOが1989年に開始し、現在は世界で600ほどの医療機関の国際的なネットワークとなっている。既述のカンファレンスは、ネットワークの年次総会として日本で初めて開催されるものである。
カンファレンスのテーマは、「健康の公正性を目指して~医療機関と介護事業所の貢献~」である。カンファレンスを通して、健康格差に関する最新のエビデンスと世界で実践されている医療機関における健康格差縮小のための好事例を学ぶことになっている。演者としては、健康格差の存在を広く世界に問題提起したWHO発行の『Solid Fact』の編集者の一人であるリチャード・ウィルキンソン氏、各国の健康格差政策にインパクトを与えた「WHO健康の社会的決定要因に関する委員会」の委員のブラン・バウム氏など、健康格差研究の一流の演者が参加する。詳細な内容は、左記二次元コードから同カンファレンスホームページを参照していただきたい。多くの会員の皆さんの参加を得て、公正な医療の実践が国内で大きく広がることを期待したい。

舟越光彦

1987年熊本大学医学部卒業。2016年福岡医療団理事長などを経て、22年から九州社会医学研究所所長。23年第30回国際HPHカンファレンス日本組織員会事務局長。研究テーマは健康格差、ヘルスプロモーション、労働衛生など。