厚生労働大臣
福岡資麿 殿
2024年12月4日
全国保険医団体連合会
医科政策部長 橋本政宏
新たな地域医療構想の策定に向けた要望書
貴職が国民の命と健康、暮らしを守るために果たされますご重責に敬意を表します。
現在、厚労省審議会にて、年末のとりまとめを目指し、新たな地域医療構想の策定に向けた検討が進められています。人口減少により医療需要も減るとして、地域の入院医療機関はじめ医療提供体制を縮小、集約化や再編統合していく方針で議論が進められていることに対して、本会は強い危機感を抱くものです。
アクセスが良い医療機関が必要
認知症のり患者なども増える中、高齢入院患者の頻繁な移動は心身上に与えるダメージ上好ましくありません。一部の(高度)急性期機能は別としても、住み慣れた地域から迅速にアクセスできる地域の中小病院・有床診療所で一貫した治療・療養が受けられる体制が確保されていることが必要です。さらに、社会問題(独居・孤立、貧困など)も抱える入院患者も増える中、地域の介護・福祉、行政サービスなどとも小回りよく連携(又は提供)できる中小病院・有床診療所の役割はますます高まります。
なお、「中山間地域・離島等の医療過疎地域」においては、一般的な病気や怪我などで入院治療ができる地域の実情に応じた「医師が充足した命を守る病院」を設置すること(例えば30分圏域に1カ所)が不可欠である。
地域の病院の多様な機能を活かすべき
急性期対応では、尿路感染、(誤嚥性)肺炎、骨折、心不全など(虚弱)高齢患者に特有な急性期ニーズが急増していくことが見込まれています。高齢患者は心身機能が低下し、複合的に疾患を併発している場合も多くなる一方、急性期の病態は複雑で重症化リスクが高く、容態も急変しやすく、入院中に高度専門医療が必要になることも少なくありません。厳格な個々の入院医療機能(対象患者と治療行為を限定)に特化された病棟・病院では、折々の高齢者の容態に即した適切で迅速な治療に支障をきたしかねません。他の医療機関との連携はじめ地域の実情に応じて、急性期、回復期、療養期などを様々に又横断的に担ってきた、今の地域の病院が果たしている多様な機能・役割を積極的に支援・評価していくことが必要であり、合理的・効果的です。
医療・介護は重要なインフラ
医療機関、介護・福祉事業所は、生活を支える重要なインフラの一つです。生活基盤となるインフラが集約(消滅)されていけば、地域に住むことは不可能になります。結果、都市部の過密化にも拍車がかかります。“人口減少”を前提にした地域のインフラ縮小ありきの政策ではなく、インフラ・公共サービスを積極的に整備して、生活・生業が成り立つ地域の再建こそ図るべきです。
以上を踏まえ、新たな地域医療構想の策定に向けては、中小病院が広域に存立している我が国の医療提供体制の現状や、これら医療機関が果たしてきた役割・機能に寄り添いつつ、地域全体を再建していく観点から、以下の点を十分に踏まえていただくよう要望いたします。
記
1.地域医療構想(及びガイドライン)については、病床・病院の削減、医療費抑制ありきではなく、住み慣れた地域で最期まで安心してすごせる医療提供体制の確保を基本理念に据えること。
2.患者・住民の声を丁寧に踏まえ、地域の潜在的な医療需要(受診ニーズ)や地理的特性なども考慮しつつ、医療アクセス(5疾病・6事業、及び在宅医療、歯科医療など)を確保していく方針を根幹に据えること。
医療アクセスに関わっては、在宅医療又は入院医療について、患者・家族ができる限り選べる体制を保障すること(連携する介護提供体制のあり方(在宅、又は入所)についても同様)。
「中山間地域・離島等の医療過疎地域」に、一般的な病気や怪我などで入院治療ができる地域の実情に応じた「医師が充足した命を守る病院」を設置すること(例えば30分圏域に1カ所)。
3.地域医療構想(及びガイドライン)は、引き続き医療提供体制再編に係る参考指針に留めて、当該地域で目指す将来像を縛るような位置付け・運用とはしないこと。
4.今後の地域医療提供のあり方(病床や医療機能の転換など)について、都道府県・国や保険者などによる権限の強化(規制的・強制的な手法)はしないこと。
あくまで、地域医療構想は、地域の医療機関・関係者(新規開業含め)、患者・住民、行政などが必要な医療を確保するため自主的に協議して取り組んでいく仕組みに留めること(※医療行政における住民自治の保障)。
5.患者の希望(在宅、入院の間での選択)や地域の実情(例えば、人口・世帯構成、気象、風土・文化、交通網、産業構造など)に応じて、入院・外来・在宅などで医療提供のあり方が様々に異なってくる事情を尊重すること。
①人口減少を前提とした受療率推移に基づいた病床数の機械的な推計は行わないこと。
②全国一律的な目標の設定を課さないこと。例えば、療養病床の入院受療率の「地域差の解消」「医療区分1の患者の70%削減」、「在宅医療の目標とする必要量」や短期入院手術等の外来移行促進など。
③地域の医療機関について、急性期病床の削減はじめ集約化・再編統合を想定した「医療機関機能」(※)に押し込むような設定・運用、法令改正などはしないこと。
(※)厚労省は、医療提供に関わって、「急性期拠点機能」、「高齢者救急等機能」、「在宅医療連携機能」、「専門等機能」など4類型を示している。
④病床削減に向けて、進捗目標含めPDCAサイクルを設定・強要しないこと。
6.医療従事者の働き方改革、新興感染症対応や災害時医療などにも十分に対応できるよう、施設基準(人員配置など)、病床回転(利用率、稼働率)などについて、「余力と備え」を持った入院医療提供体制の水準を設定すること。
あわせて、必要な医療・介護従事者が確保できるよう、働き方改善等にも配慮した観点から各種需給推計を抜本的に見直すとともに、各種専門職の計画的な育成・増員を進めること。
7.「かかりつけ医」機能の発揮・充実に向けて、報告制度等(※)を通じて、地域医療に混乱を招かないようにするとともに、地域の医療機関・医療団体、患者・住民の声にきめ細かく配慮した支援を行うこと。
8.医療現場の働き方改善も考慮した上で、医療経営の安定性・継続性が担保されるよう、診療報酬、補助金、税制などを抜本的に改善・充実すること。
9.都道府県において、医療現場(住民生活含め)と医療政策に通じた人材を確保・育成すること。とりわけ、新たな構想で盛り込まれる在宅医療・介護行政を中心に担う市町村に対して十分な支援を行うこと。
10.「病床機能報告」「かかりつけ医機能報告」などについて、医療現場のデータ整理・提出に係る負担を極力軽減すること。
11.地域の住民、医療関係者を無視した病院再編統合計画について凍結・撤回すること。
424 公立病院等一覧(現在436 病院)のような、再編・統合を求める医療機関リストは作成・公表しないこと。
以上