内閣総理大臣 石破 茂 様
厚生労働大臣 福岡資麿 様
高額療養費制度の「見直し」は「一部修正」ではなく撤回を
命綱の制度を断ち切らないで
2025年2月10日
全国保険医団体連合会
会長 竹田 智雄
患者が支払う医療費負担限度額(高額療養費制度)を今年8月から段階的に引き上げる「見直し」について、2025年政府予算案に盛り込まれ、国会での審議が行われています。今回の負担限度額引き上げはすべての年代、すべての所得階層が対象とされており、文字通り高額療養費制度を利用する1250万人全員に大打撃となります。その引き上げ額も、70歳未満の現役世代の年収650万円から770万円の階層では、最終的に1.7倍(2027年8月から)、5万円もの大幅な負担増です。当会が子どもをもつがん患者の団体「キャンサーペアレンツ」有志と共同で行った調査では、半数が病気で収入が減る上に、治療(年50万~100万円が4割)と子育てにお金がかかり、現状でも家計は厳しい。これ以上医療費の負担が増えれば、5割が「治療中断」、6割が「治療回数減」を考えると回答しました。子どもの進路変更も検討しなければならない状況に追い込まれるとの回答も5割に及んでいます。高額療養費制度は、がん患者をはじめ重篤な患者にとってまさに命綱であり、今回の制度「見直し」は、それを断ち切るに等しいものです。
今回の制度「見直し」を決定するにあたって、厚労省は、制度利用者の収入減少、医療費支出、受診抑制を含む影響など、実態調査をまったく実施していません。患者団体などの声に押されて、福岡厚労大臣は、「がん患者など当事者の声も真摯に受け止めながら、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう努めていきたい」と述べ(2月4日大臣会見)、与党も高額療養費制度の「多数回該当」の引き上げを見直すなど一部修正を検討していると報じられています。多数回該当の利用者は155万人、外来特例を除く高額療養費制度の利用者は795万人と明らかにされており、多数回に該当しない利用者(年1回から3回)は、640万人(795万人-155万人)になります。これらの利用者の多くは、所得区分に応じた上限額に加え、かかった医療費の1%を追加で支払う必要があり、すでに相当な経済的な負担となっています。また、副作用による休薬などで「多数回」にならない場合もあり、長期療養=「多数回該当」というわけではありません。制度を利用している患者の治療費支出や家計の支払い余力など何ら調査することなく、長期の患者だけ配慮することで「解決」とすることは、患者間の新たな分断・軋轢を生むだけです。
そもそも重篤な疾患で治療を継続している患者にさらなる負担を強いて、財源を捻出するという手法そのものが社会保障の概念とは相いれないものであり、公的医療保険の仕組みを根幹から突き崩すものです。負担増で「治療を断念せざるを得ない」と思わせているだけでも、今回の制度改悪に大義も道理もありません。全世代に打撃となる高額療養費制度の「見直し」は直ちに撤回すべきです。