第105回 処方箋が処方薬に交換できない時代へ

勤務医コラム 第105回 処方箋が処方薬に交換できない時代へ

新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に悩まされた年末年始を経て、花粉症も始まった今日この頃です。
小生は、脳神経内科医師です。当科の疾患で最初に供給不安定になったのは、ギラン・バレー症候群などで治療に用いる、人免疫グロブリン製剤でした。その後、パーキンソン病薬や、せき止めや高血圧の薬など、手に入りづらい医薬品はおよそ3800品目、医療機関で処方される薬の30%近くまで増えています。薬の供給不安定がもう4年以上続き、第1選択薬が不足していて使えないことで、本来早く治るべき病気が早く治らなくなってしまっている現状があります。

淘汰される時代

先日ビタミンB混合錠剤を処方した患者さんについて、調剤薬局から「ビタメジンB25は製造中止になりました。他剤への変更許可をお願いします!」と電話が入りました(後発品不可にはしていない処方箋です)。新規開業されたポイントがもらえる全国チェーンの調剤薬局でしたが、薬品卸から薬剤が来ないのを製造中止(現在限定出荷中)と発言したことを指摘すると、「他の調剤薬局に行くよう伝えます」との回答。無事、門前の薬局で処方されたようです。私が指摘しなければ、処方内容を守れなくなった時代になってしまったことにがくぜんとしました。
このように薬剤の流通状況等を知らないと、必要とする薬剤を処方されなくなった時代にわれわれが生きていることを、患者さんである国民は知らぬままに、淘汰されてしまう時代にいることを自覚せねばならないと感じました。なお生成AIでも、“ビタメジンBの全剤形の出荷が停止されている”との誤情報を出してしまうことがあります。生成AIより、われわれの方が正しい情報を持たないと、これからの時代は生きていけないようです。

『全国保険医新聞』2025年2月15日号

中村 起也

広南病院・神経内科医師。認知症や、パーキンソン病など神経変性疾患を中心に診療。日本神経学会専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、介護支援専門員、医療福祉連携士。宮城協会副理事長。保団連勤務医委員会委員。